第12話 日没

森をさまよっていたら、いよいよ日が暮れてしまった。


さまようと言っても魔道具の地図にある道を頼りに移動しているので、迷うことなく進んでいる。


この道の先に街があってほしいと願いながら。


その間ずっといろいろと超能力を試していたので、超能力の扱いにも大分慣れてきたと思う。


僕がいる場所は、山あり谷あり原生林。


普通の人ではまっすぐ進めない場所も、僕は超能力の物体操作で宙に浮けるので、そんなものお構いなしだ。


テレポートでもいいのだが、まだちょっと怖い。


進むことに関しては問題ないのだが、何も見つからないまま森の中で初めての夜を迎えた。


深い森で真っ暗闇の夜。


木々に覆われて夜空も見えず、僕の耳には昆虫らしき鳴き声と風が草木を揺らす音色だけが聞こえて来る。


僕の心は、ますます恐怖に包まれる。


未知の異世界。夜の原生林。謎の昆虫たち。


何もかもが恐ろしい。


魔獣や野生動物にはまだ遭遇してないが、空腹に襲われている。


僕はこの世界の来てポーションしか口にしていない。


未知の動植物を食べるのは、さすがに二の足を踏む。


しかし、いつまでもポーション頼みではまずいだろう。


せっかく鑑定の魔道具をもらったので試してみるしかない。


食べられる植物を探そうと思う。


動物はとりあえずやめておこう。


倒せる自信がないし捌く道具がない。


やはりナイフだけでも入れてほしかったな。


暗くなって何も見えないので、食事の事は明日考えよう。


そう言えば、暗視の能力ってないのかな。


・・・。


僕は地面にいるのが怖くなった。


何が起こるかわからないので、安全のために木の上の方に行こうと思う。


自分を操作し幹に沿ってゆっくり上昇していく。


僕は手ごろな太い枝の上に移動した。


木々の葉が僕の視界を邪魔することがなくなり、夜空が広がった。


異世界の満天の星。


星々が夜空一面に輝いているが感動している余裕はない。


僕は太い枝に腰掛け、幹に寄りかかり結界を展開する。


少しは安全を確保できたのだろうか。


貧弱な結界では心もとない。


ポーションを飲み空腹を紛らわす。


少し肌寒い。


山だからなのか。


そういう季節だからなのか。


恐怖と寒さと緊張で体が震えている。


温まりたい。


発火能力があるが、結界内で使ったら酸欠になったりするのだろうか。


やっぱり地面に降りて焚火でも起こそうか。


いや、火の明かりで何かを引き寄せるかもしれない。


このままじっとして朝が来るのを待とう。


物理結界は出来るだけ張りっぱなしでいようと思う。


いくら弱い結界でも虫くらいなら弾くことはできる。


虫に刺されて変な病気になっても困る。


ポーションで治る保証はない。


ある時、遠くからオオカミらしき遠吠えが聞こえてきた。


動物いるんだな。ある意味ほっとした。


時間がゆっくり流れていく。朝日が待ち遠しい。


夜の間、やはり眠れなかったので僕は、ずっと考え事をしていた。


(結局大学には行かずじまいだったな。

まあ、特にやりたいことなかったので、とりあえず進学しただけだからいいんだけれど。

いつの日か元の世界に帰ることができるのだろうか。

姫様、探してくれているのかな。・・・あの姫様の様子だと無理そうだな)


・・・。


(はぁ。この世界でどうやって生きて行こう。生まれ変わったつもりで人生の目標とやらを見つけるべきなのかな。いや、そんな余裕はないかも。目標はとりあえず生き残る。だな)


・・・。



朝が来る。ようやく僕は闇から解放される。


こんなに日の出が待ち遠しかったことはない。


結局、僕は一睡もできなかった。


何も見えない真っ暗な森は恐怖でしかない。


怖すぎて眠気が全く襲ってこなかった。


それに真っ暗闇の中、結界に多分虫がぶつかって来ていた。


そのせいで気を抜く暇もなく、一晩中結界を維持する羽目になった。


おかげで精神的疲労が尋常じゃない。


しかし、結果として結界の性能を確認できたので良しとしよう。


さて。


だんだん朝日が差してきたので、ひと眠りしようと思う。


昼。


木の上で寝ていた僕は、太陽が真上に登ってきたところでようやく目を覚ました。


物体操作による空中浮遊でゆっくり地面に降り立つ。


一晩中木の上でじっとしていたので、筋肉が固まって体がガタガタだ。


軽く動いて体をほぐす。


お腹が減ったのでポーションをがぶ飲みする。


「ぷはーっ」


気になっているのだが、ポーションって飲みまくっていいのだろうか。


一抹の不安を覚えたので食料を探そうと思う。


鑑定の魔道具である透明な板で手近な野草をいくつか調べてみた。


鑑定結果が板に表示された。


草 食べられません


草 食べられます


・・・。


(・・・まあ、実際かなり役に立つよね。この魔道具。

草の名前より食べられるかどうかのほうが重要だもんね。

何回も調べたら草の名前や効能などがわかるのだろうし)


食用の草を採取しポーションで洗浄し食べてみた。


「・・・草だ。まあ食べられないこともない」


先へ進もう。




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