第14話 料理と風呂

森をさまようこと多分一週間。


その間、僕がやっていたことと言えば、そこら中に生えている野草を食べ、ポーションを飲みながら森の中を歩いていただけだった・・・。


近頃の僕の一日はというと、明るいうちは森を移動する。

暗くなったら木の上に移動する。

朝が来たら、木の上で寝る。

昼に起きて森を移動する。


そんな昼夜逆転生活を送っていた。


未だ危険な目には遭っていないが、食糧危機には遭っている。


しかし、今更ながら進行速度が遅すぎるような気がしてきた。


安全に注意を払いすぎなのかもしれない。


まだまだ心細くはあるけど、やっと夜も怖くなくなってきたところだ。


結局、恐怖は自分の心が作り出すものなんだな。




それにしても、いつになったらこの山の森を抜けられるのだろうか。


このまま行って人に出会えるのだろうか。


不安だ。




森の様子も変化してきて、屋敷周辺と比べると木々が全体的に細く低くなってきた。


それはそうと気になっていることがある。


依然として森に動物の気配がないのだ。


時折かなり遠くの方から、何かの遠吠えらしきものが聞こえてくるくらいだ。


この森には魔獣や獣はいないのだろうか。変な森だな。


僕としては安全だからいいんだけど。




最近は晴れた日が続いている。


いつものように歩き疲れて休憩しているとき、発火の練習を兼ねて火を起こしてみた。


焚火だ。心が癒される。


ただそれだけ。


調理道具があれば料理が作れたのに。


生まれてこの方、料理を作ったことがない僕だけど。


一人暮らしを始めた途端、異世界に来ちゃったからなぁ。


ああ。温かい料理を食べたい。


あったかいお風呂に入りたい。


この世界に来て一度も体を洗っていないから、とにかく風呂に入りたい。


川でも見つけられたらよかったのだけど、今のところ見つかっていない。


仕方ないので、ひょうたんを空中に浮かせ、シャワーの要領でポーションを浴びてみた。


僕は危険がないか周囲を確認する。


誰もいないな。


僕は、いそいそと服を脱ぎ、全裸になって頭からポーションを浴びる。


「ふぅ」


ひさしぶりに全身を洗うことが出来て気持ちがいい。


それから毎日ポーションシャワーを浴びてたら、体臭がポーションの香りになってきた気がする。


草の香りか。あんまりうれしくないな。




この世界の季節は春なんだろうか。


そんなことを考えながら常に腹をすかせている僕は、道すがら採取した様々な食用の野草を生でむしゃむしゃ食べている。


最近のお気に入りはタンポポみたいな草だ。


根っこまで引っこ抜きポーションで洗って食べている。


しかし、生きるために必要だとわかっていても、草ばっかり食べるのは流石につらい。


おいしくないし。


おいしいものを食べたい。


温かい料理を噛みしめたい。





超能力と料理のことばかり考えていたある日、僕は斬新な調理方法を思いついた。


僕にはサバイバル能力はないが超能力があるじゃないか。


ということで。


僕は落ちている小枝を集め、発火で着火し焚火を起こす。


次に、ひょうたんから出てくるポーションを空中で操作して浮かせ、ポーション球を作り、焚火の上に移動させ熱し沸騰させる。


食べられる野草を千切って、ポーションに突っ込み、茹でる。


後は適度に冷まして、浮いている液体からひと口サイズを分離させ食べるだけ。


素晴らしい。異世界に来てどころか、人生で初めての僕の手料理である。


名付けて『野草のポーション煮』の完成である。


温かい料理っていいよね。


ポーションと野草の相性もばっちり。


浮かせたポーション球を直接発火能力で温めることが出来るかもしれないが、エネルギーの無駄遣いだろう。


ちなみに、味は推して知るべし!




一方、超能力の方も少しづつ上達している。


物体操作に関しては、浮かせるだけなら小石10個までいけるようになった。


しかし、相変わらず複雑な操作しようとすると同時に2個しか出来ない。


残り8個はそばで浮いたままになってしまう。


複雑な操作をせずに真っすぐ飛ばすのであれば、全部発射できるのになあ。






そんなある日。


いつものように、ポーション煮を作るため、ポーション球を焚火の上に浮かせて休憩していると、


「!?」


僕は気付いてしまった。


温かいお風呂に入れるんじゃないの? 


ということでさっそく実行してみた。


ひょうたんからポーションを大量に出し、物体操作で空中に浮かせ水球を作り、それを焚火の上に移動させ温める。


これであたたかいお風呂に入れるじゃないか。なぜ今まで思いつかなかったのか。


『ホットポーション風呂』の完成である。


山奥の森には誰もいない。


僕はとっとと服を脱ぎ全裸になる。


ポーション球を触って温度を確認。


(適温!)


浮遊させたホットポーションを操作し、頭から被り足まで動かす。


(あたたか~い)


いいね。


全裸の男の体を球体のポーションが上下に移動する姿は、人に見せられたもんじゃないが、ここには誰もいない。


思う存分ポーション風呂を楽しめるのだ。


(ふう。いい湯だった)


風呂のあとは洗濯だ。


浮いたままのお風呂の残りのホットポーション球に、着ていた服をぶち込む。

それを回転させ洗濯した。


ポーションで油汚れが落ちるかどうかはわからないが、何もしないよりはましだろう。


汗や泥などの汚れは流れ落ちるから十分だ。


服が乾くまで日課の超能力の練習に勤しむ。


そうだ。街が見つかったら着替えを買おう。




森の生活も長くなったので、最近は食べられる野草が魔道具なしに見分けられるようになってきた。


鑑定の魔道具も成長して、野草の名称のほかに効能や使途などの詳細が表示されるようになり、回復ポーションの材料になる薬草を発見した。


その薬草の名称は、トゲボラン草。


その薬草は、とげとげしてて肉厚の葉をしていた。


食べてみたらアクがすごくて苦かった。


山をさまよっているうちに野草の専門家みたいになってきた。





そういえば姫様の名前って何だろう。


聞いてなかったな。


名乗ろうともしなかったし。この世界で有名なんだろうか。


そうとも限らないか。


こんな山奥に屋敷を立てて何百年も前から住んでいるみたいだし。


いったい何者なんだろうか。








姫の屋敷の魔法監視室


魔法監視室の壁に、巨大ポーション球を体で上下させている全裸の男の姿が映しだされていた。


「何をやってるんでしょうか・・・」


恐れおののくメイド。




一方、別の部屋ではメイド達の会話が盛り上がっていた。


「姫様はあいつをどうなさるつもりでしょうか」


「どうもしないんじゃないでしょうか。偶然出会ったようですし」


「それにしては破格の能力を付与されたような」


「そうですね。だとしたら何かやってもらいたいことがあるとか」


「あいつには何も命令してないんですよねぇ」


「そうですか。ただの娯楽でしょうか」


「姫様は研究材料とおっしゃっていたそうですよ」


「姫様のことです。我々では思いつかないことをお考えなのかもしれません」 


「そういえば、姫様の特命を受けたリイサに物資を届けに行ったとき、彼女が『セイジ様は婿候補です』と言ってました」


「!?」」」」」」


「なるほど。子種ですか」


「あれほどの能力付与したのです。そうに違いありません」


「なるほど。私たちにもおすそ分けを戴けるのでしょうか」





その頃、姫はセイジの持っていたコミックを読んでいた。


「この超能力物の漫画。面白いのじゃ」



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