第22話 攻略者
中央通りを進んでいると建物が立派になってきた。
中央広場周辺が文字通りこの街の中心なんだな。
僕は程なくして中央広場に到着した。
正面に高い壁に囲まれた堅牢な石造りの館がある。
なんといっても目立つのは館から伸びる塔だ。
(偉い人の館だろうか。じろじろ見ているのはまずいか)
中央広場周辺だけ石畳になっていた。
(中央広場の右か)
見ると3階建ての立派な建物があった。
(あれかな?)
僕は初めて冒険者ギルドに足を踏み入れる。
(ここが冒険者ギルドか。でかいな。建物も入り口も)
開けっ放しの入り口から建物の中に入る。
建物の中は意外と明るかった。
壁を見ると明るく光る結晶が付いた照明器具が設置されていた。
魔道具なのだろうか。
(おぉ。冒険者らしき人が何人かいる。みんな強そうだな)
冒険者ギルド内を見回し、感激に浸っている僕にいきなり大男が近寄ってきて声をかけてきた。
「おい小僧。久しぶりだな」
「はい?小僧?僕ですか?」
「!?」
僕が返事をするとなぜか大男が驚いて固まっている。
さらにギルド内までもがざわつき始めた。
「あいつ返事したぞ」
「耳聞こえないんじゃなかったのか?」
「声を出せないって聞いてたぞ。話せるじゃねえか」
「あいつなんか雰囲気変わったな」
「あいつが例のアレなんだろ?」
室内にいる冒険者たちが訳の分からないことを言っている。
「? もう行っていいですか?」
「お、おう」
なぜか呆然としている大柄な冒険者の横を通り受付に向かうと、
茶髪で綺麗な受付嬢がなぜかひきつった笑顔で迎えてくれた。
「やっと来ましたね。今日こそ、ちゃんと冒険者ギルドカードですべての依頼完了手続きと依頼報酬の清算、そしてカードの更新をしてくださいね。まったく、全然報告に来ないんだから」
「え。あ。はい。え?」
どういうこと?初めて冒険者ギルドに来たんですけど・・・。
「あ。話せるようになったんですね。これからは依頼の完了報告は本人がしてくださいよ。本人じゃないとずっと保留ですから」
「はい。はい?」
人違いではないんでしょうか・・・。
「付き添いの女性はいないんですか?まあいいでしょう。そっちのほうがいいまであります。さあ。とっととギルドカードをこの魔道具にかざしてください」
何が何だかわからないが素直にカードを黒い板にかざした。
僕に付き添いはいませんよ。
「あ。やっぱりまだ最初の状態じゃないですか。私がいない時も来てなかったんですね。まったく。そのカード預かります」
(ええ。怒られたよ)
僕は素直に冒険者ギルドカードを渡した。
「手続きに時間がかかるんでしばらくお待ちください。冒険者ギルドからいなくならないでくださいよ」
そう言うと彼女は、他の人と共に何やら事務作業を始めた。
僕だけを置き去りにして事が運ぶ。
受付の前でただ待っているのも暇なのでギルド内部を観察することにした。
(酒場が併設しているのか。お、雑貨屋もある。後で行ってみよう。この世界の道具を見てみたい。あ!)
僕は、冒険者ギルドの入り口側の壁に掲示板を見つけた。
(依頼書だ!)
僕は軽い足取りで掲示板に向かう。
(冒険者と言えば依頼だよね。そして新人冒険者の初仕事と言えば薬草採取。探してみよう)
冒険者ギルドの壁一面に張られた依頼書は、採取、討伐、護衛、雑用、探索、手配書など種類ごとに分けされて張られていた。
掲示板の依頼内容を見てみた。
(スライム(青)の捕獲ってのがあるな。僕が見たのは緑か。色によって性質が違うんだろうな。他には、鹿肉、イノシシ肉、ウサギ肉の納品依頼か。ウサギは行けそうだな。隣は、魔鹿の角の納品か。魔鹿って鹿の魔獣かな。そのままだけど。魔狼ってのもあるな。魔狼と狼の毛皮、牙、爪の納品か。強そうだな。これはやめておこう。後は、魔石の買取。おお。魔石!ん?豚の誘導?なんだこれ)
ざっと見ながら移動していたら端まで来てしまった。そこにぼろぼろの依頼書が張り付けてあった。
(あれ?この依頼だけ依頼書の紙が古臭いな。魔亀注意って書いてある。依頼じゃないよね)
冒険者ギルドの掲示板には無数の依頼が張り出されてあった。
(いろいろな依頼があるんだな。気になる依頼もあるなぁ)
僕は目当ての採取依頼の掲示板の前に移動した。
どんな依頼があるのかなと依頼書を見ていると、僕の隣にピンク色の髪の毛をした受付嬢がやってきた。
「セイジさん。今日はどんな依頼を受けるんですか?セイジさんが選ぶなんて珍しいですね。そうそう第3級のセイジさんに
「え?」
(第3級?僕が?なぜ僕の名を知っているのですか。人違いじゃないんですか?それにせいじさんって言いすぎですよ)
「ささ。どうぞこちらへ」
(いやいや。まだ何もしたことないんで。初心者向けの依頼がいいんですけど)
僕は混乱中で声が出せず、彼女に腕を掴まれて連れていかれる。
彼女おすすめの依頼がある掲示板の前に立つ僕を、彼女がにこにこ顔で見ている。
「あのぅ。人違いではないんですか?」
「え?セイジさんですよね?」
「はい。せいじです」
とある方に不本意にも、せいじと名付けられました。
「あんなに依頼をこなしたんですから間違いなく第3級に昇格しますよ」
いったい誰なんですか。僕の代わりにまじめに依頼をこなした人は・・・。
・・・。
あぁ。たぶん姫様の関係者ですよねぇ。
あの人しか僕のこと知らないし。
そもそも一体どうやって僕の冒険者ギルドカードを作ったんだろうか。
冒険者カードは本人しか使えないはずなのに。
あ。もしかしてドッペルゲンガーなのかな。僕より先に街に来ていろいろやってるのかも。だから僕を知っている人がいたのか。
ということは、
今もどこかで僕のそっくりさんが何やら活動しているのか・・・。
(はぁ。いきなり第3級からか・・・)
意を決し掲示板を見てみると魔獣討伐依頼の場所だった。
「・・・」
・魔熊討伐。近隣の村に出没。
・ホルト討伐。仮の名。狼に似た謎の魔獣。深き森南部に出没。被害者多数。
・魔狼討伐。個体名『レッドゴールド』。深き森北部に出没。数頭の狼と共に行動。被害者多数。
などなど。
知らない魔獣ばかりですね。当たり前だけど。
「魔熊?」
僕は思わずつぶやいていた。
「ああ。目撃された魔獣が熊ということまではわかってるんですけど、詳しい種類まではわかって無いんです。だから魔獣化した熊種の総称である魔熊を使用しているんです。元の熊から大きく姿を変えてる魔熊もいるんで」
「そうなんですね」
熊は無理です。僕はまだ一匹も魔獣を倒したことないんです。
最初はゴブリンとかじゃないのですか?この世界にいるかどうか知らないけど。
こっそり隣の探索依頼を見てみると、
「お」
(ダンジョンがある!)
霧の森のダンジョンという場所の調査依頼が出ていた
「霧の森ダンジョンの調査依頼ですか?」
まだいたんですか受付嬢。仕事はいいのですか?
「はい」
「攻略者さんに行ってもらえると助かります。まだダンジョンの影響が強く残っていますから危険なんです。魔獣も強化されたままでしょうし」
攻略者さん?不穏な言葉が聞こえてきましたよ。
とりあえず話を合わせるとしよう。
「そうなんですね」
「はい。依頼内容は依頼書に書いてあるように、ダンジョン内の地図作成や魔獣や動植物の生態調査ですね。ダンジョンの影響で新種がいるかもしれませんから」
「なるほど」
調査なら魔獣と戦わないで済むかもしれない。
「セイジさん。これ受けられますか?ついでに白毛狼も狩っちゃって稼ぎましょう」
これってドッペルゲンガーが攻略したってことでいいんだよね。
だったら受けておいたほうがいいかな。
「はい。受けます」(白毛狼?)
ダンジョンという場所に一度は行ってみたかったから丁度よかった。
僕に霧の森のダンジョンのことを聞かれても全く分かんないからなぁ。
僕も早めに知っておくべきだろう。
すると。
「セイジ君。お待たせしました。カードの更新が完了しました。第3級に昇級です。おめでとうございます」
僕に最初に話しかけてくれた受付嬢さんがやってきた。
「・・・ありがとうございます」
僕は何もやっていないんです・・・。
ピンク髪の受付嬢さんは、なぜ結果が出る前に第3級だとわかっていたんだろ。
事前の予想ができるのかな。そういえば規定があるんだった。
「ルカ。あとは私が応対します。ありがとね」
「はい。ミイさん」
僕はミイさんと呼ばれた人から、黄色の冒険者ギルドカードを受け取った。
何もしないでカードの色が黒から黄色に変わった。第4級は何色だったっけ。
「まず、依頼の明細書です。依頼名とその報酬ですね。報酬はカードに
「はい。すいません」
ドッペルゲンガー!きちんとしてください。
「では、次にこれを」
白紙の紙を渡された。
「何ですかこれは?」
「あれ?ご存じありませんか?」
え。冒険者なら知ってて当たり前なの?
ん?これ姫様から貰った魔道具の地図に似てるかも。
「あ。あぁ。地図でしたね」
「そうです。やはりご存じですよね。さすがです」
当たった。よかった。
「一応仕事ですので説明いたしますね」
お願いします。
「これを持ってダンジョンに入っていただくと、平地とは違うダンジョン固有の魔力に反応して地図が自動作成されます。まあ地図と言っても景色の色が反映されるだけの簡単なものですが」
「景色の色?木だから緑とかですか?」
「はい。物質が持つ魔力属性を色として反映させてます」
「湖なら水属性で水色と」
「はい。そう表示されます」
「あのぉ。ダンジョンを隅々まで歩かないといけないんですか?」
「いえ。入り口から中心部まで最短で行ってもらって構いません。平地にできた若いダンジョンは大抵円形状ですので。攻略後のダンジョンはゆっくり崩壊していきますから、今のうちにダンジョンの大まかな範囲を知っておきたいのです」
「なるほど」
「注意事項ですが、その魔力紙を持ったまま魔力を込めないでくださいね」
「はい。気を付けます」
「ちなみに掲示板に張ってある紙も、魔力を利用して作られた魔力紙でできています」
「へえ。そんな技術があるんですか」
「はい。錬金術師ギルドの功績の1つですね」
「そうなんですね。丁寧に説明してくれてありがとうございます」
「いえ。仕事ですから。あ、魔力紙は破いたら消滅しますので丁寧に扱ってくださいね」
「はい。わかりました」
姫様からもらった白紙の地図とは微妙に違うみたいだな。
「それから、これが採取用の袋です」
僕は袋を受け取る。
「あ。大切なことを忘れるところでした」
ミイさんは受付に戻り何かを持ってきた。
「これも持って行ってください」
ミイさんは剣を差し出してきた。
「ギルドマスターに頼まれたものです」
僕は剣を受け取る。
「何ですかこれ」
「年代物の業物の剣です。霧の森のダンジョンにある依り代の
・・・祠。行けばわかるよね。
「わかりました。ちなみに何のためにですか?」
ミイさんは周囲をうかがい、僕に顔を近づけ小声で言った。
「極秘のことなんですけど、攻略者さんになら言ってもいいですよね」
「ダメだと思いますよ」
「再ダンジョン化の実験ですって」
(言っちゃった)
「再ダンジョン化?」
「ええ。もう一度ダンジョンを発生させるためです」
「大丈夫なんですか。そんなことして」
「そのための調査ですよ。地図があれば再攻略は余裕です」
「なるほど?」
よくわからないけど、いいのだろう。
それにダンジョンができたとしても数十年後のことらしい。
「そうだ。セイジ君がダンジョンから持ち帰った物は、ようやく鑑定や査定が終わって書類にまとめておりますので、しばらくお待ちくださいね。報酬もです」
「・・・はい」
ドッペルゲンガー頑張りすぎです。
気にしちゃだめだ。僕は僕の道を行くのだ。
ついでに、ミイさんに掲示板に気になる依頼があったので聞いてみた。
「あの、スライム(青)捕獲の依頼がありますが、何のために捕獲するんですか?」
「ああ。初心者向けの依頼ですね。ゴミ処理やトイレ用が主ですね。安宿だとトイレがないんで、代わりにスライムが入った桶が出てきますよ。そういえばセイジ君やっていませんでしたね」
「・・・なるほど」
厳しいな異世界。安宿には絶対泊まらないぞ。
「あともう一つ『魔亀に注意。接近禁止』という依頼とは思えない依頼のことです。依頼書も古い紙のようですし」
「魔亀?あーあれですか。何でも百年以上前から存在する依頼らしいですよ。紙は羊皮紙ですね。その頃は魔法紙がなかったんですよ」
「へぇ。ずいぶん昔からあるんですね」
「そうなんですよ。でも今まで誰もその魔亀を見たことがないそうです」
「それなのにその依頼は破棄されないんですね」
「ええ。不思議でしょ。わたしもよくわからないんですよ。
ギルドマスターなら何か知っていると思うので聞いてみてください」
「はい。そうします。では行ってきます」
「はい。お気を付けて。お怪我をしませんように」
「無理はしませんよ」
初めての依頼なので・・・。
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