第2話 異世界転移

「!?」


突如、僕の視界が漆黒に閉ざされた。


「ようこそ。我が屋敷へ」


静寂と暗闇の中、彼女の声が響き渡った。


(真っ暗で何も見えません)


突然真っ暗になって僕が驚いていると、

パチッっと指をはじく音が聞こえ、部屋が明るくなった。


僕の目の前で彼女は、足の長い木製の小さな椅子に優雅に腰かけていた。


(移動したのか?どうなってるんだ)


灯りの方を見ると、少し高い天井付近に光の玉がふわふわと浮いており、部屋中を柔らかく照らしていた。


(何だあれは) 


光る玉は気になるけど、それどころじゃない。


僕は、一体全体どういう状況に巻き込まれているんだ。


何が何だか全く理解できないが、どうやらここが彼女の家らしい。


その部屋は殺風景で一本足の小さなテーブルと、

今彼女が悠然と座っている椅子しかなかったが、おしゃれな部屋だった。


僕は、改めて周囲を見回し部屋の様子を確認する。


正方形の部屋の広さは24畳ほどか。


壁、石の床、天井すべてが緑色で統一されていた。


綺麗に磨かれた石の床には、奇妙な紋様が描かれており、

壁や天井にも同じものが描かれていた。


お気に入りのデザインなんだろうか。


この部屋にある扉は一か所。もちろん緑色だ。


この部屋に窓はひとつもなかった。






僕が落ち着くのを待っててくれたのか、一呼吸おいて彼女が話し出した。


「この部屋は異世界転移用の部屋じゃ。ようこそ異世界へ」


(・・・本当に?)


僕、異世界に転移したのか?。信じられない。


でも、実際僕は外から室内に転移している。こんなことが起こるなんて。


そういえば、なんで彼女は僕の母校のセーラー服を着ているのだろうか。


まあいいか。些細なことだ。


「おぬしは一体何者なのじゃ。こんなことは初めてなのじゃ」


彼女が初めて僕に話しかけてくれた。


「普通の大学生です」


「うーむ。おぬしがここにおるのは、わしにとって想定外の出来事なのじゃ」


(僕もです)


「わしがここから異世界に転移したとき、 

わしは生命体を避けて出現するはずじゃった。

しかし、なぜかわしの結界内におぬしがおった。不思議じゃのう」


(なぜなんでしょうね)


「あまりの出来事に驚いて、そのまま次々異世界に転移してしもうたぞい」


(周囲の景色が変わりまくってましたね。あれ全部、別の異世界でしたか)


「言ってなかったのじゃが、おぬしには出会ったときから結界を付与しておる」


(結界?あの透明な奴かな。)


今も僕は結界の中にいるのか。


「その結界にはいろいろな能力を付与しておる。言語の自動翻訳などじゃ」


なるほど、だから僕は途中から彼女の言葉がわかるようになったのか。

結界すごいな。どういう仕組みかわからないけど。


「わしがおぬしの世界に転移したとき、

おぬしやおぬしの世界のことを調べたのじゃ。

おぬしの記憶を読んだりしてのう」


(僕の記憶?)


あの時彼女が黙っていたのは、呆然としていただけではなかったようだ。


(でも一瞬で移動したような)


「わしぐらいになると、一瞬で惑星丸ごと解析できるのじゃ」


「すごいですね。でも何のために異世界転移をしているのですか?」


「旅行じゃ」


「異世界に旅行!?」


「趣味と実益を兼ねておる。異世界の生命体の生態や文明に興味があってのう。

ついでにいろいろ調べておるのじゃ」


「そうなんですか」


「では、おぬしにこちら世界について説明するかの。

この世界はおぬしがおった世界とは大きく違うのじゃ。

この世界は魔力で満ち溢れておっての、

その力を使って魔法が行使可能になっておるのじゃ」


(魔力に魔法か・・・。

天井付近を漂っているあの光の玉は魔法なのかな)


「この世界には、人間、獣人、魔族、魔獣などが棲息しており、

とりあえず住みわけができておる。

たまに生物圏をめぐって争ったりするがの」


(魔族に魔獣・・・)


「魔獣とは濃い魔力を体内に持ち、魔法を行使する獣じゃ。

もちろん人間や獣人なども魔力を持っておる。

魔力の総量に種族ごとの差はあるがの。

魔法があるおかげで人間達は魔獣になんとか対抗できておる。

数も魔獣より圧倒的に多いしのう。

肉体的には貧弱じゃがの。

精霊や妖精などもおるが、まあいいじゃろう。

そのうち知ることになろう」


「人間がいるんですね」


「うむ。おぬしと全く同じ種族かどうかは知らんがの。

見た目は似たようなものじゃ」


「あの、あなたは人間なんですか?それとも・・・」


「うむ。わしは人間ではない。特別で高貴な種族じゃ。あえて教えんがの」


「やはりそうでしたか。見るからに高貴そうでした」


「じゃろう。にじみ出ておろう」


彼女は当然のことと受け止めていたが、少し嬉しそうだった。


「それから、今我らがいる場所じゃが。

たしかアルド王国とかいう国じゃ。王都はアティスじゃったかの。

この屋敷は王都から遠く離れた山奥にある森の中じゃ。

わしのほうが先に住んでおったのじゃがな。

その間にいろんな国が出来ては滅んでいったのう」


彼女の発言の内容に僕は言葉を失った。


(・・・長生きなんですね。見た目若いのに)


「まあの。わが種族は長命での。わしは見た目通りのお子様じゃ」


(何もかもがすごすぎて、お子様とは思えないです)


「この世界の文明水準をおぬしが知っている歴史で例えるなら、 

室町時代かのう。鎌倉時代でもよいぞ」


なじみのある言葉に僕は思わず言葉を返す。


「魔獣がいて魔法が使える室町時代ですか」


(あんまり参考にならないような)


「それでじゃ。今後のことなのじゃが、

前提として、おぬしには魔力が全くないのじゃ。 

つまり魔法が一切使えぬ」


「え!?」


「何を驚くことがある。魔力のない世界に住んでおったのじゃ。

当然のことじゃろう」


「そうですね」


(地球には魔力がなかったのか・・・)


「今のまま外に出れば、1週間と持たず無力なおぬしはあの世行きじゃ。

あの世があるかどうかは、知らんがのう」


(やばいじゃないですか)


そういえば、僕は重要なことを聞いてなかった。


「いや、あの、元の世界に帰れないんですか?」


「無理じゃ。どこにあるかわからんのじゃ。

異世界転移魔法は、わしが創ったのじゃが、

異世界探査は魔法により常時自動で行っておる。

そして、見つかった異世界の転移先については、

ランダム転移に設定しておってのう。 

無数にある異世界の中のひとつがおぬしの世界だったのじゃ」


「そうなんですか・・・。なんでランダムなんですか?」


「いちいち探して指定するのが面倒くさいからじゃ」


「・・・そうですね」


「時間をかけておぬしの世界を探せば、

もしかしたら戻ることも可能かもしれぬが」


「本当ですか!?」


「いつになるかわからぬ」


「そうですよね」


僕はこのまま異世界で生きていかないといけないのか。

衝撃を受ける僕を全く気にすることなく彼女の話は続く。


「そこでじゃ。おぬしが自力でこの世界を生き抜くために、

おぬしに力を授けようと思うのじゃ」


(ちから?)


「そうじゃ。超能力じゃ」


「超能力!?」


「おぬしの世界の能力じゃ。馴染みがあろう」




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