第36話 イノシシ退治
僕たちは、
僕は、彼女たちの後ろをついていきながら準備を始めることにした。
リュックからひょうたんを取り出し、こぶし大のポーション球を人数分作成し空中に浮かせた。
(ポーションの量はこれくらいでいいのかなぁ。適量がわからない)
これで最低限の安全は確保できたと思う。完全にポーション頼みです。
人にポーションを使うのは初めてになるけど、回復するよね。姫様。
どんな魔獣に遭遇するかわからないけど、さすがに瞬殺はされないよね。心配だ。
森に人の気配はない。
ここに冒険者は来ないのかな。人気のない場所なのかも。
他にいい採取場所があるのかもしれないな。
彼女たちは森の中を慎重に歩きながら地面を探索している。
そういえば、彼女たちの特徴を聞いてなかったな。後で聞いてみよう。
彼女たちは、森の浅い場所で小一時間ほど薬草を探していたが見つけられなかった。
「休憩しよう。あそこに見える岩場で休もうか」
僕は、今いる場所から少し離れたところにある岩を指さした。
彼女たちは不満げだったが、疲労していることに気付いたのか受け入れてくれた。
僕が言わなければ、疲労に気付かないままずっと探していたことだろう。
森歩きに関しては任せてくれたまえ。
森の中に大きな岩があり、その周辺にちょっとした空間が開いていた。
そんなに木が密集している森ではなかったけど、休むには適していた。
彼女たちは一斉に地面に座り込んだ。
「ポーション飲む?飲み物用意してないんでしょ?」
あ。コップを人数分用意してなかったな。仕方ない。
僕は、ひょうたんから新たにポーションを一口サイズ出しては、超能力で操作して浮かせていった。
彼女たちが、僕の周囲に浮いているポーション球を見てぎょっとしていた。
「・・・セイジさん。もしかして浮遊魔法ですか?杖も指輪も持ってないようですが どういうことですぅ?魔術師なんですか?魔術師ギルドには行ったことないんですよね?」
ウェンディーが矢継ぎ早に質問してきた。
「え?浮遊魔法?まあ、その、なんだ。それ。浮遊魔法で。実は魔法が使えるんだけど、本当に魔術師ギルドには行ったことないよ。このことはあんまり他のひとに言わないようしてね。切り札だから」
「はあ。切り札ですか。何だか怪しすぎますぅ。それで、その浮いているポーションを飲むんですか?」
「うん。コップが無くてね。次までに用意しとくよ」
僕が浮いているポーション球を操作して彼女たちの口の前まで移動させた。
「はい。どうぞ。遠慮なく飲んで」
「ありがとうですぅ」「ありがとっす」「どうも」「・・・へい・・・ありがとです」
彼女たちは恐る恐るだったがパクリとポーションを食べてくれた。
「あ。疲れが吹っ飛んだですぅ。初めて飲みましたけどすごいですぅ」
「すごいっす」「うん」「・・・すごい・・・」
みんな初めて飲んだポーションの効果に感動しているようだ。
赤毛の魔法使い志望の子、ウェンディーがこめかみに指先を当て何やら考え込んでいる。
「どうしたのウェンディー。ポーションの味が嫌いだった?」
「そうじゃないんですぅ。ひょうたんの大きさとポーションの量が釣り合ってないんですぅ・・・」
「ああ。よく気付いたね。これ無限に出てくる魔道具なんだ」
「魔道具!?・・・無限!?・・・」
ウェンディーが目を見張って固まった。
「さすが第3級っすね 。どうやって手に入れたっすか?」
「とある人に貰った。たぶんお詫びとして」
「お詫び?その人はセイジさんに何をしたんですぅ?おそらく大変貴重な魔道具ですよ?魔術師ギルドでも見たことないですぅ」
ウェンディーが復活した。
「そうなんだ。実をいうと、その人のせいで僕は森をさまようことになったのだ」
「・・・そうでしたか。それはそのくらいのお詫びが必要ですぅ」
僕はリュックから食べ物を取り出した。
「果実のはちみつ煮だよ。何の果実は知らないけど遠慮なく食べて。疲れが取れるよ。あ。ポーション飲んだんだった。ま、いいか」
「!?」」」」
彼女たちは遠慮なく食べてくれて一瞬で無くなった。
「はちみつって貴重なの?」
「貴重ですよ。教会でも養蜂してまして、子供のころお手伝いしてたですぅ」
「そうなんだ」
「そうっすよ。でもいろいろ使うらしいので食べられなかったっすけど」
「ふーん。話変わるけど、君たちの特徴を教えてくれるかな。君たちはお互いのことを知ってるかもしれないけど、僕は知らないから」
「そうですね。種族の特徴ってことですよね。だったら私は人間種なんでエイミーから教えてあげて。人間種と比べたらわかりやすいかもですぅ。これもアーシェから教えてもらった情報になりますが」
(あの子の知識すごいな)
熊獣人エイミーは、こげ茶の髪色でがっしりした体格の子だ。
「わかった。熊獣人の特徴は、人種より筋力と体力があって、物理耐性、寒冷耐性がある。私は獣化はできない」
「獣化?」
「ああ。獣人の中の選ばれし者だけが獣に変身できる」
「魔法みたいなものですぅ」
「なるほど」
「次はイレーナ」
犬の獣人イレーナ。明るい茶色の髪で小柄な子だ。
「私っすね。犬獣人の特徴は動体視力が良いっす。んで薄暗い中でも見えるっす。
嗅覚はものすごいっす。この中で一番っすね。あと素早いっす。私も獣化はできないっす」
「じゃあ。最後ヒナですぅ」
アナウサギの獣人ヒナ。白っぽい茶色の髪でうさ耳。4人の中で一番小柄だ。
「・・・へい・・・暗闇でも見える・・・けど・・・視力が弱い・・・だから鼻で頑張る・・・敵か味方かわかる・・・耳も・・・遠くの音の場所わかる・・・獣化できない・・・」
「そうか。教えてくれてありがとう。みんなすごい能力を持ってるんだね。その能力を生かせば冒険者としてやって行けると思うよ」
そのとき獣人の3名が異変に気付く。
「何か来る」「向かってくるっす」「・・・!?・・・」
しばらくすると僕にもわかるくらい何かが接近する音が聞こえてきた。
ガサガサッ
「物陰に隠れるんだ」
僕の声に4人が一歩遅れて動き出し、岩の後ろに隠れた。
ザスッ
藪の中から現れたのは大きめの猪だった。
猪は僕を視認すると今にも突進して来そうな体勢をとった。
僕はすぐさま軽めに念動波をぶっ放し挑発する。
依頼の品なので逃げてもらっては困ります。
透明な何かが直撃したことに猪はびっくりしたのか逆上したのか、背中の毛を逆立てて急に僕に向かって突進してきた。
「あぶないっ」
誰かの声が聞こえてきた瞬間。
僕は猪の背後にテレポートし強めの念動波を追撃した。
直撃を食らった猪は勢い余って岩に激突し動きを止めた。
「今だ。止めをさすんだ!」
僕は4人に向かって叫んだ。
しかし、4人とも誰も動けない。
「止めをさせ!冒険者として生きいくんだろ!」
その声にようやく一人が動き出し太い木の棒を振り上げた。
熊獣人エイミーの力強いこん棒の一撃が猪の頭に直撃した。
「よくやった。頑張ったね」
エイミーの息が荒い。
残りの3人も集まってきた。
4人とも誰も話さない 。みんな呆然としている。
しばらく彼女たちは動かない猪を見ていた。
「おーい。もうそろそろ帰らないと王都につく前に日が暮れてしまうよ」
呑気な僕の言葉にようやく彼女らは反応した。
「まだ依頼の薬草を見つけていないですぅ」
「そうっす。このままでは帰れないっす」
「心配しなくても、その岩の周りに生えてるよ」
「え!?」」」」
みんなが岩に近寄って探してみると。
「見つけたですぅ!」「あったっす」「・・・ほっ・・・」
とげのある肉厚の葉が特徴の回復薬ポーションの材料のひとつ、トゲボラン草がそこに群生していた。
犬獣人のイレーナがくんくんと薬草の匂いを嗅いでいる。
「匂いで判別できるの?」
「はい。私はとくに鼻が利くっす。でもちょっと難しいかもっす」
「そうなの?すごいね。次から探すのが少し楽になるかもね」
「そうっすね。便利っすけど、でも臭いときは大変っす」
「それはいやだね。僕の家は臭くならないようにしておくよ」
彼女たちは薬草を丁寧に採取したあと、猪の処理をさせてくれと言い出した。
僕のナイフを貸してあげた。
彼女たちは協力して血抜きをし内臓を取り出した。
「結構手馴れてるんだね。魔石あった?」
「それはここでは調べないっす」
「そうなの?」
「知らないっすか?魔石があると肉は食べられないっす。だから魔石のある場所に手を付けては駄目っす。魔石の有無は冒険者ギルドで確認してもらうっす。もしそれを疑われたら魔力量を図られて追加料金が発生するっす」
「魔石が無かったら食肉なんだ」
「そうっす。魔石があったら魔獣ってことで毛皮と魔石を買い取ってもらうっす」
「なるほどね。なんで魔獣の肉を食べちゃダメなの?」
「食べ過ぎたら魔獣になるらしいですぅ。少しなら大丈夫みたいですけど」
今度はウェンディーが教えてくれた。
「え?人が魔獣に?そんなことあるの?迷信じゃなくて?」
「あるんですぅ。たまに魔獣化した人が暴れて討伐依頼が出るんですぅ」
「そうなの?恐ろしいね。なんで魔獣になるの?」
「詳しくは知りませんが、魔獣の魔力のせいだと言われてますぅ」
「ふーん。人の魔力とは性質が違うのかもね。あ、そんなことより早く帰ろう」
僕はおもむろに猪にポーションを掛けた。
「何してるっすか?もったいないっす」
「洗浄だよ。汚かったらいやでしょ」
「はぁ。そうっすか。高価なポーションを掛ける人なんていないっすよ」
「そう?それじゃ、その猪は僕は持つから」
「大丈夫ですか?あまり力が強そうには見えませんが」
「平気平気」
そう言って僕は、猪の足を手で掴んだ振りをして持ち上げた。超能力で。
「おお。やるな」「すごいっすね」「すごいですぅ」「・・・すごい・・・」
「ま、まあね」
(試しにポーションを掛けてみたけど、生き返らなくてよかったよ)
そのまま僕たちは王都に帰還することになった。
帰り道は依頼を無事達成できたことでみんなの足取りは軽かったが、口数は少なかった。
(いろいろあって疲れたのかな)
「あんた、あそこにトゲボラン草があることを知っていたのか?」
帰り道の休憩中、熊獣人のエイミーが質問してきた。
「うん。山奥育ちだからね。野草に関しては詳しいんだ。それ、そのまま食べたらだめだよ」
「え!?いや、依頼の素材を食ったりしねえよ。生だし」
「そう?山で遭難したとき見つけたらアクを抜いて食べるといいよ。それにしてもみんな偉いね。薬草を取りつくすかと思ったよ」
「そんなことしないっす。ちゃんと勉強したっす」
「そうなんだ。またアーシェ?」
「・・・そうっす」
日が暮れる前に何とか王都までたどり着いた僕たちは、冒険者ギルドに依頼の薬草と猪の肉の納品をし、報酬を受け取って解散となった。
ちなみに王都に入るための5人分の通行税はすべて僕が払った。
そのまま帰宅し、僕はテーブルに座ってポーションを一口飲んだ。
「ふう。さすがに一日中歩き回ると疲れるなあ。ポーションがおいしい」
「そうっすね。でも依頼を達成できてうれしいっす」
「そうですね。ようやく冒険者らしくなてきました」
「そうだな。でももっと頑張らないとな」
「・・・へい・・・」
「それにしても、セイジさん。猪退治すごかったっすね。猪の突進をかわした動きが全く見えなかったっす。さすが第3級っす。尊敬するっす」
「ああ。正直怖くて動けなかった。情けない」
「そんなことないですよエミリー。あなただけ動けたじゃないですか」
「そうっす。私なんか・・・。はぁ。次は戦うっす」
「・・・ししょー、すごい・・・」
「ししょー?みんな初めての戦いだったんだ。仕方ないさ。ゆっくり慣れていくしかない」
「はい。これからもよろしくっす」
「よろしくおねがいしますぅ」
「あんたを信じて頑張るよ」
「・・・ししょーについていきます・・・」
何とか信頼してもらえたのかな?
「そ、そう?よろしくね。ところでなんでみんな僕の家にいるんだい?今日は疲れただろうから明日の集合は昼でいいよ?明日も依頼をこなすんでしょ?」
「・・・」」」」
「・・・」
「セイジさん。私たちは広い部屋を借りますね。おやすみなさい」
「おやすみっす。いやー立派な家っすね」
「おやすみ。そうだな。壁と天井がちゃんとあるもんな」
「・・・おやすみです・・・ししょー・・・」
彼女たちは広い部屋に入っていった。
「・・・どういうこと?」
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