第26話 ギルドマスター
グリーンウイロウ冒険者ギルドのギルドマスター室。
その部屋の中にはギルドマスターとサブマスターがいた。
「あいつらがこの街に現れて約一か月たったが、二人の素性や背後関係は何か掴めたのか?」
「いえ全く。女の方は、冒険者ギルドカードや他ギルドの所属証を所持しているかどうかも不明です」
「そうか。二人そろって謎だらけだな」
「男の方ですが、ようやく冒険者ギルドに現れました。街中で食事をしたようですし、物品の購入も始めました」
「そのようだな。今までどうやっていたのか。外に協力者でもいるのか」
「その可能性も考えて、彼らが行った依頼の場所を調べてみたのですが、馬車の痕跡や火を使った形跡もなく何もわかりませんでした」
「そうか。徹底してるな。引き続き監視を怠るな。他にもいろいろ動いているようだしな」
「はい」
僕は朝方に街に戻ることが出来た。
思いがけず徹夜になってしまったので非常に眠たい。
とりあえず冒険者ギルドに報告と納品をして、どこか宿屋を教えてもらおう。
冒険者ギルドに到着し受付に向かう。
「あら、セイジ君。朝早くどうされました?これから霧の森のダンジョンに向かうのですか?」
冒険者ギルドの受付嬢のミイさんだ。
もう一人、僕に話しかけてくれたピンク髪の受付嬢のルカさんは、奥で働いていた。
「いえ、依頼の納品です。霧の森のダンジョンで採取した薬草と魔石少しとダンジョンの地図です。渡された剣も
素材が入った袋を受付の台に乗せ、ミイさんに渡す。
「えっ。もう終わらせてきたんですか。さすがですね。確認しますね」
「はい」
「あ。ギルドマスターが2階の保管室にいるはずなんで行ってください。その間に薬草と魔石の査定をしますので」
「はい。2階ですね。何の用ですかね」
「霧の森のダンジョンと盗賊の件についてらしいですよ。保管室は2階に行って右側の突き当りです」
「わかりました」
階段を上り2階に行き、突き当りの保管室の扉をノックすると野太い声が返ってきた。
「おう。入れ」
部屋に入るとやたら体格のいい
部屋の中には、薬草や魔獣の毛皮や牙などいろいろな物が床や台の上に綺麗に並べられていた。
「誰だお前」
「冒険者のせいじです。受付の人にギルドマスターがここに居ると言われまして」
「ほう。お前がセイジか。まだまだガキじゃねえか」
「はぁ」
この人がギルドマスターなんだろうか。いかつい人だな。
「依頼達成の速度が速すぎて昇級を保留していたが、その間にまさかダンジョンを攻略してしまうとはな。まぁギルドに全く来なかったお前には関係なかったがな」
そう言いながらその男は、僕に値踏みするような視線を向けてきた。
「どうみても第3級冒険者には見えねえな。それどころか冒険者にすら見えねえな」
「そうですね。自分でもそう思います」
冒険者になって、まだ一日も経ってないですから。
「霧の森のダンジョンをあっというまに攻略したんだ。どうやったかは知らねえが実力はあるようだな」
「・・・」
僕じゃないんです。本当は。心苦しいな・・・。
「お前なら第1級に行けるかもな」
「いえ。それは無理だと思いますよ」
「だろうな。全く強そうに見えん。 品格もないしな」
「・・・」(ぐっ。全くその通りです)
「そう落ち込むな。何も単純な強さだけでランクが上がるわけじゃない」
「そうなんですか?」
「お前ランクについて知ってるか?」
「新人冒険者のしおりの情報だけです」
「そうか。あれを読むやつがいるんだな」
「え」
「昔は格付け《ランク》なんてなかったんだがな。当時の冒険者の質が社会的に問題になってな。危機感を覚えた国々と冒険者ギルドが協力して冒険者法を作り、冒険者の質の向上を図ったんだよ」
「そうだったんですか」
「最高ランクは第1級って書いてあったろ?」
「はい」
「実は当初その上があったんだがな。なかなか現れないんで消されたんだよ」
「へえ。そんなのがあったんですか。ちなみに何級ですか?」
「英雄級だ。色は紫」
「英雄ですか。それは早々現れないでしょうね。色は紫なんですね」
「まあな。人類の危機を救うのが英雄だからな。そして、すべての人から認められた存在しかその身に帯びることを許されない。紫とはそういう色だ」
「なるほど。今まで何人いたんですか?」
「過去に一人だけいたそうだ。頻繁に人類の危機が訪れたらたまらんからな」
「そうですよね」
「ちなみに現在、冒険者のほとんどが第5級に属している」
「格付け《ランク》の規定が厳しいんですか?」
「素人冒険者が多いだけだ。実力が足りてないのさ。さて無駄話はこれくらいにするぞ。お前が持ち帰ったダンジョンの依り代の剣の鑑定と素材の査定が済んだ。素材はギルドで買い取りという話だったな。あとで受付で報酬を受け取ってくれ」
「・・・はい」
「あと魔石と・・・。ああ、盗賊の件もまだだったな。その報酬も同様だ」
「・・・はい」
盗賊の件か。ドッペルは何をしたんだろうか。
「何といってもダンジョンの依り代だな。俺も長いこと生きてるが初めて見たぞ」
僕もまだ見たことありません。っていうかやっぱりこの人がギルマスか。
まあ、存在感の大きさで何となくそうかなと思ってたけど。
ギルマスが台の上に置かれていた豪華な装飾の施された剣を手に取った。
ド派手な鞘ですね。
「この剣はどこに設置してあったんだ?」
「最深部の湿地にある古い巨樹のうろですね」
よかった。霧の森のダンジョンに行っておいて。
「そうか。この依り代となった剣は鑑定の結果、水属性の魔剣と判明した。もともとは普通の儀式用の剣だったが、魔力の影響で魔剣になったようだな。魔剣の魔力を解放すると中級の水属性魔法が発動される。濃霧の範囲魔法だそうだ。この魔法は、すでに発見かつ解析済みで、魔術師による再現が可能となっている。魔剣の価値は下位だそうだ。若いダンジョンだったからな。そんなもんだろ。ちなみに呪われていないそうだ。あと数十年寝かせてたら中位になってたかもな。がっはっは。ほら受け取れ」
そう言うとギルドマスターが僕に向かって魔剣を投げてよこした
「!?」
ガシッ。僕は慌てて両手で大事に受け取めた。
魔剣を投げないでくださいよ。まったく。
これが魔剣か。格好いいな。それにしても呪いとかあるんだな。
「あ。ギルマス。僕、昨日依頼で霧の森のダンジョンに行ったんですが、そこで守護獣らしき白蛇にこれをもらいました」
「何!?見せてみろ」
めちゃめちゃ驚いているギルマスに白い玉を渡した。
「これは・・・もしかしてダンジョンの宝玉か?」
ギルドマスターが震える手で受け取った。
「お前。これ触ったよな」
「はい」
「何か変化があったか?」
「いえ何も。そのままです」
「そうか。宝玉じゃねえのか?わからんな。それにしても守護獣か。最初に行ったときに倒さなかったのか」
「はい。依り代の剣さえ持ち出せばよかったので?」
だよね。ドッペル。
「そうか。で、その守護獣は今もそこにいるのか?」
「いえ。冒険者が来るので
「そうか。ん?守護獣と会話したのか?」
「はい。たぶん魔法的なものかと」
「そうか。じゃあ強さはわからんか」
「はい。ただただデカい白蛇だったとしか。あ、禁忌の森に向かうと言ってました」
「禁忌の森?そうか。それも貴重な情報だな。しかし意思疎通が出来るのか。一応冒険者たちに注意喚起しとくか。ほれ返すぞ」
ギルマスは僕に向かって白い玉を無造作に放り投げた。
ちょっと。また投げてきたよ、この人。
僕はしっかりと受け取め、白い玉をリュックにしまい込んだ。
「ちなみにダンジョンは何層だったかわかるか?平地のダンジョンはわかりにくいんだが」
「え。あぁ、たしか2層だと言ってました」
「守護獣の白蛇がか」
「はい」
「・・・。そうか。まあいいか。よし。すべて終わったな。もう帰っていいぞ」
「あ。はい」
僕は保管室を出て報酬をもらいに受付に向かった。
セイジが出て行ったあと、保管室でギルドマスターと職員たちが会話をしていた。
「まったく。人は見た目じゃわからんもんだな。全然強そうに見えん。あ・・・」
「どうされましたか。ギルドマスター」
「依り代となった剣の由来を伝えるのを忘れた」
「あー。まあいいんじゃないですか」
「そうか。しかしなあ。せっかく調べてもらったんだが・・・。お前たちは知らんだろうから教えてやろう。おほん。あの剣は今は無きとある国の貴族が・・・」
「それでは、私は仕事に戻りますね」
「お供を連れて、この地に・・・」
バタン。扉を閉めて職員は仕事に戻っていった。
「きれいな湖を見つけ、そこで・・・」
「では我々も素材を倉庫に持っていきますね」
バタン。すべての職員が部屋から出て行った。
「狩りをしていると湖から・・・」
保管室にギルドマスターが一人残された。
僕は再び受付に行き、ミイさんから今回の報酬をすべて受け取った。
「これが明細書です」
盗賊情報の報奨金と霧の森のダンジョンの素材や魔石の買取価格が書かれてあった。
あ。そういえば前に貰ったやつ見てなかった。
リュックから取り出し見てみた。
(併せて約金貨30枚か。大金だな)
「報酬の金額が大きいので、すべて冒険者ギルドカードに
僕は冒険者ギルドカードを受け取る。
それにしても冒険者ギルドカードの機能すごいな。さすが魔道具だな。
「現金が必要な時は、どこの冒険者ギルドでもカードで下ろせますので」
「はい」
ほとんどドッペルゲンガーが稼いだお金か・・・。
「あ。ちょっと伺いたいたいんですが、あの灯りは魔道具ですか?」
僕は壁に取り付けてある照明器具を指さした。
「そうですよ。光属性の魔力結晶を利用したものです。結晶が魔力によって変質したものですね。光を溜めたり放出したりする性質を持っています」
「へぇ。そんなものがあるんですね。教えてくれてありがとうございました」
「いえいえ。わからないことがあったら何でも聞いてくださいね」
「はい。それでは他にもいくつか質問を・・・」
ミイさんに僕の知りたかったことを教えてもらい、冒険者ギルドを後にした。
金貨30枚か。この世界ではどのくらいの価値なんだろうか。
当面生活には困りそうにないとは思うけど僕が稼いだ物じゃないからなぁ。複雑だ。
どうしよ。これって姫様からの贈り物なのかな。
それにしても、なんやかんやで時間かかっちゃったな。とりあえず寝よう。
僕は、ミイさんに教えてもらったトイレのある宿屋へ向かうことにした。
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