魔法が使える異世界に連れていかれ超能力を付与されました

森川 犬

第1話 新登場

季節は春。


僕は、県外の大学にどうにか合格し、大学近くにあるアパートの部屋を借りた。


その狭い部屋に最低限の家具を揃えて、僕の新生活が始まった。


大学の入学式を控えた週末。


僕は、見知らぬ街を散歩しながら、駅に隣接した複合商業施設に向かっている。


(大学か。どんな大学生活になるのかな。

楽しみではあるけど大学の授業についていけるか心配だな。

とりあえず無事に卒業できればいいか)


僕の行く先には、街路樹が植えられた歩道の広い、綺麗な道路が続いている。


(バイトでもしてみようかな。運転免許資金貯めたいし。

どこで働こう。コンビニとかかな)


しばらく歩くと、地元商店街があったが本屋はなかった。


商店街を抜け複合商業施設に入り、本屋を探す。


(本屋は3階か)


本屋で目当ての新刊の単行本を買い、店内をぶらぶらしたあと外に出た。


(大学ではサークルに入らなくていいか。部活の延長だろうし。上手くないし)


僕は、中学高校とサッカー部だったが実力は平凡だった。


(バイトをいろいろやって何か新しい趣味が見つかればいいな)


そんなことをぼんやり考えながら家に向かって歩いていると、

突然空気が変わり何かに包まれた感覚がした。


(なんだ?)


街の雑踏や車の音が消え、辺りが静寂に包まれた。


直後。 


僕の目の前に【何か】が突然出現していた。


「っ!?」


直前まで僕の前には何も無かったし、誰もいなかったはずなのに。


その【何か】から放たれる今まで感じたことがない濃厚な空気。


(何だあれは?)


僕の体から冷汗が噴き出してきた。


【何か】がゆっくり振り返ると放たれていた空気が霧散した。


同時に、僕はようやくその【何か】を認識できた。


目の前にいたのは悠然と立つ女子高生だった。


その姿を見て僕は、少し安心し体の力が抜けた。 


どうやら緊張で体が固まっていたようだ。


無音の空間で二人とも無言のまま。


女子高生は真っすぐ僕を見ているし、僕も彼女から目が離せなかった。


(これはいったいどういう状況なんだ 夢なのか?)


僕は、ふと足元に目を向けた。


地面には仄かに発光する奇妙な文様が、

半径3メートルくらいの円の中にびっしり描かれていた。


(何これ?)


僕と彼女は、その紋様に区切られた空間の上に何事もなく立っていた。


彼女に視線を戻した僕は、さらに衝撃的な光景に気付いてしまった。


(え!?)


彼女越しに見える背景が刻々と移り変わっている。


周りを見渡すと、僕と彼女がいる空間以外の世界が動いていた。


周りの景色が高速で移り変わっている。


一瞬一瞬で変わる地球にはない文化や自然環境の景色が、

僕の目に次々と飛び込んできている。


そして足元に拡がる奇妙な紋様・・・。


僕、もしかして移動してるのだろうか。


僕と彼女は全く動いていないのに。


(・・・。)


手に負えない事態は後回しにしよう。


目の前の彼女の方が重要だ。


なぜなら、彼女は僕好みの美少女なのだから。


黒髪セミロングさらさらストレートの美少女は、

強い意志を感じる瞳で僕を見ている。


彼女の頭には、赤い宝石を使ったティアラが輝いており、

首元には、いくつもの宝石が輝く豪華な首飾りをしていた。


すべての指にも、いろいろな色の宝石が付いた指輪をはめていた。


セーラー服で。


そう、セーラー服に複数のジュエリーを身に着けていた。


(どういう着こなしなのだろうか。お金持ちのお嬢様なのかな?)


しかも夏服のセーラー服だった。 


(寒くないのだろうか)


そのセーラー服は、よく見るまでもなく僕の母校の制服だった。


僕の数少ない知り合いの後輩かと思ったが知らない顔だし、 

僕は県外の大学に入学している。


ここに地元の女子高生がいるはずないのだ。


(どういうこと? 偶然そんなことが起こったの?)


それにしても、立ち姿まで美しいな。しかも高貴な雰囲気を感じる。


彼女は見るからに体を鍛えていて、引き締まった肉体をしていた。


何かスポーツでもやっているのだろうか。


身長は僕より低い160㎝くらいかな。


それはそうと、長いこと美少女を観察しているが、一向に状況が変化しない。


お互い見つめ合ったままだ。


周囲は刻々と変化しているが・・・。


僕は、声を掛けようとしたが声を出せなかった。


むしろ声を掛けないほうがいいのだろうか。


僕が動くことで何かが起きるのが怖くて、美少女を見ることしかできない。


彼女の方もなぜか困惑しているようで動きがない。


(何だこれは・・・)


そろそろ彼女にこの状況を説明してほしいのだけど。


彼女は、わかってるんだよね。


もしかして彼女も巻き込まれちゃってるのかな?


すると、不意に彼女がつぶやいた。


「#$%*・・・」


(え?外国語?聞いたことない言葉だな。外国人だったのか) 


彼女がまた何やらつぶやく。


「&';>"#・・・」


すると今度は、僕の周りを透明な膜が覆ったように見えたが、

すぐに消えて見えなくなった。


驚いている僕の耳に、


「なんで生命体が、わしの結界の中におるのじゃ?」


と、理解できる言葉が聞こえてきた。 


それは非常時にしては余裕のある口ぶりだった。


(なんだ話せるのか。びっくりした。それにしても生命体って僕のこと?)


最初からうすうす気付いてはいたけど、この女子高生・・・。

普通の人間じゃないのかもしれない。


そろそろ今僕の身に起こっている非現実的な出来事を、 

現実として受け入れようと思う。


夢であってほしいけど。


「おかしいのう。生命体を避けて転移するはずじゃのに」


まだ何か言ってる。それにしても彼女の声はやや低めで心地いい声だな。


(転移か・・・)


僕はどうしたらいいんだ。声を掛けてもいいのだろうか。 


「どういうことなのじゃ? 魔法陣に何か不具合でも起きたのかのう」


(地面のあれ、魔法陣だったのか・・・)


彼女は何やら考え込んでいるが、そろそろ僕の相手をしてもらいたい。


「あの、そろそろいいですかね」


思わず声が出てしまった。


少し落ち着きを取り戻したようだ。


「異世界の生命体を連れて帰るのは非常に心苦しいが仕方がないのじゃ。 

おぬしを我が屋敷へ招待するのじゃ」


会話をする前に彼女の中で結論が出ていた。


美少女の家にご招待されました。


(異世界・・・。異世界ですか・・・)


次の瞬間。


僕と彼女はどこかの部屋にいた。

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