第40話 一泊二日

護衛依頼当日の朝、僕とホーステイルのメンバーは王都の正門に向かった。


いつものようにアーシェがいたのでみんなでしゃべっていると、依頼人さんが荷馬車に乗ってやってきた。


今回の護衛のリーダーは、もちろんウェンディーだ。


ウェンディーを先頭に依頼人の商人さんのところに行き、挨拶と軽く打ち合わせをした後出発となった。


一泊二日だし王都近郊だからそこまで緊張感はない。


しかし、初めての護衛依頼である彼女たちは違ったようだ。


正門を抜ける前からみんな揃って周囲を警戒している。


前日に依頼人と荷馬車を警護する陣形を話し合ったので、各自その位置に移動した。


ヒナが先頭で右にエイミー、左にイレーナ。後ろが僕。ウェンディーは依頼人の近くを担当することになった。


王都周辺は見通しが良く安全だけど森に近づいてからは、さすがに警戒が必要だろう。


護衛の仕事が本格的になるのは日が暮れてからだろうか。


索敵が優れている獣人の子たちがいるおかげで、後手に回ることはなさそうだ。


危険になるとしたら魔獣が複数出てきたときかな。


護衛5人で荷馬車を囲みながらゆっくり進む。


目的地の村は王都の北に位置している。


僕たちは王都をぐるりと取り巻いている道を西回りに進んでいた。


しばらく行くと王都を囲む城壁が途切れ、王家の管理地である森が見えてきた。


「あれが王家の森かぁ」


「はいですぅ。原則立ち入り禁止ですが、豚ギルドに土地を貸し出したり錬金術師ギルドなどに森の利用許可を出したりしていますぅ」


「へぇ、養豚したり何か採取したりしてるんだね」


「そうですねぇ」


「魔獣とかいないの?」


「いないとおもいますぅ。王国騎士団が訓練を兼ねて森に入っていますから」


「そうなんだ」


しばらくすると道が分かれており、荷馬車は環状の道を離れ北に向かった。


僕たちは、遠くに森を見ながら平原を荷馬車と共にのんびり歩いていた。


後方からみんなを見るとまだ緊張してそうなので、森に入る前に彼女たちの緊張をほぐしてあげようと行動を起こしてみた。


僕は前方に移動しヒナに話しかけた。


「ヒナ。巨大ウサギと戦った時、隠れる技術すごかったね」


「・・・斥候になれるかな・・・」


「ヒナに合ってるかもね」


「・・・へい・・・」


「隠れるときは、自然と一体化するように心がけたらもっとよくなると思うよ」


「・・・へい・・・がんばる・・・」


近くにいるウェンディーにも話しかけた。


「そうだ。ウェンディー。もうそろそろ魔術師ギルドに入れそう?」


「いえ。まだまだ時間がかかりそうですぅ」


「そうかぁ。金貨3枚は大金だもんね」


「ですぅ・・・」


するとエイミーとイレーナも会話に参加してきた。


「セイジさん。私たちに盾の訓練をして欲しいっす」

「お願いする。剣で攻撃してくれ。ウサギとの戦いでまったく扱えなかった」

「私もっす」


(盾の訓練かぁ。困ったな。それに剣で攻撃してくれと言われても僕の持っている剣は魔剣だしなぁ。素人が振り回したら危険すぎるよ。素直に言うしかないか)


「・・・訓練するのはいいけど、僕は盾の扱いは得意じゃないんだ。それに剣の方は事情があって緊急時にしか使わないようにしてるんだ」


「え。そうなんすか?でも私の攻撃当たらなかったっすよ」

「そうだ。私たちの攻撃を盾で防いでいたぞ?」


「まあそうなんだけど。えー、この盾と剣は飾りだと思ってください。君たちの盾の訓練方法については考えておくから。訓練は護衛依頼が済んでからね」


「わかったっす」「わかった」


景色が全く変わらない平原を何度か休憩をはさみながら進んでいると、いよいよ森を通る道を進むことになった。


「セイジさん。商人さんが次の野営地で野宿にするそうです」


「わかった」


森の中を進み日が暮れる前に野営地に到着した。


野営地には先客がいて数組の荷馬車がとまっており、野宿をしていた。


僕たちは先客たちから少し離れた場所を陣取り、野宿をすることにした。


商人さんと僕で食事の準備や馬の世話をし、ホーステイルのメンバーが周囲の警戒とまき拾いにいった。


食事も終わり警戒をしながら休憩していたら、いよいよ寝る時間になった。


夜の見張りの順番は最初が僕とイレーナで夜中過ぎまでで、次がヒナとウェンディーとエイミーで夜明けまでという分担になった。


依頼人さんは荷馬車で、僕たちは焚火を囲んで休んでいる。


「初めての野営どう?」


「火の番楽しいっす」


そういいながらイレーナが枯れ木をくべる。


「そう。護衛の方はどう?」


「ん~まだわかんないっすね。みんなと歩いてただけっすから」


「そうだね」


「セイジさんは護衛したことあるっすか?」


「うん。一度だけね。一週間の護衛だった」


「おお。それで王都きたっすか」


「うん。まさか新人冒険者と一緒にパーティーを組むとは夢にも思ってなかったけどね」


「私たちは運が良かったっす」


「僕が来てなくてもアーシェがどうにかしてただろうけどね」


「それはそうっすけど、暇な第3級は中々いないんじゃないっすかね」


「それもそうだね。あはは」


大体4時間くらいたったので、ウェンディーたちと交代することになった。


「イレーナ。そろそろウェンディーたちを起こしてくれる?」


「はいっす」


ウェンディーたちがのそのそ起きてきた。


「何かが接近してきたらすぐ僕たちを起こすんだよ。先客にも注意してね」


「わかりましたぁ」


結局、何事もなく朝を迎えることができた。


日の出とともに出発し、昼頃に森を切り開いてできた村に到着することができた。


村は立派な木の壁で囲まれていて、そこそこ大きかった。


村の周囲には簡単な木の柵で囲まれた農地が広がっていた。


商人さんの店まで行き無事護衛依頼がおわった。


この村には冒険者ギルドがなかったので、護衛依頼完了証を受け取り別れた。


「ウェンディー。これからどうする?」


「そうですね。食事をしてすぐ帰りましょうか。みんないいですかぁ?」


「ああ」「はいっす」「・・・へい・・・」


「わかった」


僕たちは屋台で野菜たっぷりシチューを食べ、すぐ村を出た。


僕たちは行きに寄った野営地で再び野宿することになった。


みんなで枯れ木を集め僕が火を起こした。


食事は乾パンなど簡単なもので済ませた。


(調理道具買うの忘れてたな。次からは往復の護衛依頼を受けることにしよう)


夜番は最初が僕とヒナ。次がウェンディーとエイミーとイレーナに分かれて行った


「・・・ししょー・・・」


(珍しいな。ヒナから話しかけてくれるなんて)


「何?」


「・・・斥候・・・上手くなりたい・・・助言求む・・・」


「そうだなぁ」


(助言と言われてもなあ。困った。斥候・・・忍者みたいなものか?)


しのんでみて」


「・・・へ?・・・」


(あら。まあ伝わるわけないか)


「自然と一体化だ」(また同じこと言っちゃったよ)


「えーっと。木の気持ち、石の気持ちと同化し、己を消すんだ」


「・・・へい・・・」


「移動は忍び足でね」


「・・・しのびあし?・・・」


「出来るだけ音を立てずに歩くのだ」


「・・・へい・・・」


「まずは偵察からだね。敵を先に見つけることが重要だ。戦う方は後回しでいい。そうすればパーティーの生存率が上がる」


「・・・へい・・・がんばる・・・」


「うん。無理はしないでね。みんなと相談しながら成長していこうね」


「・・・へい・・・」


その日の野営も何事もなく終わり、無事に王都に帰ることができた。


そのまま王都冒険者ギルドに向かい、依頼完了報告を済ませ家に帰って寝た。


(彼女たちの盾の訓練方法を考えないとな)




翌朝。僕はイレーナとエイミーと盾の訓練をすることにした。


護衛依頼の疲れもあるかもしれないから、今日は依頼仕事をお休みにすることにした。


ヒナとウェンディーは見学だ。


昼からはウェンディーたちと一緒に魔術師ギルドに行く予定になっている。


僕が連れて行ってくれとお願いした。やることがあるからね。


「何で朝からっすか。眠たいっす」


「魔獣はいつでも襲って来るよ」


「わかったっす。それで何するんすか」


「盾の訓練だよ。一人ずつ盾を構えて準備して。どちらからやる?」


「わたしから」


「エイミーか。よし。ポーション球を高速でぶつけるから盾で防いでみて」


「・・・ポーション?どういうことだ?」


「最初は軽くやるから、とりあえず準備して。すぐわかるから」


「・・・わかった」


僕は、ポーション球8個とポーションを垂れ流している状態のひょうたんを宙に浮かせた。


「あああ。ポーションがぁ・・・」


ウェンディーが悲嘆ひたんに暮れている。


「相変わらずもったいない状況っすね」


「そうだね。僕もそう思うけど訓練のためなんだ。準備はいいかい、エイミー」


「ああ。いつでも」


エイミーは盾を体の正面にかまえ右手に剣を持っている。


「攻撃してきてもいいよ」


「あんた、盾を持ってないじゃないか」


「いいんだ。僕の戦い方を少し見せてあげようとおもってね。君たちの全く参考にならない戦い方をね」


「そうかい。それは楽しみだ。ぶはっ」


高速で射出されたポーション球がエイミーの顔面に直撃した。


「隙だらけだよ、エイミー。緊張感を持たないとすぐ死んじゃうよ」


「っく」


僕は続けざまにエイミーに向けてポーション球を発射。


二発目からは威力を上げている。


ドッッ


エイミーがポーション球を今度は盾で防ぎ、ポーションがはじけ飛ぶ。


衝撃でエイミーの持っている盾の位置がずれる。


「こぶし大のポーション球でも意外と衝撃あるでしょ。見た目で判断すると痛い目にあうよ。威力を確かめるまで勝手な想像をしてはいけないよ」


しゃべっている間も僕はポーション球を発射し続けている。


ポーションはひょうたんから垂れ流しているので、ポーション球の補給はすぐできる。


「ああ。理解した」


僕はポーション球を直球で飛ばしているので、エイミーもだいぶ慣れてきて盾でしっかり受けることができるようになっていた。


エイミーがじわじわ前進してきていて、殺気に満ちた目で僕をにらんでいる。


(僕をヤル気満々じゃないか。少しは遠慮してほしい。でも・・・)


僕は飛ばしたポーション球を操作する。


「キャッ」


操作したポーション球は、盾をよけてエイミーの顔面に直撃した。


「可愛らしい悲鳴を初めて聞いたね。無理しなくていいんだよ。エイミー」


「っっく。うるさいんだよっ」


その後、直球と変化球を織り交ぜたポーション球の攻撃にエイミーは全く対応できず、そのまま時間切れとなった。


(ポーションで攻撃したら衝撃だけでダメージゼロなのかな)


「次。イレーナね」


「・・・はいっす」


イレーナもエイミー同様対処できなかったが、避けるのはうまかった。


「おーい、イレーナ。盾の訓練したかったんじゃないの?すごいけど」


「無理っす」


「まあ、全部盾で受ける必要はないか。イレーナは避けること前提でもいいかもね」


「はいっす。避けられないやつだけ盾で何とかするっす」


「うん。それじゃ今日の訓練はこれで終わりにしよう。お昼ご飯食べたらみんなで魔術師ギルドに行こう」


「はいっす」「ああ」「はいですぅ」「・・・へい・・・」


「結局セイジさんの戦い方見られなかったっすね。悔しいっす」


「また今度ね」

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