第5話 メイドとゴーレム
深い山奥にある落ち着いた感じの立派な屋敷の庭に、二人の姿があった。
メイドのタヌキ獣人リイサとゴーレムセイジである。
リイサは、クラシカルなロングメイド服を着ていた。
姫の屋敷のメイドは、全員同じ格好である。
「あたしが姫様のメイドになって、初めて姫様から最重要任務を任されたわ」
リイサは気合が入っていた。
「姫様がどこからか人間の男を直接連れてこられた。そして、破格の能力が与えられた。
さらには、貴重な素材を使ってあなたというゴーレムまでお作りになった。
ということはよ。あたし気付いちゃったのよね。
彼は旦那様候補に違いないわ。メイド長は敢えて何も言わなかったのよ。
この任務。失敗は許されない」
ゴーレムセイジは黙って聞いている。
「街へ向かいます。しばらく、あたしについてきなさい。
あなたは生まれたばかりだから準備運動が必要でしょう。
あたしもあなたの性能を知りたいし」
ゴーレムセイジは頷いた。
ゴーレムセイジの格好は、異世界から来た男と全く同じだった。
門を抜けリイサが駆けだした。
ゴーレムセイジがそれに続く。
屋敷の外に道などはなく、見渡す限りの大自然が広がっていた。
二人は、常人ではありえない速度で山を下り、森を駆け移動する。
ある程度ふもとに近づいたところでリイサが立ち止まった。
ゴーレムセイジも立ち止まる。
「あなた、なかなかやるわね。さすが姫様が作られたゴーレム。
ここから西にまっすぐ行くと目的の街があるから。
とりあえず森の端まで全速力で行くわよ」
ゴーレムセイジは頷くと、一瞬で消えた。
「あ!?こらっ。一人で勝手にいくなーっ。あたしを置いていくとは何事だーっ」
リイサの絶叫が原生林に響き渡った。
ゴーレムセイジは転移魔法で移動していた。
リイサは、すさまじい速さで足場の悪い森の中を苦も無く移動し、ゴーレムセイジを追う。
ゴーレムセイジは、一回の転移で止まっていたようで、リイサはすぐに追いつくことができた。
「まったく。転移するなら、あたしも一緒に転移しなさいよ。
あたしの指示に従い、あたしと共に行動すること。わかった?」
ゴーレムセイジは頷き、転移魔法陣を彼女の足元まで展開させた。
ゴーレムセイジは、転移を繰り返し大森林を抜け、目的の街の目前まであっという間にたどり着いた。
「森の境目で止まって」
ゴーレムセイジは、リイサの指示に素直に従い、平原と森の境で止まった。
大森林の端で木々に隠れながら、二人は平原の先にある街を眺める。
「あれが目的の街よ。とっとと冒険者ギルドに向かうわよ」
ゴーレムセイジは頷くと、再び転移魔法を発動させ、大きな石が積まれた城壁のそばまで移動した。
「城壁を越えて街の中に転移して」
二人は街の住民に見られることなど気にもせず街中に転移した。
辺りにはボロボロの木の家というより小屋が立ち並んでいた。
入り口に戸はなく布が垂れていた。
「あたし、人の街は嫌いなのよね。いろいろ匂うから」
思わず鼻をつまむリイサだが気合を入れなおす。
「よし。とっとと冒険者ギルドに行って旦那様の冒険者ギルドカードを作るわよ」
ゴーレムセイジは無表情に頷く。
「姫様からあなたの冒険者活動について具体的な指示はされてないけど、依頼を受けられるだけ受けるわ。
もちろん働くのはあなただけね。
旦那様がこの街に着くまでに、旦那様の冒険者としての評価を上げるだけ上げておくわ。ついでにお金も稼げるしね。
そうすれば、あたしは旦那様に感謝され、姫様の評価も上がるってわけよ」
ゴーレムセイジは真顔で突っ立っている。
「そうそう。冒険者カードを作った後のことだけど、カードはあたしが屋敷に持って帰るから、あなたは早速依頼をこなして」
頷くゴーレムセイジ。
「んじゃ。変装しないとね。変化っ」
ボフッと煙が立ちリイサの姿が見えなくなった。
煙が消え姿を現したリイサの姿は少し変わっていた。
タヌキ獣人の丸っこい耳とモフモフの大きいしっぽが消えていた。
「さあ。いくわよっ。姫様の任務を完璧にこなさないとね」
人間の二人組にしか見えないタヌキ獣人メイドとゴーレムは、街の中央にある冒険者ギルドへ向かって歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます