第20話 受付嬢ミイ

セイジが城塞都市グリーンウイロウに到着する3か月ほど前のこと。



私は、冒険者ギルドでいつものように受付嬢として働いていました。


「ミイさん。ちょっといいかしら」


私が受付で暇をしていると、サブギルドマスターのリードさんから声を掛けられました。 


(何か仕事でしょうか)


「はい。サブマスター何でしょうか」


「ちょっと付いてきてくれる?」


「はい」


とある部屋に連れていかれ、サブマスターが扉を開け先に部屋に入っていきました。


私が続いて部屋に入ろうと中を見ると大きなテーブルと椅子がありました。


(ん?)


何かいる。私は入り口で足を止めました。


リードさんは、そんな私を気にすることもなく部屋の中央に行き、誰もいない空間に向かって話しかけました。


「魔道具を取って姿を見せて」


すると、誰も座っていなかった椅子が動き、バサリと音がしてピンクの髪色をした少女が姿を現しました。


彼女は、手に笠とみのを持っていました。


「姿隠しの魔道具ですか」


私は思わず口に出していました。そして姿を現した少女を見ます。


(それにしても、ピンクの髪ですか。いやな予感がします)


私は、無意識に右手にはめている指輪を触っていました。


「見ての通り彼女は例の獣人です。ほら、あいさつして」


彼女は身に着けていた魔道具を丁寧にテーブルの上に置いて、私に元気よく挨拶をしてくれました。


「ルカです」


私も挨拶を返す。


「受付をやっているミイです」


「突然だけど、今日から彼女は冒険者ギルドで働いてもらうことになりました」


「え。大丈夫なんですか?」


(いろいろな意味で)


「ええ。そこで、しばらくあなたに教育係兼護衛をやってもらいます」


「えええ!?」


「まずは、この街の成り立ちから彼女に教えてあげてください」


「拒否はできないんですか?」


「できません。あなたが適任です。ではよろしくお願いね。そうそう特別手当が出るそうよ」


(むむ!特別手当!!)


サブマスターが魔道具の笠と蓑を回収しています。


「サブマスター。それどうしたんですか?ずいぶん古風ですけど」


「マスターに借りたのよ。ここまで安全に連れてくるためにね」


サブマスターはそう言うと、さっさと部屋から出て行きました。


「はぁ」


私は思わず大きなため息をついてしまいました。


そんな私の様子をルカは楽しそうに見ています。


(仕方ありません。頼まれた仕事をしましょう)


「それじゃ。この街について教えるわね。

あなたがいるこの街はグリーンウイロウと言います。

この街は、南にある領主の直営地ウイロウが人口増加で人があふれたため、白群びゃくぐんの森を開墾して新たに造られた城塞都市です。

この街は領都ウイロウから馬車で一日ほどのところにあります。

人口は5000人に迫る勢いです。

サブマスターのリードさんは、10年前この街が造られると決まった時に、領都ウイロウからギルドマスターや開拓民と一緒にやってきたそうです。

リードさんは「左遷ではありません」って言ってました。

一年前にようやく街を囲う立派な城壁も完成し、一安心といったところです。

地理に関してですが、街の西には白群びゃくぐんの森があり、そこに近年見つかった『霧の森』と名付けられたダンジョンがあります。

そして東には、深き森があります。その先の山が、禁制領域の禁忌の森です。

禁忌の森に立ち入るには特別な許可が必要になります。

禁忌の森には、想像を絶する強さを持ち、人語を理解する魔獣が棲息しているらしいのです。

誰も見たことないので、ただの噂話だという人もいますね。

この街の多くの冒険者たちは、白群びゃくぐんの森に向かいます。

実力者は霧の森や深き森に行きます。

霧の森や深き森は魔力が濃いので魔獣は強いですが、いろいろと稼げますからね。

北に行くと村をいくつか越えて王都に行けます。

私もいずれ、領都ウイロウの冒険者ギルドに栄転することになるでしょう。 

少々話が長くなりましたが理解いただけましたか?」


「・・・」


ルカは立ったまま寝ていた。


「・・・」






セイジが街に到着する前日。


私は、冒険者ギルドの受付で暇を持て余しています。


「セイジ君。一体どこで何をやっているのかしら」


彼が冒険者になってもうすぐ3週間なのですが、全く冒険者ギルドに姿を現しません。


しかし、依頼はいつも付き添いの女性が受けています。依頼完了の報告も彼女だけです。


でも、セイジ君がいないから正式に完了していません。よって報酬も支払っていないのです。


困ったことがもう一つ。


その彼女は、いつも気配を消してギルド内に入り、私の目の前で急に現れます。


私はそのたびにびっくりします。普通に受付に来てほしいものです。


「もうランクはとっくに上がってるんだけどなぁ」


それはもうすごい勢いで。


カードが更新されたら第4級か。白色のカード用意しなきゃ。


最近、懸案けんあんだった深き森から魔獣たちが消えた現象がようやく収まり、魔獣や獣が森に戻ってきました。


これで深き森でも冒険者さんが依頼をこなしてくれるでしょう。


結局何が起こっていたのでしょうか。


そういえば数日前、いつものように現れた彼女から、セイジ君が盗賊のアジトを見つけたと報告を受けたんだった。 


「セイジ君。街の近くにいたんだったら、冒険者ギルドまで顔を見せてくれたらよかったのに」


ぼーっとセイジ君のことを考えていたら突然声を掛けられた。


「ちょっといいかしら」


「ぎゃっ。あー。またあなたですか。はあ。今回は何ですか?」


見るとセイジ君の付き添いの女性は、大きな荷物を持っていました。


「依頼素材の納品ですか。今回は量が多いですね」


「セイジ様が霧の森ダンジョンを攻略しましたので、その報告を。これはその時の素材です」


そういうと彼女は無駄に豪華な装飾がされた剣を私に差し出しました。


「それが霧の森のダンジョンの依り代です」


え?ダンジョンを攻略???セイジ君が?いつ?


渡された剣を持ったまま、私はしばらく呆然としていました。


「ハッ!? ギ、ギルマスに報告してきます。ちょっとお待ちを・・・いえ、あなたも一緒に来てください」


再起動した私は、彼女と共にギルマスの部屋まで向かいました。


「ギルドマスター。たいへんです!」


「落ち着け。それで何が大変なんだ?後ろの女はだれだ?」


「セイジ君が霧の森のダンジョンを攻略したそうです!彼女はセイジ君の付き添いの方です」


「何!?霧の森のダンジョンを攻略しただと!?それでセイジとやらはどうした。なぜいない」


「セイジ様は暇ではないのです」


「・・・」


(ちょっと付き添いの彼女!ギルマスが絶句してますよ!怖くないんですか!)


「ギルドマスター。これが依り代だそうです」


私はギルマスに剣を渡した。


「・・・そうか。これが、この剣が霧の森のダンジョンの依り代か。信じられん・・・」


ギルマスも私と同じように驚いて固まっています。


「セイジとやらには、後で詳細を報告してもらうとして・・・。まずは依り代を鑑定しないとな。それと霧の森の調査か」


「ギルドマスター。彼女から霧の森のダンジョンの魔獣の素材や魔石も預かっています」


「そうか。それらは資料室に依り代の剣と一緒に運んでおいてくれ。素材担当の者を集めて精査する」


「はい」


「あと魔術師ギルドに行って鑑定持ちのアイツを呼んできてくれ。依り代の詳しい鑑定をしたい」


「わかりました。早速手配します」


「それから付き添いの彼女。依り代の剣の詳しい調査や魔獣の素材の精査に時間がかかる。セイジには、調査が終わり次第声を掛けるから待っていてくれと伝えてくれ」


「わかった。セイジ様にそう伝える」


すぐさま冒険者ギルドの職員たちは慌ただしく動き出しました。


その後、冒険者ギルドの掲示板には、霧の森のダンジョンの調査依頼が出され、冒険者たちがダンジョンに向かいました。


しかし、依然『霧の森』の霧は深く、冒険者たちの調査は難航しているようです。


(セイジ君。あなたはいったい何者なのですか)






狸の獣人のリイサは冒険者ギルドを出た後、禁忌の森でゴーレムセイジと合流した。


「計画通りですね。さすが私。セイジ様が街に着く前に様々な依頼をこなすことが出来ました」


ゴーレムセイジはリイサの後ろに控えている。


「姫様から追加の指示がないということは、しばらく待機ということでしょうか。セイジ様を監視しながらゴーレムセイジを鍛えましょうかね。あ、そうだ。あなた、私の冒険者ギルドカード返しなさい」


ゴーレムセイジは、冒険者ギルドカードをリイサに返した。


「カードが黒なのは敢えてだから」

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