第15話 霧の森のダンジョン
「すごい霧ね」
メイドのタヌキ獣人リイサがつぶやいた。
リイサの目の前には、巨大な霧の壁が立ちはだかっていた。
リイサたちは、ここまで森の中を歩いてきたが、霧は全く発生していなかった。
そこには明確に境界が存在していた。
リイサとゴーレムセイジは、
霧の森は、その名の通り常に濃い霧で覆われている森のダンジョンである。
霧の森は、濃い霧や樹木などが冒険者の行く手を阻んでおり、今だ未攻略ダンジョンとなっている。
リイサは、おもむろに霧の壁に手を突っ込んだ。
何の抵抗もなく霧の中に手が入る。
リイサが、そのまま手を動かすと霧の粒は
「ダンジョンには結界が張ってあるの。だから霧が外に流れ出ない。しかも、この霧は魔力で出来ているわ。そして、御覧の通りこの結界は侵入者を拒んだりしない。
いきましょうか」
リイサとゴーレムセイジは、
「視界悪いわね。あたりまえだけど」
濃霧により視界は3mほどか。
しかし、リイサとゴーレムセイジは、濃霧の中を視界の悪さなどお構いなしに、何かに導かれているかのように迷いなく進む。
「一応、あなたにダンジョンについて教えておくわ」
ゴーレムセイジは頷く。
「はじめに、『魔力』や『想い』などが『何か』に集まることによって、ダンジョンの核となる『依り代』が生まれるわ。
それは何でもいいの。岩だったり人工物だったりね。
その依り代に、長い年月をかけて十分な量の魔力などが溜まると、依り代に知性を持った存在が誕生し、同時に領域が展開されるの。
その領域の範囲内が、いわゆるダンジョンね。
依り代に溜まる魔力量によってダンジョンの規模が変わるわ。
領域展開後は、領域内にも周囲から集めた魔力を溜めるようになる。
知性を持った存在については説明を省くわね。
そして、依り代が造った初めの領域内に、周囲から集められた魔力が限界まで溜まると、最初の領域の外に、二つ目の領域が造られるわ。
同時に依り代は、自分の存在を守るために領域内の環境を変化させていく。
このようにしてダンジョンは成長していくの。ここまでは理解した?」
ゴーレムセイジは頷いた。
「依り代は自身の成長のため、領域内にたまたま入ってきた侵入者を長く届まらせるために領域内の環境を変えたりしているわ。例えば魔獣をダンジョン内の環境に適応させたりしてね。
そして、依り代を壊されないようにするため、依り代までの道のりを複雑にもしている。
でも、必ず依り代のあるダンジョン中心部にたどり着けるようになっているわ。
依り代までの道を完全に閉ざしたりしてないの。
その道は魔力の通り道でもあってね。魔力の流れを止めると悪いことが起きるから。
冒険者であれ魔獣であれ生きている者は、依り代の餌なのよ。
魔力が集まるところにお宝あり。
双方の目的は違うけど、結果的にダンジョンは冒険者が求める場所なのよ。
さて、長話はこれくらいにして、とっとと行きましょう。
このダンジョンは若いからそれほど巨大でも複雑でもないだろうし、中心部はすぐに見つかると思うわ。
そうだ。あなた、霧の層を抜けるまで上空に行ってダンジョンを上から見てきなさい」
ゴーレムセイジは頷くと、すぐさま上空に転移し辺りを見回し戻ってきた。
「どうだった?このダンジョンは半球体だったでしょ」
ゴーレムセイジは頷いた。
濃霧が上空にまで広がって半球体を形作っていた。
ダンジョン領域は球体状に展開していたのだ。
「そう。じゃあ、いきましょうか。めざすは球体の原点。そこに依り代があるわ」
ふたりは、霧の森のダンジョンの中心部へ向けて歩き出した。
ダンジョン化の影響により森は迷路のように変化していた。
霧で視界が悪い上に木々が壁のように立ちふさがり、侵入者の行く手を阻む。
しかし、ふたりは光射す森を散歩するかのように何事もなく進んでいく。
ダンジョン内は魔力が濃いので、周囲にいる同じ種の魔獣より強い個体が棲息している。
環境に適応しているため、魔獣たちも濃い霧は問題にしていない。
その魔獣たちが視界の悪い濃霧の中、ダンジョンを訪れた侵入者に襲い掛かってくる。
戦闘に関しては、ゴーレムセイジの成長のため、基本的にゴーレムセイジが担当することになっている。
リイサは気配を消し何もしない。
進んでいると霧の中から突然魔獣が襲って来たが、ゴーレムセイジは慌てず転移魔法でかわし、剣でとどめを刺した。
「ちょっとあなた。これからは戦闘に転移魔法を使うの禁止ね。それじゃあ、いつまで経っても強くなれないわ。ついでに他の魔法も禁止。まずはその身と剣だけで戦いなさい」
ゴーレムセイジは頷いた。
「それ解体して」
ゴーレムセイジは、ナイフを使いその場で素早く魔獣を解体し魔石や素材を回収。
魔石はその場で食べる。
「魔石っておいしいの?あなたに味覚があるか知らないけど」
ゴーレムセイジは質問には答えず、食べる必要のない魔石は袋に入れ、手をふさがないように浮遊魔法で空中に浮かせておく。
「便利な魔法ね」
そう言ったリイサの足元には、いつの間にか複数の魔獣が転がっていた。
暇だったようで、ゴーレムセイジが解体している間に襲っていたようだ。
「これも解体しといて。魔石と素材はいつものようにあたしがギルドに持って行くから。旦那様のために」
解体が終わり再びダンジョンの中心部に向かって歩きだした。
ダンジョン中心部に近づくにつれ魔獣との戦闘が激化するが、二人にとって脅威ではなかった。
森はダンジョン化によって複雑な地形に変化していたが、二人は自分たちの現在地を見失うことなく、あっという間に霧の森の中心部の領域にたどり着いた。
「着いたわね。このダンジョンの領域は2層だけか。あまり期待出来そうにないわね。とっとと依り代を回収して帰るわよ。旦那様のお役に立てる代物だったらいいのだけれど」
リイサとゴーレムセイジは、領域の入り口である木の門を通り抜けた。
ふたりは領域に入ったところで足を止めた。
「この先にそこそこ強い魔力を感じるでしょ。それを取ってきて。それがこのダンジョンの依り代だから」
ゴーレムセイジは、転移魔法の魔法陣を展開させた。
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