第41話 王都魔術師ギルド
昼食後、僕とホーステイルのメンバーは魔術師ギルドに向かった。
魔術師ギルドは王都の東側の中央にある。
魔術師ギルド周辺には、魔道具屋や魔術師用の装備屋などのお店がいくつも見受けられた。
(おお。魔道具屋がある。行ってみたい)
「ここが魔術師ギルドですぅ」
ウェンディーに案内された場所には、木造建築の立派な屋敷が立っていた。
周囲は石造りの建物ばかりなので異彩を放っている。
「へえ。冒険者ギルドは石造りだったけど、魔術師ギルドは雰囲気のあるかっこいい木造の建物なんだね。3階建てかあ。しかも大きい」
「はい。魔術師っぽいですよね」
「そうっすね。
早速、魔術師ギルドにみんなで入る。
建物の中は薬品の匂いなのか独特な匂いがした。
「暗いね」
魔術師ギルドの室内は、受付の場所に魔道具の明かりがあるくらいで薄暗かった。
「では、魔術師ギルドに入会してきますね」
「うん。いってらっしゃい」
さすがにこの短期間では金貨3枚は貯められなかったので、僕が貸しておいた。
早めに魔法使いになってもらったほうが、パーティーのためにも彼女のためにもなると思ったからだ。
僕たちは壁際でウェンディーを待つことにした。
魔術師ギルド内を見渡すと雑貨屋があり、小物の魔道具が揃っていた。
(魔力紙もあるな。文房具屋みたいだな)
ウェンディーは受付で何やら手続きをしている。
10分ほどで手続きが終わったようで、こちらにやってきた。
「おまたせしましたぁ。無事魔術師ギルドに入会出来ました。これが魔術師ギルドリングですぅ。冒険者ギルドカードと同じく身分証にもなっていますぅ」
ウェンディーが右手の薬指に
紋様が施された銀色のワイドリングには、赤い宝石が3つ輝いていた。
「それが魔術師ギルドリングか。格好いいね。いよいよ魔法使いになれたんだね」
「はい。でもまだ魔法を使えないんですぅ」
「え。そうなの?何で?」
「魔法を購入してないので」
「えっ。購入するんだ。そういえば、魔法の仕組みを知らないな。とりあえず、お金貸すので何か購入してみて」
「ありがとうございますぅ。初級魔法で小金貨1枚からですぅ」
ウェンディーが申し訳なさそうにしている。
「気にしないで。君たちのパーティーには必要なことだから。はい。これ。それで何が買えるの?」
「はい。第5級は初級の火水風土無の5属性の中からですね。ランクは冒険者ギルドと連携してますぅ」
「へえ。ほかには何があるの?」
「それぞれの中級魔法ですね。ランクが上がらないと他の属性は公開されないのですぅ。しかも上級はこのリングでは発動できません。魔術書が必要になってきますぅ。ちなみに第1級になると禁忌に指定された魔法を閲覧できるそうですぅ」
「そうなんだ。すごい魔法なんだろうね。それで何属性にするの?」
「水属性にしますぅ。他はお金をためて増やしていきますぅ」
「そうか。じゃあ購入してきな」
「はい」
ウェンディーは再び受付に向かい、何やら手続きをして無事魔法を購入出来たようだ。
「今日はこれで終わりなの?」
「いえ。これから魔術講習がありますぅ。ですのでお先に帰っててください」
ウェンディーは手に持っていた分厚い本を見せてくれた。
「何それ?」
「基礎の魔術書ですぅ」
「魔術書?リングがあったら魔法が使えるんじゃないの?」
「そうなんですけど、魔術の基礎を覚えないと初級魔法ですら差が出るんですぅ。魔術の理解度や魔力の操作を滑らかにして熟練度を上げないと成長しないのですぅ」
「へえ。そうなんだ」
「はい。それに上級に進むためには魔法発動のための魔力の配置や魔法陣の仕組みを理解しないといけないんですぅ。魔法陣は魔力の流れを制御し魔力現象に変換するためのものですから」
(さっぱり意味が分からないが、ウェンディーが楽しそうだな)
「そう。じゃあ冒険者ギルドに行ってから帰るね。あとで魔法についていろいろ教えてよ」
「わかりましたぁ」
ウェンディーを魔術師ギルドに残し、僕たちは冒険者ギルドに向かった。
「セイジさん。どんな依頼を受けるっすか」
「ん?ダンジョン関係かな」
「ダンジョン!?」」」
「うん。ようやくみんなの準備が整ったんだ。冒険者なら行っとかないとね。お金を稼がないとだし」
「ダンジョン・・・」」」
「王都周辺には3つあるんだよね?」
「はい。3つとも新人向けっすね。全部攻略済みっす」
「攻略されてから時間がたってる。もうお宝はないんじゃないか?」
「・・・ダンジョン・・・わくわく・・・」
「どこがおすすめなの?」
「そんなに詳しくないっす」
「同じく。わからないな」
「・・・へい・・・」
「じゃあ。冒険者ギルドでダンジョンの情報を買おうか。どこに行くかはウェンディーが戻って決めよう」
「はいっす」「ああ」「・・・へい・・・」
冒険者ギルドに行き3つのダンジョンの基本情報だけ購入し、依頼は見ずに帰宅した。
しばらくしてウェンディーが帰ってきた。
「おかえりウェンディー。講習はどうだった?」
「ただいま戻りましたぁ。そうですね。魔術について基礎的なことを教わりましたぁ」
「どんなこと?」
「魔法の仕組みや魔力の操作や感知などの練習方法ですね。これらができないと成長できないですぅ」
「へえ。そういえば何でウェンディーは魔法使いになろうと思ったの?才能の有る無しって本人がわかるものなの?」
「魔力を感じられたら素質があるみたいですよ」
「ウェンディーは魔力を感じたから魔術師ギルドでお手伝いしてたんだ」
「そうですぅ。例えばセイジさんには変な魔力を感じますぅ。すごく薄いので近づかなかったら気付かなかいほどですよぉ。最初は体に掛けてるポーションの魔力のせいかと思ってたですぅ」
「え。そうだったの」
(姫様の結界かな)
「魔力ってどんな感じなの?」
「そうですねぇ。言葉にするのは難しいですが・・・透明な霧ですかねぇ」
「確かに難しいね。それを感じて操作するわけだ」
「そうですぅ。講習の時教えて貰ったのですが、必要な量の魔力を決められた道筋で動かさないといけないそうですぅ。そうすれば魔法が発動するそうですぅ」
「いいなあ。僕も魔法使ってみたかったよ」
「え?セイジさん、魔法使ってるじゃないですかぁ」
「そうっすよ」
「あ。もっといろいろな魔法って意味ね。あはは。ところで魔力ってどこにでもあるし誰でも持ってるんだよね。魔法使いにならない人の魔力って何か使い道ないの?」
「はい。なのでみんなにも魔力を使った訓練をしてもらおうと思いますぅ」
「わたしもっすか!?」「!?」「・・・!?・・・」
「へえ。どんなことするの?」
「魔力による身体強化ですぅ。これは魔法ではなく肉体および感覚器の強化ですぅ」
「そういうのもあるのか」
(超能力の身体強化と似たようなものか)
「人や獣人は魔力量が多くありませんから重要な能力ですぅ」
「そうだよね。魔獣と戦わないといけないんだもんね」
「そうですぅ。冒険者の強者の中には、教えられなくても無意識に使用している人が いるらしいですぅ」
「なるほど。じゃあ魔法について質問していい?」
「はい。いいですよぉ」
「魔法を購入したらどうやって使えるようになるの?」
「魔法は魔法紙の状態で購入できますぅ。魔法紙に魔法の発動に至る魔力の流れが描かれていますぅ。いわゆる魔法陣ですぅ。その魔法紙に購入者が設定した呪文を記入して、魔法紙の情報を魔術師ギルドリングに読み込ませますぅ。呪文には定型文があるので考えなくてもいいですぅ。読み込んだら魔法紙は消えますぅ。その呪文を唱えたら魔法が発動しますぅ。そのとき体内の魔力が消費されますぅ」
「へえ すごい技術だね。それでどんな魔法でも買って使えるの?」
「購入自体はできますぅ。でも例えば上級魔法は魔術書の状態で購入するんですが、高価ですし難解ですし魔力量も多いのですぅ。今の私では購入できたとしても魔法を発現出来ません」
「購入だけはできるのか」
「はい。でもたくさん魔法を購入しても、たくさんの呪文を覚えないといけないので大変ですぅ」
「高価な奴一つじゃいけないの?」
「そもそも上級魔法は中級魔法と初級魔法の上に成り立つので、上級だけでは成立しないのですぅ」
「そうなんだ。それぞれの魔法の呪文を完璧に暗記してないととっさに使えないね」
「ですぅ」
「ところでそもそも魔法って誰が考えてるの?どんな魔法でも最初の魔法発動者がいるはずだよね?」
「諸説ありますが、遥か昔、魔獣が魔法を発動しているところを魔力の流れが見える人が目撃し、それをもとに人が使えるように研究したらしいですぅ。その結果簡単な魔法陣が生まれ、それらをいくつも組み合わせた魔術書を使って何とか魔法が発動出るようになったそうですぅ。その後、魔術師ギルドがリングを発明してから魔法の環境が激変したのですぅ。魔術書なしで魔法が使えるようになったのですぅ。世に言う魔術革命ですぅ。余談になりますが、そのことで魔術師ギルド内部でリング容認派と魔術書派の対立が起きていろいろ事件が起きたのですぅ」
「へえ。そのリングで革命が起きたのか」
僕はウェンディーの指で輝いているリングに目が行った。
「はい。それまでは一部の人しか魔法を使えなかったのですが、リングのおかげで誰でも使えるようになったのですから」
「だれでも?魔術を理解してなくてもってこと?」
「はい。リングには中級までの魔術書の内容が入力できますぅ。初級魔法に関しては、術者が呪文を唱えるとリングが術者の魔力を勝手に操って魔法が発現するんですぅ」
「おお。ほぼ自動なんだね」
「そうですぅ。でもリングに頼っていては魔術師として成長しないんで勉強しないといけないんですぅ」
「なるほどね。昔はリングが無くても魔法を発動させてたんだもんね」
「そうなんですぅ。それで魔法開発に関してですが、魔術師ギルド内に魔法開発機関があるらしいですぅ。魔術師ギルドで新魔法の買取もしてますぅ」
「へえ。そうなんだ。研究もしているのか。そういうことはなしに神的な存在が誰かに教えたのかと思ってたよ」
「そういう説もありますぅ。神ではなく白竜様ですが」
「竜か。一度見てみたいな」
「王国の北東にある白の大地と呼ばれている場所におられるらしいですぅ。かなり遠方ですが」
「おお。いってみようかな」
「死んじゃいますぅ」
「・・・やめておこう」
「それがいいとおもいますぅ」
「魔法使いっていろいろ大変だね。お金かかるし」
「ですぅ。私もいつか新魔法を開発して魔術師ギルドに高く売りつけるのですぅ」
「そうなんだ。名声を得たいとかじゃないんだね」
「名声じゃあ、おなかは満腹にならないのですぅ」
「あはは。そうだね。そういえば魔法を発動させるのに呪文の詠唱が必要なんだよね」
「はいですぅ。呪文の詠唱はリングに込められた魔法の発動のための符号みたいなものなんですぅ」
「なるほど。合言葉か。無詠唱はないの?」
「ありますぅ。魔法の発現に至る魔力の流れを自ら再現出来たら発動できますぅ。私もいつかはできるようになりたいですぅ」
「へえ」
「ちなみに魔道具を使うのにリングは必要ないですぅ。魔力を込めるだけですぅ」
「生活必需品を使うのにいちいち魔術師ギルド登録するのも面倒だしね」
「魔道具は魔法の効果が限定されてますからね」
「魔法は危ないもんね。それじゃ杖は何なの?」
「基本的にリングの補助魔道具ですかねぇ。魔力量や魔法の威力や精度が上昇したりするそうですぅ。使いこなせないと無駄ですけどねぇ」
「熟練者向けなんだ」
「はい。私も早く杖や魔道具の指輪が欲しいですぅ」
「うん。依頼頑張ろうな。よし晩飯にするか」
「はい」」」」
5人で食事をしていると熊獣人エイミーから質問された。
「そういえばあんたは無詠唱なのか?火とか風とか使ってたよな」
「え?そうだけど僕の能力は魔法じゃないから」
「え?魔法じゃないんですぅ?(そういえばリングを持っていないのに何で魔法が使えるんでしょうかぁ)」
「まあそうだね。いや魔法みたいなものだった」
(たしか僕の超能力は、生命力を使って魔法を再現してるんだから魔法でいいんだよね)
「どっちなんすか」
「魔法で。でも威力的にはまだまだだね」
「そりゃそうっす。威力まであったら反則っす」
「そうだね。反則的強さを手に入れられるように頑張るよ。そうだ。詠唱したほうがかっこいいなら叫ぶよ?」
(・・・!?・・・)
「・・・しなくていいっす」
「叫ばなくていい」
「わかった」
(・・・残念・・・)
なぜだかヒナがしょんぼりしている。
「ウェンディー。近々王都周辺にある3つのダンジョンのうち、どれかに行こうと思うんだ。これからみんなで話し合おう」
「ダンジョンですかぁ。わかりましたぁ」
「じゃあ、3つのダンジョンの説明をするから。みんなよく聞いて考えてね」
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