第19話 森を抜ける
僕は、進路を変えた地点まで
盗賊のアジトの場所から2日ほど森の中を歩いたころ、視線の先に森の切れ目が見え、その先に平原が広がっていた。
「・・・やっと、やっと森を抜けた」
ポーションのおかげか体力的には問題なかったが、流石に精神的には疲れ果てていた。
(安全なところでゆっくり休みたい)
僕が森の境に来た時、平原の先に石垣に囲まれた街が現れた。
石垣の向こうに建物や巨大な塔が見える。
「街。・・・ようやく、ようやく着いたよ。美味しい物、食べられるかな」
僕は、街に向かって思わず走り出しそうになったが、いったん腰を落ち着かせた。
もうすぐ日が暮れる。
(朝まで待とうかな。この世界の街がどういう状況かわからないし、暗闇の中現れたら怪しすぎるよね)
この世界の常識がよくわからないうちは慎重にいこう。
街に入ったら僕が最初に目指すべきは冒険者ギルドか。食堂か。
そう言えば、冒険者ギルドカードをしっかり見てなかったな。
僕は、リュックの中から冒険者ギルドカードと『新人冒険者のしおり』を取り出す。
冒険者ギルドカードは全体的に真っ黒で、中央部分だけ材質の違う丸い箇所があった。
(冒険者ギルドカードを身分証にしてるんだから、この冊子を読んでおかないと。一応冒険者なんだし)
僕は一通り目を通した。
要約すると以下のことが書いてあった。
『新人冒険者のしおり』
冒険者は、冒険者ギルドが定めた『冒険者法』により格付けされ、以下のように分類されています。
冒険者個人の
冒険者クランの
クランとは、同じ志を持つ冒険者パーティーの集まりです。
新人冒険者は第5級です。冒険者ギルドカードの色は黒です。
他の等級のカードの色は、第1級は青色、第2級は赤色、第3級は黄色、第4級は白色となっております。
冒険者ギルドに寄せられている依頼は、依頼者の条件がなければ、
依頼の危険度および難易度は、自分で判断するか冒険者ギルドに相談してください。
依頼を達成した場合、受付に冒険者ギルドカードを提示することで依頼完了となり、報酬が支払われます。
冒険者ギルドカードは身分証明書でもあります。
魔道具であるカードは複製できません。
本人以外使用できません。
紛失した場合、冒険者ギルドへ届け出てください。
金貨1枚で再発行いたします。
冒険者が冒険者ギルドおよび社会に敵対した場合、冒険者ギルド員の資格をはく奪し、冒険者ギルドカードの機能が停止されます。
冒険者ギルドカードの機能の詳細は、
冒険者ギルドカードの機能の一部は、
第5級冒険者に対しては完全非公開です。
(なるほど。僕は第5級冒険者ということか。わからないことがあったら冒険者ギルドの人に聞くことにしよう)
『新人冒険者のしおり』を読み終え、リュックに仕舞おうとしたとき、そばにスライムがいた。
「あれ、スライムだ。前に会ったやつかな?それとも別かな?」
ゆっくり近づいてくるスライムを観察してみるが、まったくわからない。
とりあえずポーションを与えてみた。
スライムは、ポーションを飲んでいるようだ。
「さて、木の上で寝ますか。じゃあねスライム」
僕は木の上の方まで浮かび、手ごろな木の枝に腰を下ろし、物理結界を張り眠りについた。
もう夜更かしする必要はないだろう。久しぶりに早起きして早朝から街に向かおうと思う。
(街に入れたらベッドでゆっくり安心して眠りたい。おいしいご飯も食べたい。楽しみだな)
目覚めたら太陽が真上にあった。
(お昼過ぎちゃったか。寝すぎた。習慣とは恐ろしい)
地面に降りると木の下にまだスライムがいた。
「おはよう。ポーションが欲しいのか?」
ポーションを与えたら、スライムがうにうに動いて食べている。
「おいしい?僕はこれからあの街にいくよ。じゃあね」
僕はリュックを背負い街へ向かって歩き出した。
「いよいよだな」
異世界の街はどんなところなんだろうか。期待と不安が僕の心の中で渦巻く。
セイジが目指している街の名前は『グリーンウイロウ』。
10年前に出来たばかりの城塞都市である。
グリーンウイロウの街を囲う城壁の上で衛兵が見回りをしていた。
「城壁長すぎだよな。街をでかく造りすぎなんだよ」
「まあな。何でも1万人を想定しているらしいぞ」
「1万!?この国のほとんどの街が5000人以下だぞ」
「そうだな。でも最近人が増えてるからな」
そのとき見張りの1人が異変に気付いた。
「おい。深き森から人が出てきたぞ」
「えっ。あ、本当だ。冒険者か?もう深き森での活動が再開されたのか」
「あれ?あいつは確かあの冒険者か?」
「何だ。知ってるやつか?」
「ほら、例の盗賊の件を報告した奴だよ。名前はセイジ」
「おお。短期間にすごい数の依頼をこなしているっていう新人冒険者か」
「しかも、盗賊のアジトから誘拐されていた女性たちをひとりで救出したんだ」
「本当か?それは初耳だ」
「本当だ。いつの間にか勝手に救い出して街まで戻って来たからな。
俺がちょうど立ち会ったんだ。恰好が同じだ。黒髪坊主だし」
「すげえな。ところでどうやって救い出したんだ?衛兵と行動を共にしてたんだろ?」
「それがな。あいつ
「え。そうなのか」
「それで救出された女性達に状況を聞いたんだが、盗賊のアジトの牢屋にいたら突然セイジが現れて、次の瞬間、気付いたら街の近くにいたんだと」
「なんだそりゃ。肝心なところが抜けてるじゃねえか」
「ああ。全員どうやって街まで来たのか覚えてないんだとさ。きっと疲労と恐怖で頭が混乱して記憶が抜けてしまったのかもな」
「そうなのか。よし。街の安全も確認できたことだし。あいつは門番に任せて俺らは戻るか」
「そうだな。飯食いに行くぞ」
姫の屋敷
「姫様。旦那様が間もなく街に着くそうです」
「そうか。やっと着いたのか。のんびりしたやつじゃの。ところで、あやつは旦那ではないぞ」
「え?メイドの間で噂になっておりますが」
「なんじゃと!違うと皆に伝えるのじゃ」
「承知しました」
メイドは部屋から退出した。
「まったく。メイドどもめ。相変わらず噂好きじゃの」
姫は窓際に移動し外を眺めた。
窓の外には大森林が広がっていた。
姫は、生まれてきてからずっと気になっていることがある。
「この世界は何かがおかしい」
小さな違和感。
「あの御方以外の何者かの意思が働いているような気がする」
気のせいかもしれない。
何度そう思ったことか。
違和感の正体を突き止めるために異世界に転移し、異世界の知識まで手に入れた。
にもかかわらず、結局いくら調べても何も出てこなかった。
「ただの
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