宇宙歴1011年 3月04日 PM

 年が近いという事で、アケビとエミールは話が弾んでいた。

 アケビは軍人らしくなく、いやむしろ軍人らしいのか裏表のない、随分あけすけな性格だった。

 彼はこの軍艦の中で生まれ育ち、両親が軍人だったのでそのまま軍人になったらしい。立場としてはエミールと似ていて、面倒ごとを押し付けられたらしい。

「人の物を奪う仕事だろ? 嫌な仕事さ」

 多少違うとすれば、エミールと違って根はいい奴というところだろう。

「ここを出て行きたいって奴はいないのか?」

「いるさ。沢山いる。いや、だいたいは出て行きたいって願ってるだろうさ。だが、ま、平和で、衣食住の心配がない。娯楽こそ少ないが、酒にカードがありゃ何とでもなる。よほど野心がなけりゃ出ていく奴は少ないのさ」

「そう聞くと羨ましいな」

「無能はまとめて飼い殺しが一番効率いいのさ。お前こそ羨ましいよ、俺より年下で大金持ちだ。なんだってできるだろ?」

「いいや、まだまださ」

 あまりに気のいい兄ちゃんすぎて、エミールもついつい本音が出てしまう。

「船が欲しいんだ」

「船? 宇宙船か?」

「そう。ガキの頃からさ、ずっと宇宙港で働いてた」

 指を閉じて、手のひらを頭の上にすいーと飛ばす。

「空の上を円盤が飛んで行くんだ。映画と違って全然風が舞っていなくてさ、なんでって聞いても親父は俺が知るかよってな。働き出したのも親父の酒代のためじゃなくて、船の傍にいたかったんだ」

「いいね、パイロットになるのか?」

「パイロットじゃ借りものだろ? 俺だけの船が欲しいんだ。個人で運送会社をやるつもりなんだよ。だから今は勉強中」

 そんな話で盛り上がっていた時だった。

 突然船内にサイレンが鳴り響いた。

 一般人のエミールは呆然としてしまったが、まかりなりにも軍人のアケビもまた同じように呆然としていた。

「て、敵襲だァ!!」

 宇宙船ドックから情けない男の声が響き、どんどん人が逃げ出していく。

「え、エミール! お前は自分の部屋に戻っていてくれ!」

 気が動転していたのだろう、そのままどこかへ行ってしまった。エミールも意識が逸れていて、それどころじゃなかった。

「おいおい冗談だろ!?」

 宇宙服のような白い布に包まれた巨人が、外壁を爆破させ中に入って来た。巨大なライフルを撃ちながら、周囲の人間たちを追い払う。厄介なことに、エミールの船が近くにあった。

 会社の船、リース会社から借りた船。数ある中の一隻でしかないのだが、自分の船が危険な目にあっているというのが耐えられない!

 エミール、そして巨人にとっても想定外のことが起きた。

 停められていた船が、一斉に動き始めたのだ。外へと漏れる空気の流れに沿って、船たちがどんどん流れていく。それはつまり、巨人が今立っている場所に向かって。

「なに考えてんだ!?」

 当たり前だが、宇宙船はロックするのが常識だ。宇宙空間とはいえ、船内は思ったより揺れる。宇宙港で一隻でもミスをしたのなら、一発でクビだ。そのぐらい当然のこと、きっと巨人も同じなのだろう。

 迫りくる無数の宇宙船に、巨人は轢かれてしまう。

「おいおいおい! やめろ、やめてくれ!」

 その中に、エミールの船もあった。

 すでにドック内に人は存在せず、誰にも頼れない。通路にかけられていた作業用の宇宙服を手に取ると、素早く服の上から着こむ。そして通路を守っている透明なフィルムの外へと飛び出た。

 すでにドック内は無重力状態で、エミールは空を泳ぐように自分の船へと向かった。

 侵入してきた巨人はすでにきりもみしながら弾き飛ばされており、力なく宙に浮いていた。

 エミールの船は横になってコンテナを持ち上げるクレーンに引っ掛かっていた。貨物船は丈夫だが、想定外の圧力にあっけなく壊れてしまうものだ。

 エミールは急いで船に近づくが、100メートルはある輸送船を前にどうこうできる状態ではない。それでも何とかならないか周囲を見渡した。

 大穴は宇宙船を何隻か放り出し、船によって塞がっていた。そして巨人は、布を破き金属部分を露出させ漂っている。

 エミールは、巨人の胸が開いていたことに気が付いた。

 ほとんど無意識のまま巨人へと向かっていた。あの大きさなら引っ掛かっている箇所を外せるはずだ。

 巨人の中を覗き、絶句した。

 コックピット内で意識を失っているのは・・・


 半透明の女性だった。


 エミールは手を伸ばすが、当たり前だが手は体を突き抜けた。

「幽霊・・・人工知能、か?」

 聞いたことがあった。

 帝国が作り出した人工知能。

 いや、人工人間だ。

『レイア! レイアどうした! コックピットが開いているぞ!』

「!」

 コックピット内に声が響く。

 外壁が再び爆発し、もう一体の巨人がベイに入ってきた。

『な、なんだここは! クソ! レイア! はやく爆弾を設置しろ!』

 エミールはバランスを崩し、コックピット内に入ってしまう。

「う、うわぁ!」

 透明な女性と体が重なり合う。

 気持ちが悪いと思いながらも、操縦桿を握った。

 わかる。

 これは作業用のロボットと大差ない。

 幼いころから無免許で色々な作業用機に乗り回していた。もちろん多少の違いはあるが、だいたいはわかる。

 コックピットを閉じる。

『レイア!? いや、違う、誰だ!』

「ここはよそ家だぜ、挨拶はそっちがするもんだ!」

 そいつを殴りつけ、宙に浮かんでいたライフルを掴んだ。

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ゲームチェンジャー 新藤広釈 @hirotoki

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