第6話 冒険者ギルドカード
もうすぐ日が暮れそうな時間帯に、メイドのタヌキ獣人リイサとゴーレムセイジは、冒険者ギルドに足を踏み入れた。
冒険者ギルドの内部は、正面に受付カウンターと2階への階段があり、
左側に酒場が併設してあった。
夕方という時間だけあって、軽食を食べたり酒を飲んでいる冒険者たちがたくさんいた。
右側には冒険者のための雑貨屋があった。
入り口側の壁には掲示板があり、依頼書がいくつも張られていた。
そんな場所に見慣れない少年が一人、冒険者ギルドに入って来たことで注目が集まった。
二人が受付に向かおうとすると、ちょうど食事を終え出入り口に向かっていた冒険者たちと鉢合わせした。
ご機嫌に酔っぱらった冒険者たちが、ゴーレムセイジに話しかけてきた。
「おう坊主。見ねえ顔だな。どこの街から来たんだ?」
「坊主。ここは冒険者ギルドだぞ。何しに来たんだ?ああ、ママがここで働いてんのか。ぎゃはは」
「お前ら子供に絡むなよ。坊主はお使いに来たんだよなあ。偉いぞ。がはは」
その中のガタイのいい男がゴーレムセイジの体をじろじろ見て言葉を続ける。
「こんな貧相な奴が冒険者なわけないよなあ。子守りの依頼をしにきたんだろ。俺が添い寝してやろうか?ぎゃはは」
「・・・」」
二人は無反応。
リイサはゴーレムセイジの後ろで気配を完全に消していた。
そのせいで、そこにいた全員がリイサの存在に気付いていない。
ゴーレムセイジはというと、その男たちにぶつからないように足を止めただけだった。
まったく動じない少年の態度にガタイのいい男がキレた。
「おいてめえ。無視すんな。礼儀を知らねえ田舎者か」
酔っ払い冒険者の怒声が冒険者ギルドに響き渡った。
やはりゴーレムセイジは動じない。
そもそもゴーレムセイジは話せない。
なぜなら声の機能は現在使用不可になっている。
その場にいた人たちに反応は様々。
全く反応しない者。
また、あいつ等かとうんざりしている者。
少年と酔っ払いのいざこざに興味を持つ者などなど。
「はぁ」
誰にも気づかれないほど小さなため息が流れた後、
ギルド内にかわいらしい声が響き渡り、場の空気を変えた。
「申し訳ございません。坊ちゃまは、とある理由で今は話せない状態にあります」
突然現れた女性に驚く酔っ払いたちと遠巻きに様子を見ていたやじ馬たち。
「なんだおめえ!? いつからそこにいやがった」
「失礼。あたしは坊ちゃまの付き添いです。坊ちゃまの後ろに控えておりました。
坊ちゃまは今から冒険者となりますので、みなさま、以後お見知りおきを」
「ちっ。どこぞの貴族のボンボンかよ。面倒くせえ」
「付き添いがいる冒険者って。舐めてんのか」
酔っ払い冒険者たちは、悪態をつきながら冒険者ギルドから出て行った。
何事もなかったかのように、リイサとゴーレムセイジは受付に向かう。
「ようこそ冒険者ギルドへ。私は受付のミイです。冒険者ギルドカードの新規作成ですね?」
先ほどの様子を見ていただろう受付嬢が先に話しかけてきた。
ゴーレムセイジが頷く。
ミイはリイサの方に顔を向け言った。
「付き添いの方。彼のお名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
「セイジ様」
「はい。セイジ様ですね。了解いたしました」
受付嬢ミイは、書類に名前を記入し、黒いカードを取り出した。
「セイジ様。これが冒険者ギルドカードです。中央の部分を触ってください」
ゴーレムセイジは、差し出された冒険者ギルドカードの中央部を指先で触る。
「カードがセイジ様の持つ一番強い固有エネルギーを記憶します。
普通は魔力ですね。
一般に知られてはいませんが魔力には波長があり、個個人で微妙に違うのです。
何か吸われた感覚がしたら登録完了です」
ゴーレムセイジは頷く。
「はい。これによりこのカードを使用できるのは、セイジ様だけとなります」
ゴーレムセイジは冒険者ギルドカードを受け取った。
さらに受付嬢のミイが話を続ける。
「では冒険者ギルドの仕組みと冒険者ギルドカードの説明をしますね」
「その必要はありません。時間が勿体ありませんので」
すぐさま、リイサが断った。
「それならば、こちらをお読みください。新人冒険者にとって必要なことが書かれていますので」
ミイが『新人冒険者のしおり』という小冊子を差し出した。
(これはセイジ様にとって必要かしら)
一瞬逡巡したリイサだが、小冊子を受け取った。
「冒険者への依頼は、後ろの掲示板に張り出されておりますので、
自分に合った依頼を探してください。新人さんは常設依頼がおすすめですよ」
「わかった。今からセイジ様が依頼を受けます。では失礼」
リイサとゴーレムセイジは、掲示板に向かい依頼を確認した後、冒険者ギルドを後にした。
リイサは姫の屋敷へ、ゴーレムセイジは依頼をこなすため街を出た。
メイドのタヌキ獣人リイサが、冒険者ギルドカードを持って屋敷に帰ってきた。
「カードを作ってまいりました。メイド長」
「ごくろうさま。早かったわね」
「はい。姫様が作られたゴーレムのおかげです」
「そう。またすぐ街に戻るのでしょ?」
「はい。姫様から与えられた重大任務ですので」
「気合が入ってるのね」
「もちろんです。ところで旦那様はどうされていますか?」
「旦那様?ああ。彼でしたらまだ寝ています。当分の間、目を覚まさないでしょう」
「そうですか。では、あたしはゴーレムの所へ戻ります」
「務めをしっかり果たしてきなさい」
「はい。では行ってまいります」
タヌキ獣人メイドは再び街へ戻っていった。
森の中を高速で移動するタヌキ獣人のリイサ。
彼女が放つ強者の気配に怯え、逃げ惑う魔獣たち。
リイサは、森の中を移動しながら出会った魔獣を狩り、魔石だけを回収しながら進んでいた。
魔石はゴーレムセイジの生命維持のために必要だった。
すると、リイサは複数の人間の匂いを感じ足を止めた。
「人間?なぜこんなところにいるのかしら」
匂いをたどり人間を探す。
「見つけた」
森の中にある崖の下に、2階建ての建物が一棟だけ立っていた。
建物の入り口には、小汚い恰好をした複数の人間が武器を持って立っていた。
「野盗の類かしら。建物も小汚いわね。確か盗賊の情報提供が依頼にあったわね。
どうしようかしら。あたしが一掃してもいいんだけど・・・。
ゴーレムセイジの成長のためにやつらを利用させてもらいましょう」
リイサは建物に背を向け街に向かう。
「彼に潜入調査でもしてもらいましょうかね。
姫様。あたくしめがゴーレムセイジを見事鍛え上げて見せましょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます