第4話 ゴーレム

数時間後、姫は実験室に移動した。


実験室は、異世界転移部屋と同程度の広さだったが様々な物が置かれていた。


何に使用されるのか全く想像できない様々な素材が、四方の壁際に設置されている棚に綺麗に収納されていた。


なぜか、その部屋にも窓はなかった。


しかし、異世界転移部屋とは違い、天井に光を放つ魔道具が設置され部屋を明るくしていた。


姫は入り口とは反対側の壁際に立っていた。


部屋の中央には何もなく、メイドたちは姫から見て左側の壁に沿って整列していた。


準備が揃ったことで姫が行動を開始した。


「これから、あやつのゴーレムを制作する。

あやつから採取した素材と例の砂と魔石を持ってまいれ」


メイド達が箱に入った様々な材料を持ってくる。


姫は箱に入っている材料の確認を始めた。


「えーっと。白い海の砂と、あやつの髪の毛と、血などの体液と、特大の魔石と、精製済みの魔力原液と・・・ミラはおるかの?」


「はい。ここに」


青白い肌をしたメイドが前に出た。


「うむ。では始めるぞい。ゴーレム創造!」


すると、空いていた部屋の中央の地面に魔法陣が発現した。

魔法陣の直径は2m。

魔法陣を形成する奇妙な文様が不規則にうごめいている。


「砂を」


「はい」」」」


メイド達により、魔法陣の中央に白い砂が山盛りに敷かれた。


「次。あやつから採取した素材と魔力原液を砂に練りこむのじゃ」


「はい」」」」


メイド達がさまざまな素材と砂を混ぜ合わせる。

混ぜ合わされた結果、砂はひと塊になり、やわらかい粘土のような状態になった。

その大きさは、小さな枕くらいか。


「魔石を」


「はい」


メイドが砂の中に魔石を埋め込む。


「ミラ。魔法陣が輝きだしたら、あやつから吸収した生命エネルギーを砂に注ぎ込むのじゃ」


「はい」


メイドのミラが前に出て、両手を砂の塊に軽く触れた。


じんわりと魔法陣が輝きだした。


「始めるのじゃ」


ミラが力を籠める。


「よし。その調子じゃ」


目には見えないが生命エネルギーが移動しているようだ。


エネルギーを移し終えたミラがその場を離れる。


すると魔法陣の上にある砂の塊がもぞもぞと動き出した。


砂の塊は、だんだんと形を成していき人型になった。

まさに胎児に変形した砂の塊は、そこからまるで人の成長を見ているかのように変化をすすめ、最終的に大人の人間大の粘土人形になった。


次の瞬間、人型の砂の塊が光を放った。


光が収まると、そこには、まるで生きているかのような全裸の人間が、魔法陣の上に横たわっていた。


その姿は異世界からやってきた男と瓜二つ。


「どうやらうまくいったようじゃの。クロから貰った妙な砂じゃったからどうなるかと思うたが、杞憂に終わったようじゃ」


姫がゴーレムに話しかける。


「起きるがよい」


パチリと目を開けたゴーレムは、ゆっくりと起き上がった。


「そちの創造主はわしじゃ。そして、そちの名は・・・セイジ」


頷くゴーレムセイジ。


すると、魔法陣がゴーレムセイジに吸い込まれるように消えた。


「ふむ。言葉を理解できているようじゃし、

疑似人格と知識の定着も成功のようじゃの。 

では早速任務を与える。


山のふもとにある街の冒険者ギルドへ行き、

冒険者ギルドカードを入手するのじゃ。

そちに付き添いを付ける。その者の命令も聞くように。 

用意してある服を着て出発するのじゃぞ」


頷くゴーレムセイジ。


「供のメイドは誰がいいかのう。誰が空いておるのじゃ?メイド長」


「はい。タヌキ獣人のリイサはどうでしょうか」


背筋がピシッと伸び立ち姿が綺麗な、すらりとした長身の女性が答えた。


「おお。あやつか。それにしても過剰戦力ではないか?」


「あの娘がメイド最弱です」


「そうであったか。それなら仕方ないのう。たしかハイタヌキの獣人じゃったか」


「そうです」


「ふと思ったのじゃが、ハイタヌキって変じゃないかのう?」


「そうでしょうか。ハイエルフなどと一緒ですが」


「そうなのじゃが。はて?なぜ今頃気になったのじゃろうな。まあよかろう」


姫は少し思案したが言葉を続けた。


「さて任務の話の続きじゃ。

冒険者ギルドカードを作ってわしのもとに届けた後、

新たな指示があるまで冒険者として活動すること。

そして、異世界のあやつとは決して遭遇することがないようにすること。

重大な任務じゃ。そのメイドにも伝えよ」


「わかりました」


メイド長が答え、ゴーレムセイジは理解を示し頷いた。


メイド達とゴーレムセイジが部屋から出て行った。


実験室にひとり残った姫は、薄く微笑む。


「思わぬおもちゃが手に入ったものじゃ。楽しくなるのう」








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