第24話 霧の森の調査
僕が門を通過して街の外に出てみると、空き地の一画に馬車が集まっていた。
何だろう。荷馬車?それとも乗合馬車かな?
馬も馬車も生まれて初めて生で見たよ。
馬はなんだかちょっと小さいような気がするな。
この世界の馬は前の世界の馬とは違うのだろうか。
たぶん魔力持ちなんだろうし。見た目ではわからないけど。
僕は、馬車の近くにいる冒険者らしき集団に近寄って、会話を盗み聞いてみると、どうやら霧の森ダンジョン行きの乗合馬車が出ているようだ。
乗合馬車に乗れば霧の森ダンジョンに確実に行ける。
しかし、僕は馬車に乗らずに後を付いていくことにした。
万が一、ドッペルゲンガーのことを知っている人がいて、僕に霧の森のダンジョンについて色々聞かれても困ります。
僕が攻略したことになっているけど行ったことすらないのだから。
僕は、ぎりぎり乗合馬車を見失わない距離を保ちながら付いて行った。
冒険者を乗せた霧の森ダンジョン行きの乗合馬車は、北に向かった。
途中、広大な畑の中を縫って流れる川を越えた。
川には石橋が懸けられていて、水車と水車小屋もあった。
小麦か何かを粉にしているのだろうか。
乗合馬車は途中で北西に進路を変え、街から2時間ほどの場所に到着した。
ドッペルゲンガーが地図に残した跡と場所が一致していた。
目の前に
この奥に霧の森のダンジョンがあるのか。
乗合馬車が止まった場所にはたくさんの人がいた。
恰好を見るにダンジョンに挑む冒険者たちだろう。
衛兵らしき人もいる。商売をしている人たちもいた。
そこには、冒険に必要な道具を売ったり食事ができる露店などいろいろな店が出ていた。
霧の森のダンジョンについての冊子も売っていので、僕は即購入した。
銅貨3枚だった。
とりあえず休憩しよう。
人がいない場所へ行き腰を下ろした。
僕は雑貨屋で購入した乾パンとハムを食べてみた。
(ぐおっ。ハム、めちゃくちゃ塩辛い。乾パンは石みたいだな)
急いでポーションで流し込んだ。
このハムはスープか何かに入れたほうがいいな。
食事はやめて、さっそく購入した冊子を読んでみる。
『霧の森のダンジョンについて』
霧の森のダンジョンは、
ダンジョン内は常に濃い霧で覆われており、方向感覚を狂わされる。
魔獣の危険度は高くないが、視界の悪い霧の中、突然襲われる。
霧の森のダンジョンが発見されて10年経つが、最深部まで辿り着いた者はいない。
霧の森のダンジョンは、ダンジョンの成長速度が遅く周囲への危険度は低い。
霧の森のダンジョンを覆う霧は、微量な魔力を帯びており魔力探知などの索敵を妨害している。攻撃魔法の使用に影響はない。
ダンジョン内の霧の視界は3mほどである。
棲息している主な魔獣は、白毛狼、白毛猪である。
ちなみに白毛狼は王国の東にあった国の森に棲息する
同じく白毛猪はシトロンリーフの街近くの森にいる
白毛猪や白毛狼は、在来種の狼や猪が霧の森のダンジョンの魔力の影響を受けた変異種である。
変異種はダンジョンが攻略されると徐々にいなくなると考えられている。
霧の森のダンジョンは、今のところ平面型ダンジョンで円形状に展開し成長している。
ちなみに迷宮型ダンジョンは、立体的に地下や上空に向かって成長するダンジョンである。
一般的にダンジョン最深部にはダンジョンを創造する依り代があり、その依り代を守護する守護獣がいる。
依り代が設置してある場所を
依り代とは周囲の魔力を吸収する天然の魔道具であり、その依り代が、集めた魔力を使ってダンジョンを創造していると考えられている。
なぜダンジョンを創造しているかについては、いまだ解明されていない。
ダンジョンは、依り代を破壊するかダンジョンの外に依り代を持ち出すことで崩壊する。
ダンジョンの宝玉について
ダンジョンでのみで発見される伝説の秘宝『ダンジョンの宝玉』と呼ばれるものが存在していると言い伝えられている。
ダンジョンの宝玉は、依り代が集めた魔力の一部が物質化した物といわれており、
ダンジョンに必要なかった魔力で作られているのではないかと考えられている。
宝玉に触れると武器、防具、アクセサリなど所有者に最も必要な魔道具に変化するといわれている。王城の宝物庫にはダンジョンの宝玉だったと云われている魔剣が存在する。
ダンジョンでは高濃度魔力が含まれたいろいろな物が見つかる。
ダンジョン攻略後も冒険者が一攫千金を目指して訪れる理由である。
ダンジョン内の鉱物、魔獣、野草、木、水などあらゆる自然物や、ダンジョンに放置された剣などの人工物に魔力が吸着、浸透して変異を引き起こし天然の魔道具や貴重な素材が生まれるのである。
ダンジョン産の魔道具はダンジョンの属性に影響されることが多い。
目指せ一攫千金! 現在、白毛狼の毛皮、高価買取中!
制作 グリーンウイロウ冒険者ギルド
と書かれてあった。
(結構詳しく書いてあるな。さすが冒険者ギルド)
疲れが取れたので出発するとしよう。
霧の森のダンジョンにいるのは狼と猪の魔獣か。
無理に戦わず目的地まで行こう。道はわかっているからね。
あと数時間ほどで日が暮れそうな時間なので、帰り支度をしている冒険者の姿も見られた。
(そういえば時間のこと気にしてなかったよ。今後は気を付けないと)
僕は森に足を踏み入れる。森に草が生えていない箇所があった。
冒険者たちが何度も通ったことでできた道だろう。
(ダンジョンだけど特に入り口とかないんだよね。森だし)
日光を木々が遮り涼しい空気を感じさせる。
さらに奥まで行ってみると、突然。空気ががらりと変わった。
いや世界が変わったと表現してもいいくらいだった。
自然と緊張感が増す。
すると、手に用意していたミイさんにもらった魔力紙が反応し淡く光りだした。
どうやら霧の森のダンジョンに入ったようだ。
(これがダンジョンか)
おそらく平地とは魔力の性質が違うのだろう。
辺りを見回してみるが普通の森のように見える。
僕が想像していたダンジョンとはずいぶん違うが、これがこの世界のダンジョンなんだろうな。
慎重に進んでみると所々で濃い霧が発生していた。
(霧の森のダンジョンの名残か)
そういえば、受付嬢のミイさんもある程度時間が立たないとダンジョンは消滅しないと言ってたな。
攻略前は深い霧が森一帯を常に覆っていたそうだが、よくそんな状態のダンジョンを攻略したものだ。
僕のそっくりさんらしいのだが。
さて、依頼をこなそう。僕はミイさんから渡された剣を握りしめた。
適当に薬草を採取したり棲息動物を探したりしながら、姫様からもらった地図を頼りに最深部を目指す。
さすがにダンジョンなので魔獣との戦闘に備えないといけない。
やはりテレポートが攻撃に使えないのは大問題だな。
パイロキネシス(発火)では、毛皮などの素材回収ができないので使えないし、サイコキネシス(念動波)で魔獣を吹っ飛ばしてみるか。
威力を確認してみないと攻撃として使えるかどうかわからない。
テレキネシス(物体操作)で魔獣の動きを止めて攻撃という手もあるけど、そもそも動きを止められるかどうかわからないな。
あ。そういえば動きを止めても攻撃手段がないよ。ナイフしかもってないや。
僕、戦闘に向いてないかも。
防御には向いてるのかな?
物理結界とかテレポートとか空中浮遊とか。
防御というか逃げることに向いているな。
よし。逃げよう。
僕は霧に覆われた森の中を進む。
奥に向かうにつれて霧がますます濃くなってきた。
森は木々が密集していて、まるで迷路のように僕の行く手を阻んでいる。
(地図が無かったら速攻迷ってそうだな)
耳を澄ますと、虫の音や風で木の葉が揺れる音がはっきり聞こえてくる。
嗅覚は、湿り気を帯びた森の豊かな香りを感じている。
視覚は、草木や霧の景色を細部まで明確に映し出している。
緊張のせいか感覚が研ぎ澄まされているようだ。身体強化が向上しているのか。
僕はできるだけ魔獣に気付かれないように、音をたてないようにゆっくり歩いていく。
(身体強化の感覚が強化されてても魔獣には敵わないだろうなぁ)
周囲を警戒しながら森を進んでいると少し離れた場所から音がした。
ガサッ ガサガサ
「!?」
僕はすぐさまテレポートで上空に転移し、空中に静止して様子をうかがう。
藪の中から白毛猪が現れそのままどこかに行った。
どうやら気付かれていなかったようだ。運がよかったのかな。
僕は地上に降りて再び歩き出した。
(ダンジョンとは言っても、そんなに魔獣と遭遇しないな)
そんなことを思って進んでいたら、僕はピンチに
気付いた時には4匹の白毛狼の接近を許していた。
(白毛狼・・・)
突然のことに僕は体が固まり動けなかった。
そんな僕のことなどお構いなく、一匹の白毛狼が猛然と襲い掛かってきた。
ドガッ
目の前で白毛狼が透明な壁にぶつかっていた。
物理結界が白毛狼の突撃を防いでくれていた。
(テ、テレポートッ)
ようやく僕の意識は動き出し空中へ逃げうことができた。
(やばかった。これが魔獣の迫力か)
僕は浮いたまま結界を解除し、地上から僕を威嚇している白毛狼たちに向かって上空から念動波を放ち追い払った。
(情けない戦い方だけど、今の僕じゃ仕方ないか)
念動波の一撃の威力は、白毛狼の体勢を大きく崩すものだった。
なかなかの威力なのかな?
でも1対1なら何とかなるかもしれないけど、複数相手だとテレポートを使いまくらないと駄目だろうな。
その後も白毛狼や白毛猪やそれ以外の魔獣にも遭遇した。
魔獣が僕に気づいてない時は種類の確認だけして通り過ぎ、襲ってきた魔獣は念動波で吹っ飛ばし追い返すことにした。
複数の魔獣に襲われたときは、僕の実力では手に負えないので速攻逃げることにした。
白毛狼は基本群れで行動している。厄介ですね。
霧の森のダンジョンの魔獣は、冊子の情報通り白毛猪と白毛狼が多かった。
今回のことで、僕の物理結界の強度は白毛狼ぐらいの魔獣の突進では壊れないことが確認できて一安心した。
この結果で一瞬、野宿の時に地面で寝るという選択肢も思い浮かんだけど、
さすがに何回も攻撃されたら壊れるだろうから却下にした。
もう木の上で寝たくないんだけどな。そうだ。今度浮いたまま寝られるかどうか試してみよう。
(一人はつらいな)
森の中を進むうちに地面がぬかるんできた。
湿地帯に突入したのか。
足が水で濡れるのがいやなので、ちょっと浮いて移動することにした。
結界を張ったまま行けるところもあるし安全だ。
霧も相変わらず濃いし、地面の水分量も増えていく。
ドッ 「!?」
気付いたら巨大カエルの長い舌が結界にぶつかっていた。
草陰に潜んでいたようだ。
(びっくりした。それにしても大きいカエルだな。白いし。犬くらいあるよ)
カエルに攻撃されるとは。もしかして人も食べちゃうの?恐るべし。
水辺の生き物も白く変化しているんだな。
獣に加えて両生類や
念動波の威力が分かったので、魔獣の素材採取はあきらめて発火を試してみることにした。
襲ってくる白毛狼たちを念動波で吹っ飛ばし、発火を追撃してみたのだが致命傷に至らず逃げられた。
魔獣が毛で覆われているからなのか。火力が低いからなのか。なんなのか。
しかし、巨大カエルや大蛇には効果的だった。
魔石があるかどうか確認したかったので、倒した巨大カエルを物体操作で引き寄せ、物理結界を張り直し、安全のため空中で解体してみた。頑張って解体した。
(うぅ。気持ち悪いぃ。でもやらなきゃだめだ)
巨大カエルの方の魔石はすぐ見つかったが、大蛇の方はどこにあるかわからなくて時間がかかった。
(これが魔石か・・・。水色の魔石。綺麗だな)
初めて手に入れた魔石は小さかったが、ようやく冒険者になれた気がした。
ちなみに物体操作で魔獣の動きは止められなかった。気合が足りないのかな。
そういえば、
白毛狼を倒せるようじゃないと冒険者としてやっていけないのかな。
攻撃面をさらに改善しなきゃな。もっと気合を入れるぞ。
魔獣を気にしつつ空中を進んでいると遠くから男の悲鳴が聞こえてきた。
誰かが魔獣に襲われたのだろうか。
(冒険者の男かな・・・)
とりあえず様子を見に行ってみる。
悲鳴の聞こえてきた方向を頼りに探していると複数の男たちの声が聞こえてきた。
少し離れたところから様子をうかがうと、水面下にある深い穴にはまっている男を見つけた。
やはり冒険者のようで仲間に助け出されていた。
僕はそのまま立ち去ることにした。
挨拶する必要はないだろう。男だし。
霧のせいで視界が悪く、しかも湿地にあんな大穴があっても誰も気付かないだろうな。
浮いててよかった。
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