第13話 森をさまよう

カッ。硬いものが木に当たる音が森に響きわたった。


僕は、超能力で小石を操作し、木にぶつけてみたのだ。


木に弾かれる威力では、おそらく魔獣はおろか野生動物さえも、一撃では倒せないだろう。


僕は今、休憩中でいろいろな超能力をお試し中だ。


現時点で、僕が同時に操作できる石の数は2つ。


それを今、体のそばに浮かせている。


次に、手に持っている別の石をテレポートさせてみる。


目標地点を想定し、石を転移させた。


約3m先の木を標的にしていたが、距離も位置もずれた場所に、転移した石が出現した。


テレポートの距離感がつかめない。まだまだか。


自分の攻撃力向上のためにも、テレポートは早く物にしたい。


「ん?」


地面に置いていたリュックから光が漏れている。


近寄ってリュックを覗いてみると超能力の本が光っていた。


「なんだ?」


ページをひらくと、そこには姫様からの新たな伝言が追加されていた。


テレポートの豆知識じゃ。

ある物体の転移先に他の物体がある場合、その物体を避けて転移するのじゃ。

つまりテレポートによる攻撃はできません。なのじゃ。


・・・。


「なんですとぉぉぉっ!?」


僕の絶叫が森に響き渡った。


はぁ。どういう事ですか姫様。


テレポートを攻撃に使えないとは・・・。


どうしよう・・・。僕、弱くないですかね。


唯一の頼みの綱だったのに・・・。


でもまあ、雑に転移しても地面とか壁に突っ込まないということなので良しとするか。


緊急時にしかそんなことしないだろうけど。


テレポートによる攻撃ができないという緊急事態につき、今後について改めて考えてみた。


(どうしよう) 


あの姫様からは特に何も言われていない。


自由にしろって言ってた。


真っ白な地図を渡されたけど、異世界を旅せよってことなのかな。


僕はこの世界について無知すぎるし、縁も所縁もない僕が普通に働けるのかどうかもわからない。


そのために姫様が冒険者ギルドカードを用意してくれたのだろう。


やはり冒険者しかないのか。


でも、あんまり戦いたくないなぁ。


はぁ。街中の依頼とか野草の採取依頼とかあるのかな。


それで生きていけるかどうかわからないけど、なるべく物騒なことに首を突っ込まないようにしたい。


異世界人の僕は、この世界の人とあまり関わらないほうがいいのだろうか。


・・・無理だろうなぁ。一人では生きていけない。


この世界のことを知るまでは、この世界の人とのつながりを最小限にしておくか。


そういや魔獣とやらに全く遭遇しないな。


遭いたくないからいいんだけど。


その後、テレポートの能力は、触れていない物は転移させられないということがわかって、僕はふたたび衝撃を受けたのだった。


そんな一日だった。



次の日は、テレキネシスによる物体操作の練習をした。


しっかりと認識した物ならば、離れたところにある手に触れていない物も操作できることがわかった。


また、持っていた石をテレポートさせた後も、その石を操作することが可能だった。


残念なことにいくら物体操作の訓練をしても、僕が同時に操作できる物体の数は依然として2つのままだ。


操作できる数を増やしたいが、3つ以上のお手玉ができない僕には無理なのだろうか。



数日が過ぎたころ雨が降ってきた。


冷たい雨だった。


雨具を持っていないので木の下で雨宿りすることにした。


気温が肌寒いので濡れたら大変だ。


僕は少し空中に浮き、物理結界を展開することで雨を防ぐことにした。


地面が濡れてても安心の完全防御だ。


浮いているので物理結界を展開したまま移動もできる。


雨が結界にぶつかり、結界表面を伝って流れ落ちていく。


球体ガラスの中に居るみたいで不思議な感じがした。


僕は、雨が止むまで移動することを控えることにした。




しばらく雨は止まなかった。









一方その頃。


セイジが後にたどり着くことになる街の冒険者ギルドでは、冒険者たちがとある異変について情報交換をしていた。


「最近、街の東の深き森の様子がおかしい。魔獣はおろか獣まで突然いなくなっちまった」


「そうだな。森で何かが起こっている」


「最悪、禁忌の森から深き森に狂暴な魔獣が降りてきたとしたら、すぐわかりそうなもんだしな」


「だな。深き森を探っても原因がわからんしな」


「そうだよなあ。こんなんじゃ、しばらく深き森で狩りができねえな」


「だな。しばらくは、西の白郡びゃくぐんの森に狩場を変えるか」


「そうするか。深き森の方が稼げるんだがな」






深き森にいた魔獣や獣は、とあるタヌキの獣人が大暴れしたせいで、縄張りを捨て他の場所へ逃げたり、身を潜めたりした。


そのせいで深き森から魔獣や獣が、一時的にだが姿を消すことになった。


依頼などで深き森に入っていた冒険者たちは、異変に気付き冒険者ギルドに報告した。


報告を受けた冒険者ギルドは、深き森で起きている異変の推移をしばらく見守ることにした。


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