第23話 豚ギルド

なぜか、いきなり依頼を受けることになった僕は、足早に冒険者ギルドを立ち去ってしまった。


はぁ。初めての冒険者ギルドは慌ただしかったな。


余韻に浸る間もなかった。


あ。雑貨屋に寄らずに出てきちゃった。


ナイフとかいろいろ揃えたかったのに。


いよいよ冒険者として活動することになったから、冒険をする準備を揃えないといけないな。


着替えや食器も必要だよね。携帯食も買いたいな。


この世界の食べ物はどんなものがあるんだろうか。


楽しみであり不安でもある。


魔獣の肉とかあるのかな。


まぁ、何事も挑戦か。


鍋とテントはどうしよう。


鍋は最悪いらないか。食材を浮かせればいいし。


なんだか野宿することが前提になってるけど、一般的な冒険者ってどんな生活をしているのだろうか。


しばらくは、この街を拠点にしての宿暮らしなのかな。


手持ちのお金は、姫様から貰ったものがまだ残っているからしばらく心配なさそうだ。


そこそこいい宿屋に泊まるためにも、なるべく早く稼げるようにしないとな。


街で雑貨屋を探しながら街の門を目指し歩いていると、どこからか動物の鳴き声が聞こえてきた。


(街中にいるのか。壁の外は危険だからかな)


街の探索も兼ねて動物を見てみようと思い、僕は大通りから外れ、わき道にれた。


しばらく行くと街の様子も変わってきて、城壁が見えてきた。


(中心ほど家が立派だし、道も綺麗なんだな)


僕の耳に動物の鳴き声が大きく聞こえてくる。


さらに近寄ってみると、城壁と住宅の間の土地に柵が立てられ、その中に豚がひしめいていた。


(養豚場?そもそもこれ豚なのだろうか。剛毛だし大きな牙が生えてるよ)


「おう。何だ坊主。ここは行き止まりだぞ」


豚の世話をしている人が僕に声を掛けてきた。


「はい。動物の鳴き声が聞こえてきたので、気になって確かめに来ました」


「なんだ?こんなのどこの街にもあるだろ。この街には他にニワトリやガチョウを育ててるやつらもいるぞ」


「そうなんですか。ちょっと遠くの土地から来まして」


「そうなのか。そういえば初めてみる顔だな」


「はい。今日この街につきました」


「へえ。冒険者か?」


「はい」


「冒険者なら大丈夫だと思うが、豚はあぶねえからな。不用意に近づくなよ」


「はい」(豚だった)


「これを珍しがってるってことは、豚ギルドのことも知らねえのか?」


「豚ギルド?何ですかそれは?」


「どこの街にも養豚仲間の組合である豚ギルドがあってな。森や街で豚を育ててるんだよ。街では豚を引き連れて街中を移動するんだ」


「街中を?なぜですか?」


「豚に餌をやるためだよ。何でも食べるからな。こいつら。ちなみに草は食べねえぞ」


「なるほど。それにしても街中に食べ物あるんですか?」


「あるある。生ゴミでも何かの死骸でも汚泥でも何でもな。ちなみに豚の移動先は宿屋や料理屋の裏が多いな。人が集まる場所にはいろいろな物が出るからな」


「・・・なるほど」


「ちなみに。この街の近くにある白群びゃくぐんの森でも、囲い地を作って豚を育ててるんだ。どんぐりが豊富だからな。街中は安全だけど食い物が少ないからな」


「森は危険では?」


「まあな。木で高い壁を作ってるんだがな。やべえ奴には壊されちまう。

そのために、たまに冒険者に見回りやってもらってんだよ」


「そんな依頼があるんですね。豚肉は人気なんですか?」


「ああ。豚肉は高級品でな。貴族やらに高く売れるんだよ」


「へえ。ここの豚もですか?」


「ああ。ここは繁殖も兼ねてるけどな。エサ不足で豚は冬を越せねえからな。ほぼ肉になる」


「向こうが襲われたら全滅しかねませんもんね」


「そうだな。まあ、そう頻繁に襲われるもんじゃねえがな。

森は豊かなのに、わざわざ壁を壊してまで食べようとはしねえよ」


「そうですね。そういえば街中ではスライムと競合しないんですか?」


「ああ。スライムだけじゃ処理しきれないからな」


「そうなんですね。いろいろ教えていただきありがとうございました」


「おう。冒険者ならいっぱい魔獣を倒してくれよな。解体後のいらない部位もこいつらが食べるからよ」


「はい。がんばります」


僕は、養豚場を離れ、また中央通りへ向かった。



(それにしても、ドッペルゲンガーか・・・)


僕の新たな超能力のはずだけど、勝手に行動してるんだな。


そういえば、まだ試験運用中とか書いてあったな。


いつか僕が扱うことになるんだろうか。


(もう一人の自分か・・・)


僕より先に大活躍しているみたいだけど、出来れば別の場所で活動してほしかったな。


まあ、姫様は気にしてないんだろうな。


それにしてもドッペルはドッペルの意志で行動しているのだろうか。


そうなると僕の能力ではないと思うんだけど。


ただ僕のそっくりさんがいるだけだったりして。


(今どこにいるんだろ。出会ってもいいのかなあ)


あ。もしかして地図にあったすでに記されていた道って、ドッペルが移動した跡だったのかな。


あれには助けられたな。


だとしたら盗賊の件もドッペルが絡んでたのか。


ドッペルの場所も地図に記されるのなら、僕が別の場所を選べばいいだけか。


ドッペルは今も冒険者やってるのかなあ。


冒険者ギルドカードどうしてるんだろ。


ドッペルが作ったであろうカードは僕が持ってるのに。


ドッペルのやったことなのに、僕の評価が上がっていくのはちょっと困るけど、姫様の仕業なんだろうし。どうしたものか。


(ドッペルの能力って僕と同じなんだろうか)


第3級になっているから僕以下ってことはないだろう。


僕よりすでにいろいろ経験しているから、僕よりかなり強いまである。


(僕は僕でやっていくしかないか)


ドッペルのことは気にしないでおこう。


そうだ。ドッペルが霧の森のダンジョンを攻略したみたいだから、魔道具の地図に霧の森のダンジョンの場所が記されているいるはず。


なるべくドッペルのことを知っている人と合わないうちに、早く霧の森のダンジョンにいこう。


早速、僕は姫様からもらった魔道具の地図を広げる。


やはり街周辺の地図が少し出来ていた。


街中はほぼ真っ白で僕が移動した跡しかない。


ドッペルは冒険者ギルドにしか行ってないようだ。


地図上でドッペルの足跡を追ってみる。


(どれどれ。ここかな)


街から少し離れた白群びゃくぐんの森の中をかなり奥まで移動した跡がある。


遠そうだけど歩いて行って見るか。


街中をうろうろしているといい匂いがしてきたので、その建物に近寄ってみるとパン屋さんだった。


パンを焼いているのか。おいしそうだな。いつか行ってみよう。


他にも酒場やおしゃれな料理屋も見つけた。


いろいろお店があるんだな。


街の入り口に付きそうになったころ、ようやく雑貨屋を見つけた。


店内に入って物色してみる。


購入するのは携帯食とコップとナイフかな。


リュックに入るものだけ選ぼう。


一人用テントがあったが、大きすぎて持ち運ぶのが疲れそうなのでやめておいた。


携帯食の謎肉があったので、何の肉なのか店の主人に聞いてみた。


「それは魚の干物だよ。他に豚や魚の塩漬けや燻製もあるぞ。ハムやソーセージ、ベーコンどれ買うんだ。ついでに乾パンとチーズと乾燥豆も買ったらどうだ」


「ハムと乾パンで」


「まいどあり。銀貨3枚と銅貨3枚だ」


「ちなみに魚の干物はお幾らですか?」


「ニシンの干物は銀貨1枚だ。タラも川魚もあるぞ」


「なるほど。ありがとうございます」


(ハム、小さいけどお高いんだな)


この店でナイフと木のコップも購入した。


隣にあった洋服屋さんにも行き、普段着上下とマントを購入した。店には古着しかなかったけど高かった。


マントは寝るとき役に立つだろう。それに格好いいし。


小金貨1枚(銀貨10枚)と銀貨5枚でした。洋服はこの世界では貴重なんだな。


お小遣いをくれた姫様には感謝しかありません。


僕は準備を整え入った時とは違う門から街を出た。


霧の森のダンジョンに向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る