第33話 新人パーティー

アーシェと別れ、僕は竜神教会に行くことにした。


正直、建物に興味はないけど、ついでに王都の街を見てみたかった。


竜神教会は、中央通りではなく二つ隣の通りにあり、富裕層が住む中層に近い場所にあるそうだ。


僕は中央通りを中層に向かって歩きながら、どんな店があるのか見ていた。


(肉屋にパン屋に料理屋か。さすが王都だなあ。いろんな店がある。しかも高級そうだな)


途中、大通りが交差している場所に円形の広場が造られていて、大市おおいちが開催されていた。


(あれは宝石売ってるのかな。毛皮や織物もあるな。お、チーズ?)


その場は商人さんたちの活気にあふれていた。


ほかにも塩や砂糖、金属なども売っていた。


興味を惹かれるものがあったが通り過ぎた。


武器屋や防具屋には行ってみたいな。

 

どんなものがあるのか興味がある。


武器は魔剣を持ってるけど、訓練したら扱えるようになるのかな。


そういや、冒険者ギルド以外のギルドはどこにあるのかな。


魔術師ギルドがあるのならぜひ見学してみたい。


グリーンウイロウではどこにも行けなかったからなぁ。


暇な時ひとりで王都のいろいろな場所を散策してみようかな。




歩いていたら中層を囲う高い壁が見えてきた。ここの壁も黄緑色だな。

 

あの先が貴族や豪商が住む地域なのか。


壁の上から立派な屋敷が見える。


(僕には一生縁のない場所だな)


僕は中央通りを左にそれ二つ先の区画に向かった。


教会はすぐに見つかった。教会のある場所だけ別世界だったのだ。


教会のある建物だけ緑に囲まれた場所になっていた。


教会の建物は、四隅に円柱の建物がある3階建ての直方体で、まるで要塞のような建物だった。

 

教会の建物の色は真っ白で、自然の緑の中に浮かび上がって見えた。


(無骨な建物だな。想像と全然違った。しかし贅沢に土地を使ってるなぁ)


しばらく教会の建物を眺める。


なんだか神聖な雰囲気を感じる。気がする。


さすがに教会の中に入ろうとは思わないので、正門に戻ることにした。


着くころには、お昼になってる頃だろう。


正門につくとアーシェと4人の子供たちがすでに待っていた。


みんな女性だった。


僕は近寄て言って声をかける。


「おまたせです」


「いえ。ちょうどみんな揃ったところだよ。早速紹介するね。みんな自己紹介してよ」


「熊獣人のエイミーだ。冒険者だ」


「同じく。犬獣人のイレーナっす」


「人種のウェンディーですぅ。よろしくお願いしますぅ」


「・・・ヒナ・・・アナウサギ獣人・・・」


「僕はせいじです。彼女の依頼を受けることになった冒険者です。みんなよろしく」


(獣人さんもいるのかぁ。アーシェと同じでみんな髪の毛短いし、ぼさぼさだな。自分たちで切ってるのかな。ケモミミもそれぞれの動物の特徴と一緒だ)


獣人の彼女たちは、それぞれの動物を彷彿ほうふつとさせる可愛らしい顔をしていた。


ウェンディーさんは、ほんわかした見た目だ。


髪の色は、エイミーさんがこげ茶色、イレーナさんが明るい茶色、ウェンディーさんが赤毛、ヒナさんが白っぽい茶色、ついでにアーシェさんは赤茶色だ。


「お兄さん。彼女たちは冒険者ギルドに登録できる年齢になったので、路上ギルドを脱退して冒険者になったの。まあ、その年齢になったら孤児院から追い出されるから、どこかに行かないといけないんだけどね」


「そうなんだ。そういえば冒険者に登録できる年齢って何歳だっけ?」


「14歳ですよ」


(新人冒険者のしおりに書いてたかな?見落としてたな。それにしても中学生の年齢で冒険者か。厳しい世界だ)


「そうだった。忘れてたよ。ところで冒険者以外だと働き口はどこが多いの?」


「男子も女子も農民だよ。最初のうちは路上生活より多少ましって環境だけどね。そのまま路上ギルドに残って他の仕事を探す子もいるけどね。後は、優秀な子は教会の手伝いかな。養蜂とかエール作りとかハーブ園とかいろいろやってるから」


「へえ。男子に冒険者志望はいなかったの?」


「いたけど断られたわ。知り合いの冒険者のところにいったり、仲間内でパーティー組んだりするんだって」


「そりゃそうか。知らない人に教わりたくないよね」


僕は改めて彼女たちを見る。


粗末な服にガリガリの体。栄養状態は良くないようだ。


でも種族差なのか個人差なのか。体格に差がある。


熊獣人の子が一番大きくて、次いで人の子、犬獣人の子と続きアナウサギ獣人の子が一番小さい。


同じ年齢とは思えないくらいの差だった。


そして、何やら各々長さや形の違う木の棒を持っていた。武器かな?


「彼女たちも路上ギルドにいる間、冒険者ギルドで雑用の仕事してたから冒険者について少しは詳しいわよ」


「そうなんだ」


(ということは僕より詳しいということか)


僕が教えることなんてあるのだろうか。


やはり野草くらいしかないな。


それにしても彼女たちの表情が冴えないな。


「アーシェさん。彼女たちは僕が一緒に行動することを納得しているの?なんだか乗り気じゃなさそうだけど」


「いいのいいの。お兄さんは何にも気にせず、彼女たちと一緒に行動してくれたらいいから」


「そうなんだ」


(仕方なくなのかな。気まずいな)


「今まで路上ギルドを脱退して冒険者になった子たちはいっぱいいる。でも、ほとんどうまくいってないのよね。たとえ、すでにあるクランやパーティーに入れたとしてもね。お金がないので装備が揃ってないし、何も知らない初心者だから。最初は雑用などが仕事で今までとあまり変わらないわ。そもそも冒険者になっていきなり活躍するような特別な能力を持った子なんて滅多にいないから」


「そりゃそうだね」


「だから、わたしは路上ギルド出身者による大規模パーティー集団。すなわち『クラン』を作ろうと思ってるの」


「クランか」


「そこで。お兄さんに紹介した彼女たちに、そのクランの中心メンバーになってもらいたいのよ」


「僕が彼女たちを育てると」


「そう。いきなり冒険者になっても稼ぐ知識も技術もない。採取依頼を受けてもどこに生えてるかなんて知らないし誰も教えてくれない。ほかの冒険者だって必死だからね。なにより森で魔獣に会っても身を守る術がない。新人冒険者を育ててくれる親切な冒険者なんて滅多にいないわ。だから路上ギルドの子が冒険者になった時、最低限の知識を学べる場所がほしいの」


「それがクランで彼女たちに期待していることか」


「そういうこと。依頼内容は初めに言った通り、彼女たちが第4級になるまで一緒に行動してもらいます」


「なるほど」


僕は一応第3級冒険者らしいからね。


新人育成は先達せんだつの役目だ。


僕は冒険者になって一週間ちょいの新人だけど。

 

責任重大だな。まさかこんなことになるとは。想定外だよ。


一緒に依頼をこなせばいいだけかと思ってたよ。


そういえば報酬は・・・いいか。貰い辛いことこの上ない。


一緒に冒険者活動をして稼ぐことにしよう。


「話は終わったわね。お兄さん。早速彼女たちを連れて冒険者ギルドに行ってちょうだい。今後の予定を決めないとでしょ?」


「そうだね。わかった。それじゃ皆行こうか」


僕が先に行くと彼女たちも黙ってついてきた。


(パーティーか。どんな依頼を受けたらいいんだろうな。とりあえず初心者がやることをコツコツやっていこう)


僕はちらりと振り返り彼女たちを見る。


獣人3名。人1名か。


獣人か。見た目はケモミミくらいしか人との差がないな。


そういえば、獣人の子に種類とか聞いていいのだろうか。


例えば、犬獣人の子に向かって「君の犬種何?」とか。


・・・。とてつもなく失礼な気がするな。聞かないようにしよう。


アナウサギ獣人の子だけ詳しく教えてくれたんだな。アナウサギを見たことないけど。


正門からここまで、僕たちはずっと無言で歩いている。


こういう時は僕が話題を振ったほうがいいんだよね。


彼女たちのパーティーについて聞いてみた。


「君たち。パーティーの役割とか決まってるの?」


・・・。


反応がない。


「・・・ほら。前衛とかさ」


「一応希望はありますけど、まだパーティーを組んだだけで戦ったことはないんですぅ」


人間の子が答えてくれた。ウェンディーさんだったか。答えてくれてありがとう。


「なるほど。じゃあ。希望を言ってみて。今後のことはわからないから途中で変えてもいいからさ」


「私は魔法使い志望ですぅ。魔術師ギルドにはまだ登録できてないですけど」


と、ウェンディーさん。持っていた長い木の棒を胸に抱えている。


杖の代わりかな?


「そうなんだ。なんで登録してないの?」


「登録料が金貨3枚なんですぅ」


「え!?お金かかるんだ」


「はい。魔法は危険ですからね。気軽に登録されても困るみたいですぅ」


「そりゃそうか。じゃあ依頼こなしてお金稼がないとね」


「はい。月謝もかかりますし、大変なんですぅ」


「え!?月謝まで!?結構お金かかるんだね。そりゃ大変だ」


「なので冒険者ギルドに登録してますぅ。タダなので」


「そうなんだ」


・・・。


話が続かないな。僕から聞いたほうがいいのか。


「えーっと。エイミーさんは?」


「ぶっ倒す」


「・・・なるほど。前衛ね。ちなみに武器は何かな」


エイミーさんは無言でぶっとい木の棒を見せてくれた。


「破壊力ありそうだね。イレーナさんは?」


「同じく。ぶっ倒すっす」


そう言って細長い棒を見せてくれた。


「ああ。剣みたいでかっこいいね。最後にヒナさんは?」


「・・・隠れるの・・・得意・・・」


熊獣人の子の後ろに隠れながら小声で教えてくれた。


「そっかー。斥候かな。重要な役割だよね」


回復職がいないけど前衛二人に斥候と魔法使いの4人か。


パーティーのバランスとしてはどうなのだろう。・・・わかりません。


そういえば、この世界に回復魔法ってあるのかな?


冒険者ギルドで聞くのは恥ずかしいから彼女たちに聞いてみよう。


「ねえ。回復魔法ってあるの?」


「あるみたいですけど詳しくは知らないですぅ。回復ポーションはありますよ。アーシェが物知りなので彼女に聞いてみてください」


「そうしてみるよ」


僕と会話しいてくれるのは今の所ウェンディーさんだけかぁ。


彼女も仕方なく僕の相手をしてくれているかもしれないけど。


そうこうしているうちに、ようやく王都冒険者ギルドに到着した。


彼女たちと仲良くなれるのだろうか。気にせずやっていくしかないか。


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