第27話 受付嬢ルカ

「セイジさーん」


冒険者ギルドを出たところで、大声で呼ばれたので振り返るとピンク髪受付嬢のルカさんが追いかけてきた。


「なんですか?僕、なにか忘れてましたか?」


「そうじゃないんです。もうそろそろお昼ですから一緒にお昼ご飯いかがですか?」


「え?ああ。そうですね。でも僕、おしゃれな料理屋を知らないんですよ」


「でしたら私のおすすめのお店でいいですか?」


「はい。いいですよ」


すると、ピンク髪の受付嬢の背後から不穏な気配が近寄ってきた。


「ちょっと。ルカ」


「あ。ミイさん。どうしたんですか?」


「どうしたんですかじゃないわよ。あなたどこ行くのよ」


「食事に行くだけですよ。一緒に。ね、セイジさん」


何だか穏やかじゃないですね。


「え?うん。えっと、ミイさんもいかがですか?報酬が入ったのでおごりますよ」


「仕方ないですね。ご馳走になります」


「やったー。さすがセイジさん。結局一緒に行くんですね。ミイさん」


「誰のせいですか。さっさと案内しなさい」


「はーい」




ルカさんおすすめのお店は、中央通りに面した小綺麗な店だった。


僕一人では絶対に入れないな。


メニューはピンク髪のルカさんに決めてもらった。


「お肉頼んじゃいました。楽しみです」


「ルカ。セイジ君のおごりだからって高いもの選んじゃだめじゃない」


「大丈夫ですよ。僕もお肉食べたかったんで」


「セイジ君がそういうなら」


出てきた料理は、豚肉の入った野菜たっぷりシチューと茶色いパンと飲み物だった。


「私がはちみつ酒で、ミイさんがりんご酒で、セイジさんは何も頼まないんですね。お酒は飲まれないんですか」


「はい。お酒は飲んだことないですね」


(雨水のエール割りは抜きにして)


「え?水分補給はどうしてるんですか?」


二人ともちょっと驚いている。


なるほど。変なのか。勉強になる。


「ミルクとか果汁とかスープとかいろいろあるでしょ。ねえセイジ君」


「ええ。まあそうですね」


雨水のエール割りが候補に入っていませんね。


ポーションで補給してますとは言わないほうがいいのかな。


「ふーん。そういえばセイジさんは私の髪の毛について興味を示しませんよね。どうしてですか?」


「え。ピンクの髪ですか?珍しいですよね。街では一人も見かけませんでした」


「そう、珍しいんです。私も同族以外見たことありません」


「同族?」


「ルカは獣人なんですよ」


「へえ。そうだったんですか。見た目じゃ全然わかりませんね」


「セイジさんは私に興味ないんですか?ピンク髪ですよ?」


「え。興味と言われましても」


「そうですかぁ。それは残念です。私は超貴重なモモイロインコの獣人なんですよ?」


「はあ。モモイロインコですか」


「自分で超貴重とか言っちゃうから、セイジ君呆れてるじゃない」


「そうなんですか?セイジさん」


「いえ。そんなことはないですよ。教えてもらえて光栄です」


「ほら。セイジさんはそう言ってくれましたよ。ミイさん」


「セイジ君はやさしいですから。それにピンクの髪は貴方の種族だけじゃないでしょ」


「まあ、そうですけど。貴重なのは変わりありません。実は、前はもっと派手なピンク色だったんですけど、髪の毛から魔力が抜けてきちゃって、色が落ちてきてるんですよねぇ」


そう言いながらルカさんは、自分の髪の毛をペタペタ触っていた。


「へえ、魔力が毛に溜まるんですか」


「私の地元は魔力が濃い場所だったんですよ」


「そうなんですか。ここは魔力が薄いんですね」


「そうなんです。何もない平地ですから。あ。そうだ。私の髪の毛が完全に白くなったら、私と会ってくれませんか?」


「え?それは構いませんけど。あとどのくらいですか?」


「半年くらいですかねぇ。白くなったら連絡しますね」


「はぁ」


半年後かぁ。何やってるんだろうな。


「こらルカ。自分のことばかりべらべらしゃべるんじゃありません」


「はーい」


「二人は仲がいいんですね」


「そうなんです。ね、ミイさん」


「よくないです。ところでセイジ君は今後ソロで活動していくんですか?」


「そうですね。知り合いもいませんし」


「え。セイジさん、一緒に冒険してくれる親友いないんですか」


「こら。ルカ失礼でしょ」


「いえ。いいんです。友達はいたんですけど親友はできないんですよね。自分のせいなんでしょうけど」


「セイジさん。大丈夫ですよ。わたし友達すらいませんから」


「何が大丈夫なのよ。セイジ君ならいつかできるわよ。ルカは無理だけどね」


「ちょっ。ミイさんひどいぃ」


「セイジ君。冒険者ギルドでパーティーメンバー募集してたりするから気が向いたら利用してみてね」


「はい。ありがとうございます。ですが、しばらくはソロでやってみようと思います。まだ新人で冒険者について知らないことが多いですから」


「新人とは言ってもセイジさんは第3級じゃないですか。攻略者だし」


「そうね。セイジ君、まだ一か月ですもんね。信じられないわ」


「・・・。まあ偶然というかなんというか。運が良かっただけです」


「偶然じゃないわ。セイジ君、ものすごく頑張ってたじゃない。胸を張っていいわ」


「・・・。はい。ありがとうございます・・・」


あああ。胸が痛い。


「今後はどうされるんですか?第3級だったら領主とかどこぞの貴族からお抱えのお誘いがあるかもしれませんよ?領地内のダンジョン管理とか、魔獣退治とかいろいろな仕事がありますから。お給金もいいですし」


「そういう仕事があるんですね。でも今の所は興味ないですね」


「ですって。ミイさん」


「なんなのよ。セイジ君が決めることでしょ」


「そうですね。うふふ」


店に来て一時間くらい過ぎてるけど、彼女達は一向に帰るそぶりを見せなかった。


「あの冒険者ギルドに戻らなくてもいいんですか?お昼休憩ですよね?」


「いいんです。お昼は暇だし」


とのルカさんの言葉に、僕はミイさんの方を見る。


すると、ちょっと困った顔で、


「冒険者さんとの打ち合わせということで」と答えてくれた。


大丈夫なのだろうか。


その後も、デザートの小麦の焼き菓子を食べながら女子達の会話が続いた。


僕はというとほぼ相槌を打っていた。


(僕は話を振られた時しか会話に参加できないな・・・。こういうところかも)


楽しい食事会も終わりを迎え、その場で解散となり僕はようやく宿屋に向かうことが出来た。


食事代は3人で銀貨21枚だった。


早く眠りたい。




受付嬢二人は、冒険者ギルドへ向かうため中央通りを歩いていた。


「ちょっとルカ。何であんな場所でセイジ君にあなたの秘密を言ったのよ。彼が安全だとはまだ確定してないわ。それに他の誰かに聞かれるかもしれないでしょ」


「大丈夫ですよ。ミイさんが助けてくれますから」


「わざわざ自分を危険な状況に追い込まないの。あなたが騒ぐと認識阻害の効力が薄れるんだから。それに、いつも私があなたの側にいるとは限らないでしょ」


「はーい。気を付けまーす。セイジさんは何も知らなかったみたいですけど」


「まったく。しかもセイジ君に微妙に間違った情報を伝えるなんて。セイジ君もいい迷惑だわ」


「優秀な冒険者と繋がりを持ちたかったんですよ」


「味方かどうかはまだわからないわ。身元も背後関係も不明だしね」


「慎重ですね。でもいい人そうでしたよ」


「それはそうだけど。とにかくあなたに繋がる情報が広がらないように注意して」


「セイジさんってほかの冒険者とは雰囲気が全然違いますよね。匂いも。なんだか安心します」


「何よ急に。まあそうね。新人だしね」


「うーん。そういうことじゃないんですけど」


「なによ」


「どこの国から来たんでしょうね」


「さあ。ここら辺じゃ見ない顔だからかなり遠い場所じゃないの?」


「聞いたら教えてくれますかね?」


「教えてくれるかもしれないけど、私たちが詮索するのは禁止よ」


「はーい。そういえば、女性の姿が見えませんけど、もう付き添いは必要なくなったんですかね」


「セイジ君の声が出るようになったからじゃない?」


「ああ。そうですね」


冒険者ギルドが目の前に迫ってきた。


「それにしても、何で私は幸せにならないのかしらね。毎日あなたの近くにいるのに」


「ミイさんを幸せにするには、私一人では無理ということですね」


「・・・」


「・・・」


「やっぱりただの迷信だったのね」


「そういうことにしておきます」


「・・・」


「・・・」



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