第35話 薬草採取依頼
翌朝、僕は冒険者ギルドに寄って買い物をした後、彼女たちと薬草採取に行くため待ち合わせ場所である正門に向かった。
早朝にもかかわらずアーシェは正門近くのいつもの場所に座っていた。
しかも芸術家らしき先客がいて、ふたりの会話が僕のところまで聞こえてきた。
「・・・なので、他人と違うことがしたいのです」
「始めから他人を基準にしてどうするのですか。あなたの欲望を丸出しにするのです。まず、あなたがやりたいことやってから他人と比較しなさい。そもそも他人と比較する必要はないのだけれども・・・」
このまま会話を立ち聞きするのは良くないので、少し距離をとって待つことにした。
(僕の時とは対応が全然違うな。あれがお仕事用なのかな。それにしても彼女の声はよく通る)
しばらくして、その人は帰っていった。
「おはよう。朝から相談に乗ってるんだね」
「おはよう、お兄さん。話を聞くのが仕事だからね」
「早速だけど、僕も相談事があるんだ。王都にはポーション売ってるの?」
「うん。錬金術師ギルドで作ってるし売ってるよ。冒険者ギルドでも売ってると思うけど」
「え。そうなんだ。ぜんぜん見てなかったよ」
「注意力が散漫過ぎない?ポーションは大事なものでしょうに」
「そうなんだけどね。いつも別のことに気を取られちゃってて」
「ふーん」
「そういえばさ。君も14歳になったら路上ギルドクランに入るんだよね」
「そうだよ。まだ一年先だけどね」
「君なら今すぐにでも、どこかで働けるんじゃないの?」
「まあね。お誘いは いっぱい受けてるわ」
「断っているのは冒険者になりたいから?」
「ええ。そうよ」
「ここじゃなくても、働きながら冒険者になれる年齢までの時間をつぶせるのでは?お金も稼げるし」
「そうね。でもここにいるほうがいろんな人に出会えるし、いろんな職業の人達から情報が手に入るの。お金は何時でも稼げるわ。寄付集めも大事だし」
「へぇ。よく考えているんだね。冒険者になったら路上ギルドの子たちとパーティー組むの?」
「組まないわ。だからここで探しているのよ。それに二人組を予定してるわ」
「そうなの?。それで相方候補くらいは見つかったのかい?」
「まだよ。あなたでもよかったのだけれど、他の女性の物を盗る趣味はないわ」
「え。そうだったの?でも僕に彼女はいないよ」
獣人の子のことを言ってるんだよね。
「ええ。触らぬ神に祟りなしってね。たとえそれが万が一だとしてもね。それに焦る必要はないの」
「そうなんだ。よくわからないけど。ところで君、朝ご飯食べた?」
「食べてないわ。食料の配給はお昼だけだから」
「そうなんだ。じゃあ一緒に食べる?冒険者ギルドで携帯食買ってきたんだ。隣座るよ」
「どうぞ」
僕はリュックから携帯食を取り出し、彼女に黒パンとチーズとドライフルーツを渡した。
「ありがと。あら。その紙、魔道具?」
リュックから魔道具の地図がはみ出していた。
「うん。地図だよ。よく魔道具だって分かったね」
「そんなにきれいな紙は魔道具しかないわ」
「そうなんだ。興味あるなら見る?ほぼ白紙だけど」
「ありがたく見せてもらうわ。でも地図は貴重だから人前で広げないほうがいいよ」
「わかった。気を付けるよ」
地図をアーシェに渡す。
「へえ。アルケド王国はここなんだね」
アーシェは広げた地図をまじまじと見て言った。
「うん。あってる」
「大陸の端っこの方なんだね」
「その地図ではそうだね。全体像が全然わからないけど」
「ありがとう。ひとつ賢くなれた」
僕は地図を返してもらった。
「ちょっと聞きたいことがあるんだ。灰色狼の子供の捕獲依頼があったんだけど、その目的って何か知ってる?」
「・・・。なぜ冒険者ギルドの受付で聞かないの」
「受けるつもりはなかったから聞かなかったんだ。でもちょっと気になって」
「そう。灰色狼を貴族の狩猟のお供にするために子供から育てるのよ。灰色狼の子だけ人になつくの。でも数が少なくてね」
「なるほど。希少種なんだね」(狩猟犬みたいなものか)
「高位冒険者でも魔獣を連れている人がいる。お金も時間もかかるから少ないけどね」
「へえ。ビーストテイマーか。そういえば、その魔獣の繁殖とかしてないの?」
「魔力が少ない場所で生まれたら魔獣にはならないから」
「そういうもなんだね」
すると、背後から4人がやってきた。
「あーっ。何か食べてるっすー」「・・・!?・・・」
「君たちの分もあるよ。食べたら出発しよう」
「やったっす」「ありがとうございますぅ」
「ありがとう」「・・・奇跡・・・」
彼女たちは一瞬で食べ終わった。
「さて行こうか。はい。情報料、銀貨4枚」
「感謝します。気前がいいわね。さすが第3級冒険者」
「じゃあ僕たちは行くよ。またね」
「うん。みんな気を付けて」
「アーシェ、行ってきますね」「行ってくるっす」
「行ってくる」「・・・行く・・・」
「お兄さん。森は私たちにとって異界なの。森を
「わかった。安全に行動するよ」
僕たちは王都の門をくぐり目的地である森を目指して出発した。
アーシェによると彼女たちが王都から遠く離れるのは初めての体験だという。
きっと不安や緊張を感じているだろうから、僕がしっかりしないとね。
回復ポーションに使う薬草が生えている森は、候補がいくつかあったけど王都の北西
にある森にした。
森の名は、
その
採取依頼の薬草は魔力の薄い平地には生えず、魔力の濃い森にしか生えないという。
歩いていくうちに農地がなくなり平原にでた。
しばらく行くと道が二手に分かれていた。
そこで最初の休憩をすることにした。
森に着くころに疲れていては元も子もない。
「みんな、ここで少し休もう」
地べたに座って休憩にはいる。
「ウェンディー。分かれ道はどっちに行くの?」
「左ですぅ」
「ちなみに右に行くとどこに着くの?」
「川を超えて大きな村に着くそうですよ」
「へえ。村か」
「受付さんが教えてくれたんですけど、何でも橋を渡るときに税金を取られるそうですぅ」
「え!?そうなんだ」
少しの休憩の後出発した。
僕たちが歩いている場所は見渡す限り平原だが、徐々に木々を見かけるようになってきた。
遠くには目的地であろう
さて、新人冒険者の面倒を見るのはいいとして指導はどうしよう。
僕は素人冒険者なんだけどな。
何も教えられないんだから一緒に成長していけばいいか。
いや。数々の本(漫画やラノベ)を読んできた読書家としての知識を披露するときが来たのか。
それはやめておこう。変な知識を与えてはいけない。
一緒に依頼をこなしていけば、彼女たちが自然と成長していくよね。
やはり実践が一番だからね。
焦らずに安全第一で経験を積ませ、自分たちで考えさせればいいか。
よし。それでいこう。
僕たちはのんびりと平原の道を歩いている。
平原の先に山脈が見える。標高はそれほど高くなさそうだ。
それにしても、全員女の子だな。獣人の子3人もいるし。
彼女たちは歩きながら仲良くおしゃべりをしている。
もちろん僕は参加していない。
(何を話したらいいんだ)
僕は会話がなくても平気なんだけどな。
いや。逆に話しかけないほうがいいまであるな。
彼女たちは見ず知らずの冒険者をあの子に押し付けられたようだしね。
それも人間の男を。
女性の冒険者がいると思うんだけどな。
ああ。新人を育ててくれる奇特な人がいないって話だった。
こちらから話しかけるんじゃなくて、話しかけられたら優しく対応することにしよう。
そうだ。僕はこの世界のこともこの国のことも知らないんだから、それを聞けばいいじゃないか。うん。そうしよう。
などと、うだうだ考えていたらウェンディーのほうから話しかけてくれた。
「なんだか。楽しそうですね」
あれ。妄想してたら、にやにやしてたようだ。気を引きしめないと。
「え?ああ。僕も初めてなんだ。採取依頼」
「え!?新人のころ何してたっすか?」
「僕もまだ新人だよ。一週間・・・いや、二か月たってない」
一週間はさすがに変だからドッペルゲンガーの活動期間も加算することにしよう。
「ええ!?二か月っすか。それなのに第3級っすか!?」
「すごいですぅ」
「すごくないんだ。いろいろあってね・・・。そういえば、みんな冒険者ギルドで手伝いをしてたみたいだけど何してたの?」
「ほぼ雑用の手伝いっす。魔獣を解体した後のごみ処理とか掃除とかっすね。あとは冒険者の御用聞きとかっす。でも、いつもあるわけじゃないんで早いもの勝ちっすね。ウェンディー以外は冒険者ギルドに行ってたっす」
犬獣人のイレーナが教えてくれた。
「そうなんだ」
「私は魔術師ギルドに行ってましたね。仕事は掃除が多かったですね。危険な道具が多いからあまり手伝えませんでした」
「へえ、僕も行ってみたいな。登録のお金が貯まったら一緒に行っていい?」
「はい。もちろんですぅ」
歩きながら話題は移り変わり、
「あんた、どんな子供だったの?」
と、珍しく熊獣人のエイミーが話しかけてきた。
「子供のころの僕?そうだなあ。一人で地元の街をうろちょろしてたよ。今思うと探検してたんだろうね。結構、遠出もしたなぁ。裏路地に行ったり他人の家と家の隙間に入ったり、川でも遊んでた。ひとりで」
「・・・そうなんだ」
なぜか静かになった。
「そういえば、セイジさん家借りたんですよね」
「うん。もう知ってたの?」
「はい。アーシェに聞いたんですぅ」
「なるほどね。今後、集合場所は僕の家でいいかな。荷物とか置いてもいいし」
「広いっすよね?」
「ひとりで住むにはそうかな。見たの?」
「もちろんっす。今朝、みんなで見に行ったっす」
「そうなんだ。僕はもういなかったのか。遠慮なく訪ねてくれていいよ」
「わかったっす」
「そういえば、君たちパーティー名あるの?」
「ないっすよ」
「そうなの?考えてみたら?ついでにリーダーもね」
「そうするっす」「わかりました」「わかった」「・・・へい・・・」
会話をしながら僕は彼女たちを見る。
彼女たちの装備は木の棒と粗末な服だ。
お金を稼いで早く装備を整えないとな。
僕たちは休憩をはさみながら、ようやく
うっそうと生い茂る森を前に彼女たちも緊張している様だ。
いよいよ
森の浅い場所を探索する予定だけど、どんな危険があるかわからない。
ここからは緊張感を持って挑まなければならないだろう。
僕は彼女たちに何をしてあげられるのだろうか。
彼女たちを見ると緊張しすぎているようだ。
初めての外での依頼なんだから仕方ない。
とりあえず、彼女たちの緊張を和らげてあげないとね。
薬草を探し始める前に僕はみんなを集めて言った。
「これからの活動のことなんだけど、基本的に僕が君たちに教えることはしない。これから君たちが第4級に成るまで一緒に依頼を受けることになるけど、その中で何をしたらいいのか、どうやったら強くなれるのか、君たちで考え実践して欲しい。安全はできるだけ保障する。依頼には危険なことや怖いことがあるかもしれない。そんなときは仲間と一緒に乗り越えようじゃないか。冒険者活動で疑問に思ったことや要望があれば遠慮なく僕を頼ってほしい。一緒に考え共に成長していこう。早速だけど何か質問はある?」
「・・・」」」」
彼女たちの雰囲気が変わった。みんなの表情が引き締まっている。
(あれ。まだ緊張しているな。冗談の一つも言えたらよかったんだけど。もしかして偉そうだったかな)
真剣な表情で熊獣人のエイミーが疑問を口にした。
「あんた第3級らしいが本当に強いのか?安全を保障するとか言ってるが信用できないね」
「そうだね。それは薬草を探していればわかると思うよ。狼とか出てくるかもしれないから」
「ちょっとエイミー。アーシェが大丈夫だって言ってたでしょ。護衛依頼の途中で魔狼を一人で追い返したって」
(アーシェの情報網、恐ろしいな)
「それは私も聞いた。でもほかの冒険者もいたんでしょ。一人ではどうなのかわからない」
「落ち着いて。ここで言い争ってても証明はできないから、依頼の薬草を探そうか」
僕のせいで雰囲気が悪くなったけど仕方ない。
僕も余裕がないようです。でもやるしかないか。信頼を得るまで時間がかかりそうだな。
「さあ。行動開始だ」
彼女たちが先に森の中に入っていく。
緊張感に包まれた4人組は固まって移動し、恐る恐る森を進んでいる。
僕はその後をついて行き彼女たちの様子をうかがう。
先頭は大柄な熊獣人のエイミー、緊張感バリバリで早くも戦闘態勢に入っている。
(あのままじゃ精神的に疲れちゃいそうだな。心配だ)
犬獣人のイレーナは緊張しながらも辺りをキョロキョロしながら鼻をスンスンしている。
アナウサギ獣人のヒナは、エイミーの後ろに張り付いて長い耳をぴくぴく動かしていた。
ウェンディーは杖を握りしめ最後尾をほんわか笑顔で歩いている。意外と度胸はありそうだ。
僕はというと。
(あ。尻尾発見!今まで気づかなかったとは、不覚)
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