第18話 盗賊のアジト
僕は、地図に示された場所に向かうため北西へ進路をとり、森の中を一日ほど進んだところで崖下に建物を発見した。
その建物は、森の中の崖に囲まれた場所に隠れるように建てられていた。
木々に囲まれていて建物の全体像はつかめないが、2階建てでそこそこ大きく、外見はボロボロの古い建物だった。
僕は、崖の上から隠れて様子を見ることにした。
(一軒だけ?何でこんなところに建てているのかな。街が近いのだろうか)
どうしたものか。
誰か住んでいるのかな。
こんなところに住んでいるからには訳ありかもしれないしなあ。
もし人が住んでいないんだったら建物の中を探ってみようかな。
何かこの世界の情報が手に入るかもしれない。
何もなかったら、また街を探そう。
しばらく崖の上からこっそり様子をうかがっていると、建物の中から人が出てきた。
(あっ。誰か出てきた。異世界の人だ。優しそうな人だったらいいんだけど)
しかし、僕の期待を裏切るその人たちは、見るからに想像通りの盗賊の格好をしていた。
持ってる武器も、ばっらばらです。
訪問しなくてよかった。
崖の下から、集団の先頭を歩く大柄で態度のでかい男の声が聞こえてきた。
「げっへっへ。衛兵の奴らも街のやつらもこの森にビビりやがって。
街から少し離れた場所には全く調査にきやがらねえ」
「さすがお頭。この深き森に新たにアジトを構えた時から、頭が切れて度胸があるなとずっと思ってやした」
「へっへっへ。だろう」
「前から気になってたんすけど、この建物は、お頭の所有なんで?」
「違うぞ。この建物はな、あの街が出来る前からあってよ。
とある盗賊団の隠れ家だったんだぜ」
「そうなんですかい。さすがお頭。物知りですぜ」
「がはは。そうでもないぞ。ところでよー。噂では、東の山の禁忌の森に凶暴な魔女が住んでいるとかいうけどよー。お宝持ってそうだよなー」
「お頭、まさか襲っちまうんですかい?」
「それがよー。どこにいるか知らねーんだよ。お前知ってっか?」
「はあ。禁忌の森にある山のどこかにいるらしいっすが、立ち入り禁止らしいですぜ」
「あんだよビビりやがって。ところで何で知ってんだ?入っちゃいけないんだろ?」
「有名な昔話ですぜ、お頭。小さいころ孤児院で読んだ絵本に書いてありやした」
「昔話~?そんなに有名なのか?」
「そうみたいですぜ。絵本用意しましょうか?」
「やめとけ。俺、字読めねーんだ。がっはっは」
「そうでしたか。すいやせん」
「へっへっへ。気にすんな。んなことより野郎ども。しばらくは、ここを拠点に王都へ向かう荷馬車を襲撃だっ」
「おおっ」」」」」」」
盗賊たちのでかい声が崖の上にいる僕の耳に届いていた。
深き森?魔女?禁忌の森?
ここが深き森で、姫様がいたところが禁忌の森なのかな。
魔女って、もしかして姫様のことなのかな?
姫様。魔女って言われてるのか。違うかもしれないけど。
しかも禁忌の森って。物騒な名前がついているんだな。
さて、どうしよう。
さすがに盗賊全員を相手に戦うのは無謀か。
・・・あれ?なんだか僕、発想が物騒になってるな。
異世界に来て浮かれてんのかな。
一般人の僕が戦う必要はないのだ。
おとなしく冒険者ギルドか衛兵に報告すればいいのかな?
(うーむ)
そんなことを考えていたら崖の下が急に騒がしくなった。
僕のことがバレたのかと思って崖の下を慎重にのぞき込むと、盗賊達と衛兵らしき鎧を着た人たちが戦っていた。
崖下から怒号や罵声が聞こえてくる。
盗賊達は混乱しているようで、衛兵たちが制圧するのも時間の問題にみえた。
これなら僕が手伝う必要もないだろう。
邪魔になるかもしれないし。
(これが現実の戦闘か・・・)
あまりの迫力に僕は、心理的に圧倒されてしまっていた。
僕は、誰にも見つからないうちにこの場を離れた。
背後ではまだ激闘の音が鳴り響いていた。
衛兵達が突入する少し前。
盗賊のアジトの奥に作られた牢屋に、誘拐された女性たちが閉じ込められていた。
そんな彼女たちの前に、突如黒髪の少年が出現していた。
牢屋の鉄格子の前に立つ少年の見た目は、盗賊ではなく冒険者のようだった。
その少年は、腰に装備とは不釣り合いな華美な剣を携えていた。
少年の出現に騒然としている女性たちに向かって、少年が真っ黒な冒険者ギルドカードを提示した。
すると恐る恐る女性の一人が前に出て声をかけてきた。
「冒険者ですか?私たちを助けに来てくれたのですか?」
少年は頷いて手を差し出した。
話しかけた女性は反射的に少年の手を掴んだ。
次の瞬間、その女性と少年が消えた。
「!?」」」」
牢屋の中の女性たちは声にならない悲鳴を上げた。
さらに次の瞬間、少年は再び現れたが、今度は牢屋の内側にいた。
女性たちは再び驚愕したが、悲鳴を上げる間もなく全員の女性が牢屋から姿を消した。
盗賊たちを鎮圧した衛兵たちは、アジトの建物をくまなくを調べ、盗品などを押収し街へと帰還した。
その頃、僕は来た道を戻っていた。
(激しい戦いだったな。当たり前だけど、お互いに容赦なかった。
もし僕が戦うことになったら逃げるか戦うか決断しないとな。
まごまごしてたら殺されてしまう)
「あ。衛兵たちの後をつければ街に行けたんじゃ」
姫の屋敷
「次は、あやつに何を付与してやろうかのう。精神操作と記憶操作とサイコメトリー(記憶を読む能力)とかどうじゃろう。あやつの情報収集能力が
姫は、セイジが持っている魔道具の本と対となる本を手に持っていた。
姫の
「姫様。私たちメイドにも超能力とやらを授けてください」
「そんな能力はないのじゃ」
「え」」」」」
「あれは魔法じゃ。超能力っぽいことを再現しているだけなのじゃ。
あやつが超能力者になったわけではない。
何の力も持たぬ異世界人のままなのじゃ。
付与した魔法とあやつの意思が合致すれば、能力が発動するのじゃ」
「そんな
「実験じゃからの。いろいろ試しておるのじゃ」
「そもそも殿方は、魔力を持っていないのではないでしょうか」
「うむ。使うのは魔力ではなく生命力じゃ。精神力でもよいぞ」
「どちらなんですか。それは危なくはないのですか?」
「む。そのために我が聖なる森に放り込んだのじゃ。
街にたどり着く頃には体力も精神力も爆上がりじゃ」
セイジは、ガリガリになって森を抜けた。
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