第34話 家を借りる
王都冒険者ギルドに入った僕たちは、依頼を探しに掲示板に向かった。
お昼過ぎなので冒険者ギルドに人は少ない。
みんなで掲示板を見る。
掲示板の一番端に『亀注意』の張り紙が張ってあった。
やはり依頼書は魔法紙ではないようでボロボロになっていた。
「ここにもあるのか」
「亀って何ですぅ?」
ウェンディーがのぞき込んできた。
「亀の魔獣らしい。これは依頼じゃないので、君たちが受けたいものを探してみて」
「はいですぅ」
「何がいいすっかねえ」
「街中の依頼はやめておきましょう」
「何でっすか?」
「路上ギルドの子たちの仕事を奪うかもしれません」
「そうっすね。じゃあ豚の世話はやめとくっす」
「あんた豚が食べたいだけだろ。仕事したって肉はくれねえぞ」
「ち、ちがうっす」
彼女たちは掲示板を見ながら、かしましく相談していた。
「依頼決まった?最初は採取がいいと思うんだけど」
「はい。回復ポーションの薬草採取の依頼があったですぅ」
「そう。じゃあ、それやってみる?みんないいかい?」
「はいですぅ」「うん」「はいっす」「・・・へい」
「ギルド内に資料室とかあるのかな?ともかく採取場所を受付で聞いてみて、僕はここで待ってるから」
「はいですぅ。みんな行きましょう」
彼女たち4人は受付に行き、受付さんに聞いて戻ってきた。
「資料室は2階にあるようですぅ」
「そう。じゃあ、みんなで調べてきて。僕は僕で依頼を探してみるよ」
「わかりました」
4人は冒険者ギルドの2階に向かった。
(さて、何かあるかな。僕も初めての依頼みたいなものだしな。うーん)
採取依頼の掲示板を隅々まで見てみる。
(彼女たちと同じ依頼を受けるのも効率が悪いかな)
彼女らが受けた回復ポーションの薬草依頼は、そこそこの金額のようだ。
隣の討伐依頼を見てみる。
(魔狼レッドゴールド退治か・・・。他は何かあるかな。お、灰色狼の子供捕獲か。結構高額だな。何のためだろ。んー、今回はやめておこう。他には・・・これかな)
常設依頼に、うさぎ肉、鹿肉、猪肉、山鳥などがあった。
(食用か。採取先で遭遇した獣を狩ってみようかな。ウサギなら大丈夫だろう。そういえばお腹減ったな。お昼過ぎだもんな)
ちょうど4人が下りてきた。
「薬草の情報手に入った?」
「はい。採取地候補の森と野草の見た目と自生してそうな場所がわかりました」
「そう。それなら大丈夫そうだね。僕もその薬草のことは知ってるから現地で探してみよう」
「はいですぅ」「うん」「はいっす」「・・・へい」
いよいよ彼女たちとパーティー活動か。だんだん僕に慣れてくれたらいいな。
「とりあえずご飯でも食べながら今後の予定を決めようか。僕、まだお昼食べてないんだ。君らは食べたの?ここらへんで知ってるお店ない?」
「ここは高級店が多い通りだから私たちじゃ入れないですぅ。そもそもお店に入ったことないですし」
「ああ。そっか。ごめんね。じゃあ。もっと手ごろなお店まで案内してくれないかな。王都のこと何も知らないんだ」
すると、ずいっとアナウサギ獣人のヒナが前に出てきた。
「・・・行きたいお店がある・・・」
「いいね。そこに案内してくれるかい?ヒナさん」
「・・・へい」
食には貪欲な子なんだな。
ギルドを出てみんなでヒナおすすめの飯屋に向かう。
孤児院の近くにある屋台だそうだ。
中央通りから西に向かって街の外側に向かって進んでいく。
「セイジさん。私たちの事は呼び捨てでいいですぅ」
「そう?それじゃ、そうさせてもらうよ」
王都は中央通りに面している建物ほど高層で、外側に向かうにつれ低くなっていった。
歩きながら雑談していると犬獣人のイレーナに唐突に言われた。
「セイジさんは草の匂いがするっすね」
「そう?毎日ポーションを浴びてるからかな」
「は?ポーションを浴びてるって言ったっすか?金持ちっすか?それとも馬鹿っすか?」
「金持ちじゃないよ。馬鹿かどうかは知らないけど」
「さすが第3級ですね。私の想像以上の存在ですぅ」
「信じられん」
「・・・さすがです・・・」
みんなあきれていた。
みんなのおかげでポーションの価値がわかりました。
「体を洗いたかったから仕方なくね。ポーションしかなくてさ」
「どういう状況?あたしたちは雨が降った時に水浴びするくらいだよ」
熊獣人のエイミーが初めて話しかけてくれた。
「山奥にひと月くらいいてね。川が見つからなくてさ」
「山奥にひと月!?」」」」
「うん。一人で迷ってた。草ばかり食べてたよ」
「・・・」」」」
「私たちよりひどい生活をしてたなんて。大変だったんですね」
「そうだね・・・。大変だったよ」
山奥の生活について質問攻めにあってたら、ヒナおすすめの屋台についた。
「・・・ここ・・・」
「おお。おいしそうな匂いがするね。何のお店?」
「・・・ニンニク入り野菜スープ・・・肉なし・・・」
「おお。いいね」
「・・・お肉食べたことない・・・」
「冒険者になったんだ。依頼をこなせば、お腹いっぱいお肉食べられるさ」
「!?・・・へいっ」
僕は屋台の人に5人分注文して道端で食べることにした。
彼女たちはお金を持っていないので、もちろん僕が代金を払った。
「おいしいね。ヒナ。いい店教えてくれてありがとな」
「・・・へい」
ヒナは嬉しそうにもぐもぐ食べていた。
他のメンバーもがつがつ食べていた。
初めての採取依頼は明日の朝出発ということになったので、その場で解散することになった。
僕は腹ごなしも兼ねて、再び正門にいるだろうアーシェに会いに行くことにした。
やはり彼女はいつもの場所に座っていた。
「やあ」
「あら。お兄さん。依頼の準備は整ったの?」
「うん。ばっちり。早速明日採取に行ってくるよ」
「そう。それで何しに来たの?」
「もちろん相談事さ」
「いいよ。何?」
「お風呂入りたいんだけど、公衆浴場の場所知ってる?」
「あはは。何の相談かと思ったら、お風呂だって」
「僕にとっては重要なんだよ。君に紹介してもらった、そこそこの宿にもなかったしね」
「そうね。高級宿屋にはあるよ。そっちのほうがよかったか。失敗したね」
「気にしなくていいよ。お風呂については言ってなかったから」
「やさしいね。それで公衆浴場だけど潰れちゃいました」
「ええ!?潰れた?」
「うん。数年前まであったけど、やばい奴らの取引所みたいになってしまって。薬とか」
「ああ」
「あと病気も流行ってね。今は落ち着いたけど」
「そうなんだ。残念」
「だったら家を借りてはどう?みんなで住めるくらいの」
「お風呂付の家なんてあるの?」
(ん?みんなで?)
「貴族や富豪の屋敷くらいだよ。そんなもの好きは」
「だよね。でも家か。宿屋に泊まり続けるよりいいのかな。遠慮なく洗えるもんね。タライとかあるかな」
「お風呂本当に好きなんだね」
「ということで。家貸してくれるギルド教えてよ。何ギルド?」
「え。第3級なら冒険者ギルドで
「え。そうなの?ありがと。早速行ってくるよ。おっと相談料」
「銀貨1枚でいいよ。金貨は多すぎ」
「そう?じゃあこれ」
僕はアーシェに銀貨を2枚渡し冒険者ギルドに舞い戻った。
「すいません。家借りたいんですけど」
僕は冒険者ギルドに入るとすぐさま受付嬢に突撃して言った。
「ひっ。あ。はい。それではまず冒険者ギルドカードの提示をお願いします」
僕は黒い板に冒険者ギルドカードを近づけた。
「はい。どうぞ」
「あ。第3級なんですね。わかりました。それでどのような家を希望されているんですか」
「えーっと。そうですねえ」
そういや、みんなで住める場所とか言ってたな。集合場所ってことかな。
「孤児院の近くで、二部屋あってトイレがあって庭付きかな。ありますか?」
「孤児院の近くですか。東と西にありますが、どちらですか?」
「西です」
「はい。西の孤児院ですか。治安はあまりよくないですが・・・。えーっと」
受付嬢さんは物件の冊子をペラペラめくって探している。
「ああ。ありました。これでどうでしょう。かまどもありますよ。煙突はありませんが」
そのページには庭付き2DKの平屋の物件が載っていた。
「おお。いいですね。そこにします。家賃いくらですか?」
「え。実際の家を見に行かなくてもいいんですか?」
「いいです。そこで」
「そうですか。今日から住みますか?」
「はい」
「家賃は1か月小金貨5枚です。契約期間は半年からですが、いかがいたしますか?」
小金貨5枚か。半年だから金貨3枚か。
「半年で」
「はい。では家賃は冒険者ギルドカード払いでいいですか?」
「はい」
「では家の鍵とスライム(青)です。家賃にスライムの料金も含まれていますので」
桶に入ったスライムが出てきた。
え。ああ。トイレ用か。
「もしかしたらトイレに先住スライムがいるかもしれませんが、気にせず入れてください」
「はい」(先住とな)
僕は家の鍵と青いスライムが入った桶を受け取り、冒険者ギルドを後にした。
まさかスライム桶を手にする日が来るとは・・・。
僕は受付嬢に貰った地図を頼りに借家に向かい迷うことなく到着した。
(ここか・・・)
僕が住むことになる家は木造だった。
木に囲まれた庭はそこそこ広かったけど草が生え放題だった。
外から
ふと気配を感じたので見てみると緑色のスライムが庭にいた。
「もしかして先住スライム?野生かな?まあいいか。今日からここに住むことになった。よろしくね」
緑色のスライムってどこにでもいるんだな。
スライムにポーションを与えてみたら食べてくれた。
その後草むらの中に消えていった。
(さて。家の中に入ってみるか)
鍵を開け家の中に入ると地面がむき出しだった。
「土間か」
かまどとテーブルがあるくらいで他に何もない。
窓は少なく室内が薄暗い。
(明かりの魔道具を買いに行こうかな。高くなきゃいいんだけど)
家の中を奥に進むと、広い部屋と狭い部屋があり狭い部屋の隣にトイレがあった。
(ここがトイレか。まずスライムから済ませるか)
トイレに入り、スライム桶から青いスライムを穴の中に入れた。
先住スライムがいるかどうかはわからなかった。
二つの部屋は板張りで狭いほうにはベッドがあった。
もちろん布団はない。マントに包まって寝るか。
(こんなものかな。一人暮らしだし。特に家具とかそろえる必要もないし)
土間に戻りテーブルの椅子に座り一息入れた。
(ふぅ。次は家中をポーションで消毒するか)
効果があるかどうかはわからないが気持ちの問題だ。
家中をポーションでびちゃびちゃにした。もちろんトイレも。
満足した僕は固いベッドに横たわり、久しぶりに魔道具の地図を眺めた。
(ドッペルゲンガーの足跡がどこにもないんだよなあ。どうしちゃったんだろ。活動をやめたのかな)
リュックから超能力の本を出し開いてみる。
(ドッペルに関する伝言はないなぁ)
別の超能力がいつの間にか付与されていた。
(精神操作とサイコメトリーか。しかしドッペルはまだ試験中なのかな)
付与された能力の説明を見てみる。
・精神操作
己の感情を操作することができるのじゃ。接触することで他人も精神操作できるのじゃが、おぬしの持つ生命力より強い魔力を持つ者には抵抗されるのじゃ。
・サイコメトリー
対象に触れることで記憶の一部を読むことが出来るのじゃ。同じく強い魔力を持つ者には抵抗されるのじゃ。
(やばそうな能力だなあ。うかつに他人をさわれないよ。能力使わない様にしよう)
僕はホットポーション風呂に入った後、しばらくしてからマントに包まって寝た。
姫の屋敷
「姫様。ミラの様子が少し変です」
「どうしたのじゃ。何があった」
「食欲がないようです。体調が悪くなることはないはずですが」
「ふむ。メイドからエナジードレインをしてないのか?」
「はい。味が違うと」
「うーむ?」
夜。魔法監視室。
「・・・またお風呂ですか。ふふ。好きですねぇ。おや?」
カチャ。扉が開いた。
いつものようにセイジを監視していたメイドが振り返る。
「どうしましたミラさん。ここに来るなんて珍しいですね」
「お腹すいた」
「ここに食べ物はありませんよ」
ミラが映像に映し出されているセイジを発見。
「あああぁ。おいしそおおぉ。今すぐ行って食べたいいいぃ」
「ミラさん・・・。監視対象を食べに行っちゃだめですよ」
困惑するメイド。
メイドの肩にミラの手が触れた。
「!?ぎゃっ。私を食べないでくださいいっ。今日は当番じゃありませんんんっ」
「ごちそうさま」
そういうとミラは部屋を出ていった。
ガクッ。
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