第29話 キングフィッシャー

護衛依頼の集合場所に行く途中、雑貨屋で保存食や皮の水筒を購入した。


ひょうたんがあるのになぜ皮の水筒を購入したかというと、無限ポーション水筒をごまかすためだ。


誰かに「ちょっと水飲ませて、ひと口だけだから」と言われて、ポーションを出すわけにはいかない。


そう言えばポーションってどれくらいの価値があるのかな。


冒険者ギルドで聞いておけばよかった。全く頭になかったよ。


雑貨屋にはポーションを売ってなかった。


ポーションについて王都で調べてみようかな。


雑貨屋を出たあと、盾を購入するため防具屋に立ち寄った。


魔剣を持っているから、盾も持ってたほうが冒険者らしいと思ったからです。


防具屋には、円盾、四角盾、三角盾などいろいろあったけど、僕は円盾を購入した。


木製で少し重いが持ちやすいものを選んだ。


防具屋のおじさんによると円盾は初心者向けだという。


気休め程度の防具だが、ないよりはましだろう。


飛び道具として攻撃用に使用するのもありか。


鉄球でもあれば良かったけど、さすがにないよね。




集合時間まで少し時間があったので食事でもしておこうと思い、最初に行った料理屋に立ち寄った。


料理屋に入ると早速女将が話しかけてきた。


「あんた攻略者なんだって?人は見かけによらないねえ」


(え。もう情報が広まっているんですか)


「はい。よくご存じで」


すると、女将は奥に行き料理を持ってきた。


(僕、注文していませんよ)


「はいよ。食べるんだろ」


出された料理は、前回食べたときと同じ、黒パンと野菜の煮込みスープと雨水のエール割りだった。


やはりこの店には一品しか料理がないようだ。


「はい。いただきます」


「この街であたいが知らない情報はないよ。わはは」


「そうなんですか」


何者なんですか、この女将さんは。


「そんなことより、あんたのこと嗅ぎまわってる連中がいるよ。気を付けな」


「え!?そうなんですか?全然気付きませんでした」


「まったく暢気のんきだねぇ。攻略者なんだから、あんたが持っている金目の物や情報を狙ってるんだよ」


「ああ。確かにそうですね。気を付けます」


僕は思わず剣帯に収まっている魔剣の感触を確かめた。


女将が僕の目の前に座り話を続ける。


「ちょっと聞きなさいよ。なんでもあんたを狙ってたらしい冒険者達が霧の森のダンジョンで行方不明になったらしいわよ。裏でいろいろな連中がやりあってるんだろうねえ」


「えええっ!?そうなんですか?やばい状況になってますね」


僕も狙われているのか・・・。女将の話が本当なら気を引き締めないと。


その後も女将の話が続き、


「雨水をためる樽を増やそうかしらと思ってんのよ」


「樽に貯めるてるんですね」


本物の雨水のエール割りだった。


「そうなのよ。ようやく、この街で二つ目の庶民用の井戸を掘るらしいのさ。でもやっぱり金取るんだと。ケチな代官だよ。まったく」


などいろいろ話してくれた。


女将の話を聞きながら僕は食事を終えた。


「ごちそうざまでした。これから護衛依頼で王都に行くんです。お世話になりました」


「そうかい。護衛依頼かい。飲み水は用意したのかい?」


「皮の水筒は買ったのですが水はまだですね。水ありますか?」


「あいよ。最近雨が降ったばかりだからね。水樽の上澄みの部分をすくってあげるよ」


「ありがとうございます。これです」


女将に皮の水筒を渡した。ついでに水事情も聞いてみた。


「飲める水ってこのあたりでは貴重なんですか?」


「きれいな水は貴重だね。井戸水とかね。だけど雨は定期的に降るから困ることはないね。飲み水はエールで十分だし」


「そうなんですか」


お酒が飲み水代わりなのか。


女将が奥に行き、水を入れて戻ってきた。


「はいよ。ちゃんと酒で割るんだよ。時間が経つと腐っちまうからね」


「はい。わかりました」


お酒は消毒だったのか。


僕は皮の水筒を受け取る。


「王都ねえ。頑張りな。あんたならやれるよ。今度来た時は自慢の自家製エールを飲んでおくれよ」


「はい。その時はぜひ。ありがとうございました。それでは」


僕は料金を支払い、店を出て集合場所へ向かった。




街の外の集合場所に到着すると関係者がすでに揃っていた。


「よう。セイジ。改めて自己紹介するぜ。俺が護衛のリーダーを務めることになった冒険者パーティー『キングフィッシャー』のアーチボルトだ。よろしくな」


「はい。よろしくおねがいします。改めまして、せいじです」


「仲間を紹介する。左からイギー、ウィル、エリック、ガイだ」


「みなさんもよろしくおねがいします」


キングフィッシャーのメンバーと握手を交わした。


その後、みんなで依頼主のもとを訪れ挨拶をした。


いよいよ出発だ。


荷馬車の御者は商人さんたちがするという。


キングフィッシャーのメンバーもできるそうだが、護衛に集中してほしいそうだ。


僕も出来るようになったほうがいいのだろうか。


荷馬車は2頭立てで箱型の荷台だった。やっぱり馬は小さい。これがこの世界の標準サイズなのだろう。


すでに商品や食料は乗せてあり、荷台の隙間に冒険者の荷物を載せてもらった。


僕の荷物はリュックだけなので気楽なものだ。少ないのかな。


護衛期間中、キングフィッシャーの皆さんの持ち物をチラ見しておこう。


護衛の冒険者たちは、荷馬車を囲んで歩いて付いて行くことになっている。


僕は最後尾を任された。


何をやったらいいかわからないので、たまに後ろを振り返っている。


斥候のガイさんが荷馬車を先行して歩き出した。


いよいよ王都へ向かう。約一週間の長旅だ。




(護衛6人か。多いのか少ないのかわからないな)


ちょっと緊張して歩いているとリーダーのアーチボルトさんが話しかけてきた。


「一応確認しておくぞ。お前、護衛依頼が初めてらしいからな。馬での移動なので2時間おきに休憩だ。最初の街までおよそ二日。日が暮れそうになる前に適当な場所で野営に入る。まあ、だいたい商人や旅人が利用する決まった場所になるだろうがな。夜の見張りは二人ずつで交代していく。王都まで村を二つ寄って一週間程度で到着すると考えてくれ。以上だ。質問があったら何でも聞いてくれよ」


「はい」


最初の2時間はさすがに何事もなく過ぎて休憩に入った。


そこで、生まれて初めて皮の水筒に入った水を飲んでみた。


(皮の味がすごい)


水筒の皮の匂いが水に移ってました。しかも、どうやら硬水らしい。


そう言えば、雑貨屋の人に教えてもらったんだけど、皮の水筒ってヤギの胃袋でした。複雑だ。


羊とどっちがいいか聞かれたけど、どちらでもよかった。


初日の護衛の旅はその後も順調に進み、いよいよ日が暮れ始めた。


商人さんとリーダーが相談し、次の広場で野営をすることになった。


森の手前にある広場に着くと、ほかにも数組の荷馬車が先に野営をしていた。


こういう場所が道沿いに何か所もあるそうだ。


広場といってもただ木が生えていないだけの開けた場所だ。


草ぼうぼうで、所々焚火などで土がむき出しになっている場所がある程度だ。


「セイジ。俺達は周囲を見てくる。依頼者と火の準備などをしててくれ」


「わかりました」


商人さんたちは馬に餌や水を与えている。


僕は枯れ木を集め、焚火をするため超能力で火を付けた。


「おや。魔法ですかな」


商人さんたちに見られたようだ。


どうしよう。魔法ということにしたほうがいいのかな。


「はい」


「若いのに優秀ですな。さすが第3級ということでしょうな」


「ですな。では我々も料理の準備に取り掛かりましょう」


食事は商人さん持ちだ。もちろん最低限の量だ。


足りない場合は各自で用意したものを食べるということになっている。


キングフィッシャーの人たちも周囲の見回りから帰ってきて、みんなで食事をした。


食事は、ほとんど具のないシチューと魚の干物と黒パンだった。


干物、塩っ辛いです。この世界の保存食はすべて塩の塊なんだな。


乾パン買っててよかった。


他の人たちを見てみると干物を細かくちぎって少しづつ入れていた。


そうやって食べるのか。なるほど。大きい塊のまま入れてたよ。


僕以外は軽く酒を飲んでいる。


「おいお前ら。アルコール度数が低いからと言ってあんまり飲むんじゃねえぞ」


「わかってるよリーダー。そもそも酔わねえよ」


「そうだよ。こんなの果汁と一緒じゃねえか」


「リーダー。秘蔵の酒を出してくれよ」


「なんでだよ。お前らに飲ませるわけねえだろ」


「相変わらずケチだなぁ。うちのリーダーは。だからモテないんだよ」


「がはは」」」」


「うるせえ」


キングフィッシャーの皆さんが、にぎやかな人たちでよかったです。




そんなこんなで夜が更けてきて、いよいよ夜の見張りになった。


僕は最初の番になった。


相手はリーダーのアーチボルトさんだ。


商人さんたちは荷馬車と焚火の間でテントを張って寝ていた。


他のキングフィッシャーの人たちは、焚火を囲むようにマントをまとって寝ている。


「おつかれ。どうよ護衛は」


「お疲れ様でした。さすがに緊張しましたね」


「本番はこれからだぞ。気を張りすぎるな」


「はい。そうですね」


「周囲の警戒は俺らがやるからよ。お前は戦闘の準備をしていればいい。ちなみに索敵系の能力は持ってんのか?」


「いえ。持ってないです」


「そうか。おまえ第3級なんだろ?」


「はい」


「その若さで第3級とは末恐ろしいな。俺たちはみんな第4級だ」


「そうなんですね」


「お前の得物えものは、その剣でいいのか?ずいぶんド派手だな」


僕の横に置いている剣に目が向いていた。


「えーと。はい。まあそうですね」


そう言えば鞘から抜いたことなかったな。一度くらい剣を振っておくべきだったか。


それにしてもこの鞘。目立ちますね。


「剣と盾持ちか。荷馬車が襲われたときは、俺のパーティーの一人が依頼人を守るから、お前は自由にやってくれ。連携なんか取れないだろうしな」


「はい。そうさせてもらいます」


「ただし、荷馬車から離れて深追いはするなよ」


「はい。気を付けます」


交代の時間までリーダーと、たわいもない話をして過ごした。


交代の時間になり、僕は荷馬車のそばでマントをまとい寝ることにした。


テントどうしようかな。必要なのかなぁ。でも運ぶの重そうだしな。買わなくていいか。


それにしても索敵能力か。


アーチボルトさんの言葉が思い出される。


僕も使えるようになりたいけど、どうしたらいいんだろう。


視覚、聴覚、嗅覚の強化と危機感知や直感だと索敵範囲が狭そうだしなぁ。


結界を応用したらできるんだろうか。


夜空を見ながらぼんやりと考える。屋敷で見た景色と同じだ。


それはそうと、初めてこの世界の人と旅をするわけだけど、僕の能力を明かしてもいいのだろうか。


確か姫様は、超能力者はこの世にいないと言ってたしなぁ。


でも僕と同じことを魔法で出来るとも言ってたか。


あと持ってる魔道具だな。


ポーションが無限に出てくるひょうたんとかを人に言わないほうがいいよね。


この旅はこの世界の常識を知るいい機会になりそうです。


テレポート(自身の転移)と物体操作(自身の浮遊など)は控えておいたほうがいいのかな。


発火は魔法っぽいから大丈夫か。魔法見たことないけど。


商人さんも魔法だと認識していたし。


物理結界と念動波は見えないから思いっきり使っていこうかな。


危険な時は、超能力の全力発動だな。死んでまで能力を隠す必要はないもんね。


危険な旅だろうし命を大事にいこう。


そんなことを考えていたら、僕はいつの間にか眠りに落ちていた。




その頃、グリーンウイロウ冒険者ギルドのギルドマスター室ではギルドマスターが一人仕事をしていた。


ギルドマスターが資料を作成しているとサブギルドマスターがやってきた。


「行ったか」


「はい。不思議な冒険者でしたね」


「そうだな。一人でダンジョンを攻略する奴だもんな」


「ええ。攻略後依り代や素材を持ってきたときはびっくりしましたよ」


「ああ。ギルド中が大騒ぎだったな」


「初めてこの街に現れた時から規格外でしたけど」


「そうだったな。毎日休まず依頼こなして、いつ寝てるんだっていうくらい働いてたな」


「ええ。24時間営業の冒険者ギルドをあそこまで活用した人は彼らだけでしょうね」


「がっはっは。ちがいねえ。ちょっとまて報告書を確認する」


「はい」



報告書『霧の森ダンジョンについて』 


攻略された霧の森ダンジョンは、まだ若いダンジョンで階層も2つしかなく環境の変化も少なかった。

ダンジョンの年数が経つと、地上が隆起した階層が出来たり地下階層ができたりするがその傾向も見られなかった。

魔獣が強化されていくものだが、その影響も少なかった。

攻略が早かったためダンジョン産魔道具および貴重な素材の発生が少ないことが予想される。


霧の森ダンジョンは、街に近く深い霧のせいで依り代に近づくことができなかったため攻略対象になっていましたが、若いダンジョンは攻略しないという方針に変更は必要ないと思われます。


霧の森ダンジョンは調査の結果、王国ができる前に誕生したものと思われます。

依り代となった剣の情報をもとに、依り代が安置されていた祠の調査を進めれば、より正確なダンジョン発生の年代がわかることでしょう。

指示通り再ダンジョン化の実験も行いました。


追伸 攻略者がグリーンウイロウを出発し王都に向かいました。

出自経歴、背後関係、能力すべて不明。冒険者ギルドカードの情報解析求む。


グリーンウイロウ冒険者ギルド所属ギルドマスター クリントン。



「はあ。めんどくせえ。こんなもんか。これを王都の冒険者ギルドへ魔道具を使って届けといてくれ」


「わかりました。ギルドマスター」


「それで例のルカの方はどうだ」


「元気に働いています」


「そうか。まだやつらに感づかれてないか?」


「そのようです。ミイがいますのでその辺は安心していいかと」


「ふむ。結局セイジたちは無関係だったか」


「そうですね。おそらくは。ところであの姿隠しの魔道具はどうされたんですか?ずいぶん年代物でしたが」


「ああ。あれか。昔、俺が冒険者だったころ世話になった狐の獣人の長老に貰ったんだ」


「へえ、そんなことがあったんですね」


「ところで、あの依り代の剣の由来だが知りたいか?」


「いえ、結構です。それでは失礼します」


「そうか?お疲れ」


報告書を手にサブマスが部屋を出て行った。



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