「なにがあった」

「あ、あんた誰だ? ま、まぁいい刀提げてるって事は戦えるって事だよな!? 里の入り口に怪我した行商人が居てそいつが言うには賊が大勢この里に向かって来てるって話なんだ。この里で戦える人間なんざ数える程しかいねぇ! この事を早く巫術士連中と僧侶達に伝えねぇと」

「あ、おい────!」

 ザンカが呼び止める暇もなく男は寺院の方へと走り去って行ってしまった。

 ともかく事情を理解したザンカは借り受けた新しい刀の鞘を撫でる。対応は速い方がいい。慌てふためく里の人々の間を縫ってザンカは聞いた里の入り口方面へと向かう。


 ◇


 本堂の奥、寺院守護の役目を持つ僧侶と巫術士達の控える神前の宮。賑わっている参道と違いここには余計な騒めきは存在しない。黄金の龍の描かれている荘厳な屏風びょうぶの手前には三人の人物が並んでいた。

 右手側に白を基調とした衣服を纏い煙突の様な黒い帽子を被り表情を一枚の白い布で隠した者、左手側には黄色を基調とした衣服というよりは布を巻き付けた様な姿の剃髪の青年。その内の一人はハシトという名の僧侶であった。

 中央には肩甲骨あたりまで伸びた艶やかな黒髪の少女。白と金の細やかな装飾が施された上衣に淡い赤が真紅へと変わっていく様な色使いの下衣に身を包んでいるのはサザメである。

 白い服と黄色い服の人々がそれぞれ二つの列となって並ぶ広間で三人だけが上座に座っていた。サザメは彼らを一瞥すると名目する。

 そして左手側に控える白い人物に視線を向けずに問いかけた。

「ナラマル。〈龍骸の社〉で龍脈に妙な乱れがあったと言うのはまことか」

 ナラマルと呼ばれた傍の白い人物が答える。声音は男の声であり、一見すれば雅な様相から想像のつかない低く太い声が発された。

「昨日調査を行った結果が先刻出ました。確かに龍骸の社の龍脈に何者かが干渉した痕跡が見られておりまする」

 ナラマルの報告にサザメは嘆息した。

「百日行脚で結界の補強を行ったつもりだったが────わたしに落ち度があったか」

 深く瞑目する少女。そこへハシトが口を入れた。

「いやサザメ様の行脚で結界は確かに補強されていた。それは巫術士達の調査でも明らかになっている。そうだな、ナラマル?」

「はい。それは確かに。ですが、龍脈への干渉もまた事実────無論、サザメ様の落ち度とは言いませぬ。何やら良からぬ事の前触れではないかと」

 広間に沈黙が広がる。全員の中に一様に蘇る記憶は十年前の龍脈の暴走。それによる地割れ、魔物の大量発生、異常な気候による雷と嵐…………〈大災厄〉であった。

 全員が静まり返る中、サザメが口を開いた。

「備えが必要だ。再びあの悪夢が繰り返されぬ為に────」

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