第21話 グリーンウイロウの街
僕は深き森から出て街に向かって草原を歩いている。
深き森と街の間は、かなりの距離が開いていた。
畑などを作っていないということは、緩衝地帯なんだろうか。
禁忌の森や深き森は危険らしいし。盗賊の情報だけど。
僕は、草原をしばらく歩き、街の城壁に近づいたが入り口が見当たらなかった。
3mくらいの石垣だったので、飛び越えてもよかったけどやめておいた。
不法侵入で捕まるかもしれない。
どこまでも続く真っすぐな城壁に沿って歩いていくと、ようやく僕は
僕が城壁の角を曲がると、そこにはさらに長い城壁が真っすぐ遠くまで続いていた。
どうやら長方形の街のようだ。
(大きい街なんだな。入り口はどこ?)
城壁の隣、街の北側には、頑丈な木の柵に囲まれた広大な畑が広がっていた。
遠くで農家の方と思われる人たちが何やら作業をしていた。
何かが育てられていたが、僕には何の作物かわからなかった。
壁沿いに歩いていくと大きな池もあった。貯水池なのだろうか。
こちら側にも入り口はなかったが、壁の終わりとともに道を発見した。
その先には森が広がっていた。こちらの森は街に近かった。
城壁は凹の字型に建造されていた。
僕は、街の西側にたどり着き、ようやく入り口の門を見つけた。
街の入り口は、凹の上の部分に当たる場所にあり、そこに立派な木製の建造物が壁のように建っていた。これも城壁と言うのだろうか。
街をすごい頑丈な城壁で囲っているんだなとは思ったが、魔獣がいる世界なんだからこれが当たり前なのだろう。
(ここが異世界で初めての街になるのか。どんなところかな)
街の出入り口である門には、数十人が並んでいて街の中に入るのを待っていた。
少し離れた別の場所では、荷馬車が何台か並んでいる。
荷馬車用の入り口があるようだ。
(身元確認してるのかな。僕、街の中に入れるのだろうか)
列に並んで待っていると僕の順番が回ってきた。
姫様にもらった冒険者ギルドカード準備しておかないと。
ちゃんと使えるのかちょっと不安だ。
僕は門の建物の中に入り、門番の人の所に近寄ると彼が親しげに話しかけてきた。
「おお。帰ってきたか。とりあえずカードをこれにかざしてくれ」
門番の人が台の上に直立している黒い板を指さした。
(え?何だ?僕を誰かと間違えてるのかな)
僕は、言われた通りカードを黒い板にかざした。
「盗賊の情報ありがとな」
「盗賊?」
「あれ?お前、話せるようになったのか。よかったな」
(???)
「なんだ。俺の事覚えてないのか?一緒に偵察に行った5人の中の一人だよ」
「はあ」(偵察?)
「お前途中でどこかに行っちまいやがって、心配したぞ」
「はあ」(人違いじゃないですかね)
「でもお前のおかげで盗賊相手に先手を打てたからな。楽勝だったよ。ん?どうした?」
困惑がおもいっきり表情に出ていたようだ。
(もしかして崖下で盗賊と戦ってた人なのかな)
「いえ。そうだったんですね。ご無事で何よりです」
「おう。あれ?お前、黒のカードなのか。そうだ。報奨金でるからとっとと冒険者ギルドに行ってこい」
「? はい。冒険者ギルドにはいくつもりです」
「そうか。それにしても急激に痩せたな。ゆっくり休め。疲れているといざというとき体が動かないぞ」
「はい。そうします」
「よし。通っていいぞ。進んで税金払ってくれ」
よくわからないが身元確認ができたみたいだ。
あの黒い板。魔道具なんだろうか。何が表示されていたのか見たかったな。
別の門番の人に通行税として銀貨1枚(銅貨だと10枚)を支払った。
通行税は冒険者、商人、旅人など定住者以外から徴収しているそうだ。
ついでに僕は、その人に冒険者ギルドの場所と食事ができるところを聞いた。
その人は
「食事は中央通りに入ってすぐの店がおすすめだ。安くて量もある。
冒険者ギルドは、中央広場に隣接していて、主塔のある館を正面に見て右側にある」
「ありがとうございます」
僕は何事もなく?街の中に入ることができた。
(とりあえずご飯だ。料理屋に行こう)
木製の城壁に沿って中央通りへ向かう。
木製の城壁の中央には大きな門があったが閉じていた。
(正門かな。偉い人専用なんだろうか。まあいいか)
そういえば、どういうわけか門番さんが僕のことを知っていた。
勘違いだろうけど、そっくりさんでもいるのだろうか。
初めての街は、規模のわりに思ったより人が少なく感じた。
それに街は、お世辞にも清潔とは言えない環境だった。
いやむしろ汚いし少し匂う。
異世界の衛生環境はこんなものだと我慢するしかない。
街にいる人の様子を見てみる。
通りを歩く人は、黒、茶、赤毛など一般的な髪色から青や緑などの様々な髪色が見受けられた。
地毛なのか染めているのか僕にはわからないけど異世界って感じだな。
女性は、髪の毛が長くいろいろ編み込んでいる。
(金髪の人を見かけないな。地域的なものなのかな)
肌の色も様々だ。
それどころか獣人の人たちもちらほら見かけた。
(この街は、人間の割合の方が多いのかな)
男性の格好は動きやすい服装にマントで、女性はワンピースの人が多い。
(シンプルな服装なんだな。マント。僕も欲しいな)
街の建物は、木枠造りで緑っぽい土壁や石壁が多く見受けられる。
2階建てや平屋の建物がほとんどだ。
何より目立つのが中央にそびえたつ塔だ。
立派な屋敷から伸びている。
この街の支配者が住んでいるのだろうか。
僕は中央通りと思われる場所に着いた。
すごぐいい匂いがしてきた。
(あの店かな?)
その建物は扉が全開で、狭い店内にテ-ブルが3つあった。
昼を過ぎてるからか今は誰も客がいないようだ。
僕は不安と期待を胸に建物の中に入ってみた。
「いらっしゃい。食べていくのかい?」
お団子頭の恰幅のいい女将さんに話しかけられた。
「はい。食べます」
「あいよ。あれ?その恰好。あんた今街で話題になっている冒険者じゃないのかい?」
「え?」
また僕を知っている人だ。しかも話題になってるの?
「あんた。この街に来てからどこの料理屋にも行ってないし、どこの宿屋にも泊まってないでしょ。街の外で生活してたのかい?」
「え」
(それは正解ですけど。どういうこと?)
なんで初めて来た街で僕が噂になっているのだろうか。
やはり僕にそっくりな冒険者がいるに違いない。
「まあいいさ。食べるんなら適当に座りな」
「はい」
僕が座ると女将は奥へ引っ込み、すぐ食事を持ってきた。
(注文してないんですが・・・)
この店、一品しか料理がないのだろうか。
「野菜の煮込みスープと黒パンだよ。豆入りの特製品だ」
木製の深皿か。大きいな。
「いただきます」
「飲み物はエールと水どっちだい?秋なら果汁があるんだけどねえ」
「えーと。じゃあ水で」
エールってお酒だよね。
「あいよ」
女将はまた奥へ行った。
この世界に来て初めてのまともな食事は、黒パンと謎野菜の煮込みスープか。どんな味だろ。
残念ながら肉は入ってなかった。
僕は早速野菜スープをスプーンですくい、一口飲んで味わってみる。
(うん。あぁおいしいぃ。ほのかに塩味が効いてて野菜のうまみが染み出してておいしい)
次に黒パン。
(うん。硬い。けど、まあいける)
久しぶりにまともな食事を食べられた。
(しあわせだ。草じゃないよ)
僕が美味しい味のある食事を夢中で食べていたら、コップを持って女将が戻ってきた。
「あんた。おいしそうに食べるねえ。そんなに美味いかい?」
そういうと僕の前の席に座った。
「はい。美味しいです」
「そうかい。嬉しいねえ。あいよ。雨水のエール割りだよ」
女将はそう言って、木のコップに入った飲み物を僕に差し出した。
(え。雨水?異世界ギャグかな)
そのまま女将は、僕に気付いた理由を話してくれた。
食事に夢中な僕は、相槌だけ打っていた。
女将によると、街にいる人間や行商人の顔は大体知ってるし、知らないのは他の街から流れてくる冒険者か旅人ぐらいだという。
そもそも依頼をたくさんこなしているのに、街で姿を全く見かけない、従者を連れた黒髪坊主頭新人冒険者が現れたと噂になっていたらしい。
黒髪って珍しいのかな。でも街の人にも黒髪の人がいたような気がしたけど。
それとも坊主のほう?
それに従者?僕一人ですよ。
女将の話はすぐ別の話になり、
王国のナショナルカラーは緑だとか、
肉は高級品で中級の庶民以上が食べているとか、
この街は最近造られたなどいろいろ話してくれた。
女将の話を聞きながら、俺は異世界で初めての食事を食べ終わった。
「ごちそうさまでした」
「あら。もういいのかい?また来てくれよ」
「はい。また来ますね」
もっと食べられるかと思っていたが、野草食生活で胃が小さくなっていたようだ。
野菜スープに入っていた食材が気になったが、女将の前で鑑定するわけにはいかない。
未知の食材だったがおいしくてよかった。
消化できるよね。
例の雨水のエール割りを思い切って飲んでみたけど、ほのかにアルコールを感じる麦味の水だった。
一応、後でポーションを飲んでおこう。
僕は、食事代で7銅貨を支払い店を出た。
(7銅貨か。安いのか高いのかわからないな。700円くらいの感覚でいいのかな)
僕は料理屋を出て冒険者ギルドに向かうことにした。
いよいよ僕は冒険者としての第一歩を踏み出すのか。
楽しみだなぁ。
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