第17話 変化
最近、僕は森で物騒なモノに出くわすようになった。
野生動物の死骸だ。
それが今、僕の目の前にある。兎に角でかい。
見たこともない大きさの動物だけど魔獣なのだろうか。
それとも、この世界では普通の獣なのだろうか。
最初、前方に毛むくじゃらの物体を見つけたときは、びっくりして思わず空中にテレポートしてしまった。
しばらく空中に浮いて、動かないことを確認してからゆっくり地面に降りた。
恐る恐る遠くから千里眼で観察してみると、傷が心臓部分にだけあった。
(一撃?)
こんな熊みたいなデカイ動物を一撃で倒す、そんなヤバイ奴がいる世界なのだろうか。
しかし、なぜか襲った何者かは、この動物の肉を食べていないようだ。
どういうことなんだろうか。縄張り争いで喧嘩でもしたのだろうか。
怖すぎる。もっと慎重にいかないと。
この森には何もいないと思って、近頃僕は無警戒で歩いてたよ。
気が緩んでいたかもしれない。
僕は、危険な異世界に来ているのだ。
気を引き締めなおして、今まで以上に警戒していこう。
この後もたびたび謎の動物の死骸を目にしたが、魔獣や動物に襲われるどころか遭遇することさえなかった。
その動物たちの死骸は、熊、狼、猪、鹿などに近い姿をしていた。
死因はすべて同じ一撃死だった。怖すぎる。いったい何者の仕業なんだ。
ふと、この肉は食べられるのかな。と頭をよぎったが、流石に死肉を食べることはしなかった。
謎肉を食べて食あたりになったら、腹を壊すだけじゃすまなそうだ。
いよいよ魔獣に出くわしそうなので、僕は物理結界の強度の確認を始めた。
石を真上に転移させ、落下してきたところを物理結界ではじく要領でやってみた。
少しずつ石を大きくしていったが、かなり耐えられそうだということが分かった。
確認中に気付いたことがあった。
物理結界展開時、内側から石を操作して移動すると結界に弾かれた。
発火や念動波もダメでした。
当たり前か。
これでは結界内から攻撃ができない。
テレポートは、結界があっても関係なく出来た。
テレポートで攻撃できないのが悔やまれる。
物体操作で物を操って攻撃するとして、手ごろな石などが落ちてるとは限らないから、何か武器になりそうなものを持ち歩いたほうがいいかもしれない。
小石をいくつか拾っておこう。
ちなみに、僕の体全体を覆う結界の大きさは直径2mくらいだと思う。
結界を大きくはできるが、これ以上小さくできないようだ。
頭がはみ出しちゃうから当然か。
結界を大きくすると強度が下がった。気合が足りないのだろうか。
ちなみに、なぜか自分以外の物に結界の付与ができた。
超能力の本には書いてなかったけど、こういう使い方もできるんだな。
他の物体に結界を付与するときは小さく出来た。
何かに使えるかもしれない。
別の日。
僕は、毎日のように食事で野草のポーション煮を食べている。
最近は焚火でポーション球を茹でるのが面倒くさくなったので、発火能力の直火で温めることにしている。
煙が立たないので安全を確保することもできるのだ。
僕は、この世界に来てからずっとポーションをガブガブ飲んでいるけど、大丈夫なんだろうか。日に日に不安が増してきている。
体質が変わったり体に異変が起きたりしないのだろうか。
たとえばポーション中毒とか。
心配になってきた。まあ、今更だけど。
そもそもポーションに栄養ってあるのかな。
もっと食べる野草の量を増やしたほうがいいのだろうか。
はぁ。早く街を見つけて普通の食事がしたい。
ある日。
僕は、ずっと魔道具の地図に出来た道を頼りに移動してきたわけだけど、どういうわけか緑の道が線ではなく点に変化していた。
地図上に緑の点が点々と続いている。
しかも方向が北西から西に変わった。
(どういうことだ?)
まぁ、緑の跡の後を追うということに変わりはない。西に向かおう。
点と点を僕が繋いでいく。
とある日の休憩中。
周囲の警戒の仕方について考えてみた。
僕の身体能力は一般人並みだし、肉体を強化したところで魔獣や獣相手に通用しないだろう。
なので、僕の方が魔獣を先に見つける必要がある。
ということは千里眼か。でもいつも使っていては歩きづらい。
では、身体強化で聴覚を向上させよう。音で先に魔獣を探知するのだ。
しかし、どう考えても動物の方が能力が高そうだ。これは嗅覚も一緒か。
どうやら、僕に索敵能力は無いようです。
でもまあ、せっかくの能力なので、とりあえず身体強化は常時発動としておこう。
結局、魔獣に出会ってからテレポートや空中浮遊で逃げるしかないのか。
突然魔獣に襲われても物理結界で防ぐことで、一瞬の時間は稼げると思う。
その隙に逃げることにしよう。
晴れた日の休憩中。
今日は天気が良くて温度が高く、歩いたことでいっぱい汗をかいた。
そこで僕は、ひょうたんを能力で空中に浮かせ、常温のポーションシャワーをすることにした。
しばらくポーションを浴びていると、少し離れたところから小さな反応を感じた。
足元の草むらを見てみるとポーションの水たまりが、あちこちに出来ていた。
気のせいだったのかなと思ったが、よくよく見てみるとポーションで濡れた地面に、緑色のスライムらしき物体が一体、うにうに
(おお。スライムかな?)
その姿は巨大なアメーバといった感じだ。大きさは30~40cmくらいかな。
スライムらしきものは、ポーションが地面に溜まっている場所に、もぞもぞと移動しては、うにうにしている。
(ポーションを飲んでる?)
スライムらしきものは、ポーションを飲むのに必死なのか、僕に全く興味を示さない。
僕に気付いていないのかな。
まあいいか。放っておいて先に進もう。
異世界で初めて出会った生きた魔獣?はスライム?だった。
屋敷を出て何日経ったかわからなくなったころ、地面がなだらかになってきた。
山を下りきったのだろうか。でもまだまだ森が広がっている。
(平地の森かな。木の大きさも見慣れたものになってきたし)
宙に浮いて周囲を見渡してみようかと思ったが止めた。油断してはいけない。
再び魔道具の地図を確認してみる。
(お。ここから北西に少し行った所にも緑の跡がある。しかも緑色だけじゃない。何かあるかも。行ってみよう)
セイジが進行方向を北西に変えたほぼ同時刻。
タヌキの獣人リイサは、とある報告をするため冒険者ギルドを訪れていた。
リイサが冒険者ギルドの中に入ると、もうそろそろ昼の時間帯の冒険者ギルドは閑散としていた。
リイサは、受付でぼんやりしているミイのところまで気配を消したまま近づく。
「ちょっといいかしら」
「ぎゃっ。あ、またあなたですか。毎回毎回驚かさないでくださいよ。もー」
リイサはニコニコしている。
「それで、ご用は何ですか?またセイジ君の依頼完了の報告ですか?」
「セイジ様が盗賊のアジトを発見した」
「え?盗賊ですか?わかりました。場所を教えてくれますか?」
「街から北東の深き森のなか。歩いて半日ってところかしら。セイジ様が案内するわ」
「深き森ですか。そんなところに盗賊のアジトが。わかりました。ギルドマスターに報告します。少々お待ちください」
席を立ち歩き出そうとしたミイが何かに気付いたのか、振り返ってリイサに聞いてきた。
「えっと。セイジ君は今どこに?」
「セイジ様は街の入り口にいます。無駄に豪華な剣を持っているので一目でわかるかと」
「そうですか。わかりました。では」
ミイは急いで階段を登って行った。
リイサは、用件は済んだと帰っていった。
受付のミイの報告を受けたギルドマスターは、すぐさま衛兵側と連絡を取った。
盗賊の情報の真偽とアジトの様子を確認するための偵察を行うことになり、すぐさま衛兵5人とゴーレムセイジが盗賊の隠れ家に馬で向かった。
深き森の手前で偵察隊は馬を降り、ゴーレムセイジの案内で森を進む。
すると偵察隊は、深き森で盗賊のアジトらしき建物を日が暮れる前に発見した。
森に隠れてその建物を監視していると複数の盗賊の出入りを確認したので、偵察隊の一人がすぐさま馬で街に戻った。
その報告を受けた衛兵隊長は、盗賊を壊滅させるための準備を急ぎ整えた。
翌日、日が昇るとともに衛兵隊が傭兵と共に現地へ出発した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます