第37話 ケモミミの秘密
「へー。そんなことがあったんだ」
僕は、また朝からアーシェに会いに行き、初めての依頼の
「それで、倒した猪はどうなったの?そのまま放置?」
「いや、彼女たちに僕のナイフを渡して血抜きと内臓の処理をしてもらったよ。さすがに解体までは無理だったけど。すごいね彼女たち」
僕は取り出された猪の内臓を思い出して渋い顔をした。
「冒険者ギルドでいろいろ手伝いをしてたからね。さすがに解体の仕事はさせてもらえなかったようだけど。わたしが彼女たちに解体の処理の仕方を見て学ぶように言ってたから、内臓を見ることに抵抗はないのでしょう」
「そうなんだ」
僕には刺激が強すぎて無理でした。慣れないといけないな。
「猪一頭を持って帰るのは大変だったでしょ」
「え?ああ。そうだね。休みながらなんとか持って帰ることができたよ。あはは」
(実際は浮かせて持っているふりをしてたんだけど)
「お兄さんは見た目より力持ちなんだね。それで、その猪は冒険者ギルドに持ち込んだの?」
「うん。猪肉の依頼があったからね。解体場に持っていって解体してもらって、肉と素材が売れたよ。魔石がなかったからね。肉を少し分けてもらったから彼女たちにごちそうするよ」
すると背後から喜びの声が聞こえてきた。
「まじっすか!?」「・・・奇跡再び・・・さすがししょー・・・」
「アーシェ、こんにちはですぅ」「どうも」
「来てたのか。それじゃあ僕の家で焼き肉しようか。僕は調理道具や食材買って来るから、君らは冒険者ギルドに行って依頼を探してみて」
「いそいで依頼を見つけるっす」「・・・っす・・・」
「君はどうする?」
「わたしはここで仕事があるので。遠慮なくみんなで食べて」
「そうか。また今度ね。それじゃあ、今日の相談だけど、調理器具のお店の場所教えて頂戴な」
「中央通りの市場で売ってるよ。調味料も」
「ああ。そうだった。ありがとう。はい、寄付です」
「感謝します。いってらっしゃい」
僕は買出しに向かい、彼女たちは大急ぎで冒険者ギルドに向かった。
しかし、昼過ぎということもあり王都の近場でできる依頼は残ってなかった。
そのため明日の朝、回復ポーションの薬草採取の依頼を再び行うことになった。
セイジと新人冒険者たちがアーシェと別れた後、アーシェはとある人物の訪問を受けていた。
「こんにちは。彼とうまく接触できたようですね。さすがですな。私たちの情報が少しは役に立てましたかね」
「こんにちは。イワンさん。非常に役に立ちました」
「それはよかった。それで、まだ日が浅いですが何か彼の情報に変化はありましたか?」
「少しだけですね。私の仲間を彼に紹介したので、狼とか盗賊をけしかけたりしないでくださいね」
「わかってますよ。魔狼は想定外でしたが彼の実力の一端がわかりました。死ぬかと思いましたがね。わはは。一緒に旅をして彼の素性と彼の持っている知識にますます興味がでてきましたな。彼はどうも知識が偏ってましてね」
「そうですね。一般常識を知らないようですし」
「そうなんですよ」
「それで彼が禁忌の森から現れたことはご存じですか?」
「そのようですな。噂程度ですが」
「確認がとれました。ひとりで一か月ほどさまよってたそうです」
「ほほう。あの場所をさまよって生き延びたのですか。となるとグリーンウイロウで付き人とされる女性と合流したということですか。それ以前がなぞということですな」
「そうですね。そこまではまだわかっておりません。それと彼はかなり詳しい野草の知識を持っているそうですよ」
「ほう。それで薬草採取依頼に行ったのですか」
「はい。猪倒したそうです」
「猪くらい余裕でしょう」
「でも能力がよくわからないのです。魔力を持ってないと言ってたのに魔法を使用しているし。彼が本当のことを言っていない可能性もあります」
「・・・なるほど。我々は彼が火と風の属性魔法を使うところを見ましたけどね。どういうことですかね」
「仲間がしばらく彼と一緒にいますので、何かわかるかもしれませんね。魔術師ギルド志望の子もいますし」
「わかりました。引き続き彼を調べてください。新たな情報がありましたら買い取りますので」
「はい。依頼主によろしくお伝えください」
「わかりました。それでは今回の寄付金です」
「感謝します」
男は立ち去った。
アーシェは、その後もセイジの身辺を探る数人から接触を受け同じ情報を伝えた。
「正体不明のダンジョン攻略者は人気だね。魔道具の件はどうしようかしら。自動作成地図に無限のひょうたんか。まだ持ってるかもしれないから、しばらく保留でいいでしょう。誰かに仕えるのか。襲われるのか。はたまた、その全てを飲み込むのか。楽しみですね、お兄さん」
買い物を終え帰宅した僕は、家の中に荷物を置いて庭に出た。
昨日、なぜか家に客が来てしまい風呂に入れず寝てしまったので、昼間から庭でポーション風呂に入ることにした。
借りた家は、庭に生えている木々が柵のようになっていて人目につかないようになっている。
庭に生えていた雑草がいつの間にか綺麗になくなっていた。
緑のスライムが食べてくれたのだろうか。姿は確認できない。
着替えの服を持ってきたりして、お風呂の準備をしていると彼女たちが帰ってきた。
「早かったね。今からお風呂に入るから家の中で待ってて」
「お風呂?水浴びっすか?ここで?ここ水ないっすよ?」
「どうするんですぅ?」
彼女たちは不思議そうな顔をしてあたりを見回している。
「説明してなかったね。まあ見てなさい」
ひょうたんを取り出しドバドバとポーションを出す。
「あ。こぼれちゃいますぅ。もったいないですぅ」
ポーションは地面に落ちることはなく空中に浮遊し、どんどん大きな水球になっていく。
「そういえば、浮遊魔法使えましたね」
「おお。浮いてるっす」
「おお」
「・・・すごい、です!・・・」
ポーション球がかなりの大きさになった。
「よし。これくらいで十分だな。さて次」
僕は直径50センチほどの大きさになった水球の表面に手を近づけて、超能力を発動させる。
(発火!)
ポーション球が急激に温められる。
「え!?」「何っすか!?」「おお」「・・・!?・・・」
発火を維持し水球の温度を上げていく。
魔法使い志望のウェンディーだけがびっくりして小さな声でつぶやいた。
「今回も魔道具なしに火属性魔法を無詠唱で発動!?この人何者なのですぅ!?」
「よし。丁度いい温度になったかな。これから裸になってこのポーション球の中に入るから、家の中で待ってて。ご飯はそのあとでね」
「高価なポーションでお風呂・・・確かに無限に出て来るようですが・・・」
ウェンディーの様子がおかしい。
「どうやって入るか見ていいっすか?」
他のみんなも頷いている。
「いやいや。裸になるって言ったでしょ」
「気にしないっす」
他のみんなも頷いている。
(えええ?男の裸を見ても平気なの?そういう環境で育ったの?まあいいか)
「わかった。仕方ない。服着たまま入るよ」
「私たち気にしないっすよ?」
「僕が気にするの。ついでに洗濯もできるから」
「そうっすか」
「ポーションで洗濯・・・」
ウェンディーがまた衝撃を受けているようだ。
ホットポーション球を移動させ僕の頭から足まで移動させた。
「ふう。こうやって体を洗うんだ。あとは上下させる」
ホットポーション球が僕の体を上下する。
彼女たちの反応がない。真顔で見ている。それはそれで気になるな。
しばらく上下させ僕は風呂から上がることにした。
もっとゆっくりしたかったのだけど、今回はいいか。
入浴後のポーションを庭にばらまく。
「ああ、ポーションが・・・もったいないですぅ」
ウェンディー。確かにもったいないけど、そういうものだとそろそろ慣れてもらいたい。
僕は用意していた服に着替える。
「それで、どうだった?ポーション風呂を見た感想は」
「そもそも何で風呂に入るっすか?水浴びでいいじゃないっすか」
「え?体がきれいになるからだよ。それに温かい水は気持ちいいよ?」
「そうっすか?」
全員微妙なようだ。
「君たちも入ってみる?ポーション風呂、新しく作るよ。僕が人が来ないか見張っておくから。順番にね。このポーション風呂は一人用だから」
彼女たちはどうしようかと話し合っている。
その間にホットポーション球を作成しておく。
「最初は誰から?ほら。早くしないと食事の時間が遅くなるよ」
「・・・へい!・・・ししょー、私が最初・・・」
アナウサギ獣人のヒナが名乗り出た。
ご飯を早く食べたいのかな。
「服着てても私たちを見るなよ」
熊の獣人さんがお怒りだ。まあ。そうですね。
「ごめんごめん」
素直に後ろを向く。
「よし。それじゃ。ポーション球の下に行ってちょうだい」
「・・・へい・・・」
ヒナはこわごわと水球の下に立った
「・・・準備できた・・・」
「よし。いくよ。ポーション球が上から頭を通過するから、最初は息を止めてね」
「・・・へい・・・」
ポーション球を操作しゆっくり降下させる。
頭を通過し上半身を包み込む。
「ぷはっ・・・ししょー、あったかい・・・」
「そう。次はゆっくり回転させながら上下させるよ」
「・・・へい・・・」
ヒナの体を包み込んだあったかいポーション球をゆっくり操作する。
「こんなものかな?」
ヒナの体からポーション球を移動させ、少し離れた場所へ落した。
「・・・気持ちかった・・・」
「それはよかった。入りたいときはいつでも言ってくれたまえ」
「・・・へい・・・びしょびしょ・・・」
「ポーションだからすぐ乾くよ。そういや、君たちの替えの服を買わないとね。食後に買いに行こう。マントも必要だし」
その様子を見ていた他の女の子たちが、庭にまかれたポーションを見て騒いでいた。
「ちょっと。あんた何で捨てるんだ」
「ああ。貴重なポーションがぁ・・・」
「これが金持ちっすか」
「え?友達とはいえ人の使った残り湯はいやだろ?」
「そんなことない」
「そうよ。ポーションですよ。わかってますぅ?」
「これが第3級っすか」
「そう?変えなくていいなら僕も楽できるからいいんだけど。ちょっと待ってて。すぐ作るから」
新しいホットポーション球を作り、残りの3人を入浴させ、やはりポーションを庭に捨てた。
「ああ。ポーションが・・・」
「もったいない。まだ使えるぞ」
「私たちにくださいっす」
「しばらく仲間なんだからいつでも使えるよ」
そのときムニムニと緑のスライムが出てきて、ポーションだまりへ向かって進んでいった。
「あ。スライムっす」
「ほんとだ。あんたの?」
「ちがうよ。ここで偶然出会ったんだ。ポーションを食べるのが好きらしい」
「ふーん。めずらしいですぅ。緑のスライムなんて」
「ね。トイレ用かと思った」
「違うよ。そんなことさせてないし。トイレ用は青でしょ」
「そうなんですか?冒険者の必須アイテムって聞いてたですぅ」
「そうっす。野宿の時、匂いを消すために必要だって」
「え。そうなの?君らも用意するの?」
「・・・」「・・・」「・・・」「・・・へい・・・」
「女の子にそんなこと聞かないでくださいぃ。ヒナも返事しないの」
「・・・へい・・・」
(キングフィッシャーの皆さんと護衛依頼をした時は、スライム用意してなかったと思うけどなあ。男だけだったからかな。それとも護衛だから?)
「ごめんね。配慮が足りなかったよ。それでポーション風呂はどうだった?」
「ああ。すごく気持ちよかったよ。体が軽くなった感じだ」
「綺麗になったし体からいい香りがするですぅ」
「ちょっと恥ずかしかったけど、いい気持ちだったっす」
「・・・へい・・・また入りたい・・・」
「そう。気に入ってくれてよかったよ。パーティー組んでいる間はいつでも入れるよ。僕は毎日入ってるからね」
「毎日?入りすぎじゃないっすか?これが金持ちっすか」
「・・・ししょーと同じ・・・いい香り・・・」
「あんたの残り湯には入らないからな」
「そうですね。別にしていただきますぅ」
「・・・わかってるよ」
正直な反応だなぁ。
「さあ。食事にしよう。猪の肉焼くぞー」
「おお」「いっぱい食べますぅ」「へい!」「たのしみっす」
家の中に入り早速料理開始。
窓を開け、かまどに薪を突っ込み発火を発動させ、かまどの中で維持。
鉄板を熱して猪の肉を人数分切り分けて焼き、塩を振りかけて完成だ。
「よし。食べようか。いつものニンニク入り野菜スープを買っておいたから、黒パンと一緒に食べて」
「はい。いただきます」」」」
「うまいっす」
「うん」「そうですね」「・・・おいし・・・」
猪肉を初めて食べたけど、意外とおいしいな。
僕に料理技術があればもっとおいしいのだろうけど。残念だ。
この際だからと僕は、彼女たちに疑問に思っていたことを聞いてみた。
「ねえねえ。失礼なこと聞くかもしれないけど、獣人って耳は4つあるの?」
「違うっすよ。耳は人と同じっす」
犬獣人のイレーナが答えてくれた。
「そうなの?そのケモ耳は?立派な犬耳に見えるけど」
「これは触毛っす」
「触毛?特別な毛で作られた耳みたいなものってこと?」
「そうっす。空気や音の変化を感知するっす。もちろん種族差があるっす」
熊獣人のエイミーとアナウサギ獣人のヒナが頷いている。
「なるほどなあ。すごい機能だね。そういや話変わるけど、君たち、この家に住み続けるの?」
彼女たちは「この人何言ってるんだろ」見たいな顔をしている。
「そうっすよ。元の家は仲間に譲ったっす」
「ああ。みんなで住んでた廃墟なんだけどな」
「はい。いい場所でしたね」
「・・・ここがいい・・・」
「そうなんだ。仲間想いなんだね。それで、もう帰る場所がないと」
「はい。お世話になりますぅ」
「わかった。食事が済んだら君らの洋服や食器を買いに行こう。お代はアーシェに請求しとくから。遠慮しないでね」
「ありがとう」」」」
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