第39話 実践と発見

「わたしたち、ホーステイルの初護衛依頼が決まりましたぁ」


「おめでとう」


パチパチパチパチパチ。みんなで拍手して喜び合った。


「じゃあ早速、依頼内容について教えてくれる?」


僕は家の中でウェンディーから護衛依頼について聞いた。


依頼主は商人で岩塩を近隣の村まで運ぶそうだ。


依頼内容は掲示板に貼ってあった依頼書とほぼ同じで、王都を早朝に出発し、次の日の昼頃に村に到着予定で、護衛中の食事は依頼主が用意するという。


「なるほど。交渉がまとまってよかった」


「まとまらないことなんてあるっすか?」


「うん。ランクが気に入らないとか。いろいろあるみたいだよ」


「そうなんすか。セイジさんがいれば平気っすね」


「そうかもね。ところで受付さんも交渉の場にいたの?」


「はい。私たちは初めてでしたから、こちらからお願いしましたぁ」


「そうなんだ。受付さんと仲良くしてるんだね」


「はい。セイジさんと担当さんは一緒ですぅ。一応パーティーですからね」


「え。担当があるの?」


「はい。王都は冒険者が多いからじゃないですかねぇ」


「なるほど。いつの間にか決まっていたのか。まあいいけど」


「そういえば、私たち野草採取の依頼ばかり受けてたから、担当さんに「君たちのクランが出来たら、野草採取専門になりそうだね」って言われましたぁ」


「そうなんだ。それもいいんじゃないかな。一つ特徴があったほうが他と差別化できてさ」


「はい。安心できますぅ」


「それでさ、今日は依頼を休むとして護衛依頼は明後日だから、明日は狩りをすることにしない?」


「!?」」」」


「そんなに緊張することはないよ。対象はウサギか猪だから。場所はいつものあの森の奥ね。もし狩りが出来なくても採取ができるからね」


「はい。わかりました」「わかった」

「やるっす」「・・・へい・・・」


「よし。じゃあ。いつものニンニク入り野菜スープ食べに行こうか。今日は魚の干物を用意してあるから」


「やったっす」「・・・お肉・・・」


食後は解散となり、僕はひとりで回復ポーションを調べに冒険者ギルドに向かった。


冒険者ギルド内にある雑貨屋に行ってみると、確かにポーションが置いてあった。


ポーションは試験管みたいな容器に入っていた。


(お、あった。お値段は・・・)


薬草ポーション 小金貨1枚

回復ポーション 金貨1枚


(お高いですね。薬草ポーションってのもあるのか。そもそもどの程度の効果があるのだろうか)


お店の人に聞いてみた。


「薬草ポーションは薬草のみで作られており、軽度の傷を瞬時にふさいでくれます。回復ポーションは薬草と魔力精製液で作られてまして、命の危機のない重症の怪我まで治癒できます」


「それ以上のポーションはないんですか?」


「残念ながら今だ作られていませんね。上級回復魔法が開発されないと無理かもしれません。薬草を使わない魔力のみでの完全回復ポーションでしょうから」


「なるほど。ちなみにポーションを使い終わったら容器はどうしたらいいんですか?」


「容器は砕いてもらって構いません。そうすると消滅しますので」


「ああ。魔力紙みたいにですか」


「そうです。ポーション容器も魔力製です」


「丁寧に教えてくれてありがとうございました」


僕は薬草ポーションと回復ポーションを一本ずつ買い、冒険者ギルドを後にした。


(キングフィッシャーのみなさんが持ってたのは、薬草ポーションだったんだな)


お酒入ってたけど。




その頃、王都冒険者ギルドのギルドマスター室に、セイジとホーステイルを担当した受付嬢が訪れていた。


「お呼びでしょうか。ギルドマスター」


ギルドマスターと呼ばれた男は、背が高く細身で上品な雰囲気を持つ人物であった。


ギルドマスターはきれいに整頓された大きな机に座っていた。


机の上には一枚の書類が載っていた。


「君が、あのウイロウ領地第3級の担当をしているのですか」


「はい」


「それで、彼は王都に来てからどのような活動をしているのですか?」


「今までのところ新人冒険者と組んで薬草採取や獣の狩りをしています。たった今、護衛依頼を受けたところです」


「なるほど。ところで新人とは何者ですか?ソロ冒険者との報告を受けていましたが」


「路上ギルド出身の子たちです」


「そうですか。王都に来たので有名クランに加入するのかと思いましたが違ったのですかね。あるいは再びダンジョン攻略に挑むのかと。ずいぶんおとなしい活動ですね。性格の方はどうですか?」


「性格はおとなしめです。金遣いも控えめです」


「ふむ。ということは、第3級なのにいまだ冒険者の間では無名ということですか。実力を隠したいのでしょうか」


「はい。どこのクランにも勧誘されていないようですし、そもそも本人に名をあげるつもりがないようですね」


「そうですか。彼の情報を持っている貴族や豪商もいるようですが、いまのところ様子見のようですね。『女神』には断られたようですし。身元も背後関係も不明の彼を勧誘するかどうか迷っているのでしょう。そもそも彼がどういった欲望の持ち主かわかりませんが。そういえば冒険者パーティー『女神』は、王都を離れたのですか?」


「はい。王国の東部に行くそうです」


「王国で23人目の第1級冒険者の誕生ですか。何年ぶりでしたかね」


ギルドマスターは、机の上に置かれたジェード領領主からの推薦状に目をやった。


「5年ぶりですね」


「それで『女神』と彼の接触はなかったのですね?」


「はい。全く」


「そうですか。彼女や荷物持ちの男と風貌が似ていたので、もしやと思ったのですが。直接の関係はありませんでしたか」


「ギルドマスター。その男は荷物持ちではなく第5級冒険者です」


「ああ、そうでしたね。第1級と第5級の二人組とは面白い組み合わせですね」


「はい。なぜか彼女がほぼすべての依頼をこなしていますので」


「ふむ。しかし、東ですか。もうそろそろあの時期ということですか」


「おそらく。その予兆が起こっているそうです」


「そうですか。第1級が複数名、東部の3領地に揃っているのです。なんとかしてくれるでしょう」


「そう願います」


「状況に変化があれば都度報告を」


「はい」


その日、王都冒険者ギルドから新たに第1級冒険者が誕生したことが発表された。




次の日、早朝から狩りのため浅葱あさぎの森に向かうセイジたちの姿があった。


「向かうのはいつもの森けど少し奥に行くよ」


「はい」」」」


休憩時、購入した武器をなじませるため軽く模擬戦を行った。


「遠慮せず打ち込んで来て。一人ずつね」


本当に遠慮なく打ち込んでくる獣人の3人。


木の棒から金属製に武器が変わったが、まだ物理結界を破壊するには至らなかった。


「おわり。少し休んでから行こうか」



浅葱あさぎの森に到着し、奥に向かう道すがら、偶然見つけた薬草を採取しながら奥へ向かう。


今日は特に彼女たちの言葉数が少ない。


さすがに緊張してるのか。こういう時こそ僕がみんなの気分を和らげてあげないとな。


「いいかい。戦闘の時に大事なことは絶対に死なないことだ。生きていればなんとかなる」


僕はいつものように人数分のポーションを用意する。


「御覧のようにポーションの準備もばっちりだ。安心して戦うんだぞ」


僕の周りにこぶし大のポーション球が浮いている。


ポーションを二つ、自由自在に動かしてみた。


みんなの反応が薄い。やはり緊張している様だ。3つなら盛り上がったのだろうか。 


一度、魔獣との実戦を経験しないと落ち着かないよね。


彼女たちに周囲の警戒を任せてゆっくり進んでいるが、なかなか獣に遭遇しない。


今日は天気が良く、みんな汗をかいていた。


休憩に入ろう。


僕はそれぞれのコップにポーションを注いでいく。


僕は自分のコップにもポーションを入れ、がぶ飲みする。


「みんな、水分補給は大切だよ。君らも飲みな」


「・・・普通ポーションを水代わりに飲んだりしないですぅ」


「ポーションをそんなに飲んで平気なんすか?」


「どうだろうね。前にも言ったけど一か月ほど森をさまよっていたとき、ポーションと野草を食べて過ごしたんだ。だから多分平気だと思うよ」


「どんな生活してたっすか」


「お金持ちなのか貧乏なのか、わからないですぅ」


「・・・ししょー・・・一か月山奥で修業・・・だから強い・・・」


「まあ。修行と言えば修行か」


望んでなかったけど。


休憩後、森をうろうろしているとようやく獣の反応があった。


「・・・いた・・・」


ヒナの索敵能力が高い。斥候に向いてるかもね。


茂みから現れたのは、この森で今まで見たこともない巨大なウサギだった


「みんな気を付けて。相手をよく見るんだ」


大きいし毛が長いな。魔獣化したウサギかな?


僕は彼女たちの後ろで戦闘を見守る。


「お互いに声を掛け合うんだ。落ち着くよ」


熊獣人エイミーと犬獣人イレーナが、盾を構えてじりじり前に出る。


ウェンディーは後ろに控える。


ヒナは迂回して巨大ウサギの横に移動している。


(おお。ちゃんと考えて行動してる。予行演習してたんだな。僕もちょっと試したいことがあったんでやってみよ)


それはテレパシーだ。


付与されているはずなのに、今まで使うことが出来なかったけど、先日、偶然にも感じることが出来た。


ヒナだ。ヒナが僕の間近に来た時に、彼女の小さな感情の欠片かけらを感じることが出来た。


たぶんテレパシーが発動したのだろう。


僕の意思を彼女に伝達していなかったと思うので、ヒナに何も伝わっていないと思うけど。反応がなかったし。


なぜ僕が意識してないのにそのような状態になったのか。


ヒナに触れていないのに発動したということは、やはり鍵となるのは結界だ。


物理結界ではない結界があるはずだと予想した。


その中にヒナが入ったことで、テレパシーの準備が整ったと考えるのが自然だろう。


姫様が僕に初めて出会った時に付与したのは結界だった。


物理結界を展開していない時に白蛇のバニラに指摘されたのも結界だった。


僕には僕が知らない何かしらの結界が常に展開しているのだろう。


その結界が超能力発動のための基盤となっているのだと思う。


僕はテレパシーを意識して結界を広げる想像をする。


物理結界ではない結界が展開していく感じがした。


すると彼女たち全員がその結界内に入った。


そして彼女たちの精神を感じることができた。


これがテレパシーがつながった状態ということでいいのかな。


僕の思考を伝達させる必要はない、相手を感じられればいいんだ。


突然僕の声が脳内に聞こえてきたら怖いからね。


やはり、テレパシーの有効範囲は結界内ということか。


このテレパシー用の結界で索敵も可能になるのかな?


あとはこの結界をどれだけ広げられるかだけど。


今のところ直径20mくらいかな。・・・狭いな。

 

彼女たちの戦闘の様子を全く見ていなかった僕の耳に戦闘音が響いてきた。


ドッ


「っぐう」


巨大ウサギがエイミーに突撃して盾にぶつかった。


力負けしたようでエイミーの態勢が崩された。


巨大ウサギもダメージを受けたようで動きが止まる。


その隙に、イレーナが接近し剣を叩きつけるが巨大ウサギにかわされた。


(みんなの動きが硬いな。緊張するよね。何とか助言したいけど、どうしたら。あ、そうだ。戦闘経験はないけどサッカー経験はあるんだから、それを生かせばいいじゃないか)


僕は声をかける。


「落ち着いて。魔獣との戦いはやるかやられるかだ。やるときめたら躊躇ちゅうちょせずとどめを刺すんだ。やれる時やらないと逆にやられるよ」


今度はイレーナが巨大ウサギの突進を受けたが見事にかわしている。

 

盾を放り出していたけど。


さらに僕は続ける。


「魔獣に隙を見せないで。いつでもやれると油断していると一気に流れを持っていかれるよ。守勢に回ったら挽回するのは難しい。相手のスキを突き一気呵成いっきかせいに攻めまくるんだ」


彼女たちの表情が厳しいものになっている。


エイミーとイレーナが肩で息をしている。


ウェンデイーは真剣な表情で戦いの様子を見守っている。


あれ。ヒナがいないな。そういえば隠れるのが得意と言ってたな。


テレパシーで反応を探る。


(いた。ヒナは他の子と比べて反応が薄いな)


ドッ


エイミーが剣を捨て、盾を両手で支え巨大ウサギの突進を受け止めた。


今度は巨大ウサギの衝撃を耐えたようだ。


さすがに巨大ウサギもダメージが大きいようでふらついている。


「もらったっす」


そう言いながらイレーナが止めを刺そうとした。その時。


突如、陰から現れたヒナが巨大ウサギにダガーを一閃いっせん


「ああ。ヒナに先を越されたっす。でも甘いっす」


まだ息があった巨大ウサギにイレーナが止めを刺した。


ヒナの一撃は浅かったようだ。


「おお。みんなお見事」


「やったっす」「やった」「倒したですぅ」

「・・・みんなで・・・練習した・・・」


「そうか。みんな頑張ってたんだな」


見るとエイミーとイエーナは座り込んでいた。


「体中ボロボロだな。待ってて」


僕は、用意していたポーション球を操作し、2人にぶっかけた。


「ぶほっ。なにすんだ」

「ぎゃっ。何するんすか。ぶつけなくてもいいじゃないっすか」


「あ。ごめん。いつもの癖で」


「どんな癖っすか。でもまあ。ありがとっす」

「ああ。助かった」


彼女たちは、早速自分たちだけで仕留めた巨大ウサギの解体を始めた。


「お。なんだか手際が良くなってるな」


「まだまだっす。魔獣だから適当に解体してるだけっす」

「そうそう。肉は必要ないからな。魔石と毛皮だけだから」


「そうなんだ。解体してない人は周囲の警戒だよ。魔獣は待ってくれないよ」


解体後。休憩をはさみ王都に戻ることにした。



無事王都にたどり着き家に帰った。


僕もみんなも魔獣討伐成功で気分が高揚こうようしていた。


「よし。訓練するよ」


「えー。帰ってきたばかりで疲れてるっす」


高揚していたのは僕だけだった様です。


「疲れているからやるんだ」


「そんなあ」


「体調が万全の時だけ魔獣と戦うわけじゃないんだよ」


「それはそうっすけど・・・」

「・・・へい・・・」

「わかった」

「・・・はいですぅ」


「怪我したらポーションぶっかけてやるから安心して」


「やめろ」「ありがたいっすけど」


「セイジさん。ポーションの量が多すぎないですぅ?」


「そうっす。小瓶に入ってるの見たことないっすか?」


「見たことあるよ。でもこの大きさより小さいと操作しにくいんだよね。多すぎても問題ないでしょ」


「ぶつけられる身にもなってくれ」

「ケガするたび全身びしょぬれっすよ」


「それはそうと、あんた私たちが真剣に戦っているときに、大声で話しかけるのやめてくれる?集中できないんだけど」


「ええっ!?そうだったの?助言のつもりだったんだけど、お邪魔でしたか」


どうやら僕は、彼女たちの戦闘をみて、はしゃいでいたようです。


指導するのって難しいな。

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