第16話 見習いコンビの戦い
「アンタ、どの程度の魔法が使えるのよ…」
地下牢を抜け出し、襲い掛かる兵を薙ぎ払い、駐屯地内の中心から離れた小屋で一息つきながら、フレデリカはアイアに問う。
「身体強化。」
一言でそう答えたアイア。
「…他は?」
まさか…そう、あり得ないと目を向けながら更に問う。
「それだけだけど?…うわぁっ!!ごめんなさい!!痛い!!痛いよぉ!!助けてーっ!!師匠ーっ!!」
キョトンとして答えたアイアの両頬をグニーッ!!とフレデリカに引っ張られ、アイアは泣き出す。
「身体強化だけ!?巫山戯んな!!貧弱なアンタがそれしか使えないなら、そのへんの兵士の方が遥かに強いわよ!!」
フレデリカの言葉通り、アイアの体格はお世辞にも恵まれていない。
同世代の少女と比べても小柄な背丈に、力強さの欠片も無い、細い手足。そして、すぐに泣き出す貧弱なメンタル。
「助けるんじゃなかった…」
予想以上に使えない同行者に溜息を漏らす。
「うぅ…師匠…」
グズグズと鼻を啜りながら泣きじゃくるアイア。
「甘ったれんなっ!!」
我慢の限界に達したフレデリカが、膝を抱えて泣くアイアの胸を蹴り飛ばす。
ムニュ、という柔らかい感触がフレデリカの脚に伝わると同時に、アイアがゴロゴロと地面を転がる。
「ウワァーン!!痛いよぉ!!ヒィッ!!虐めないでぇーっ!!」
蹴られた胸を押さえ、泣き叫ぶアイア。そんな彼女を睨みつけるフレデリカに、アイアは益々怯え、ひときわ大きく泣き叫ぶ。
「こんな愚図が…あり得ないわ…いえ、フレデリカ、そうじゃないわ。そう、胸の大きさなんてなんの意味も無いのよ…」
ギリッ!!とアイアの身体の一部を睨みつけながら、フレデリカはそう自分に言い聞かせていた。
「いたぞー!!」
アイアの声が聞こえたのか、隠れていた小屋の外に人が集まる音や声、気配が伝わってくる。
「ああっ!!もう!!アンタが騒ぐからよ!!ホント、使えないわね!!」
アイアを怒鳴りつけ、防御魔法を貼るフレデリカ。
小屋の壁を貫く大弓や魔法が襲い掛かるが、フレデリカの防御魔法を貫くことは出来ず、小屋を破壊するに留まる。
「ワラワラと、次から次に…虫みたいだわ。」
苛立ちをぶつける様にフレデリカは攻撃魔法を展開し、囲む兵士たちを無力化し、箒に跨り、司令部を目指そうと飛び立とうとした。
「置いてかないでぇーっ!!」
そんな彼女の箒にしがみつき、泣き叫ぶアイア。
「煩い!!離しなさいよ!!役立たずの雌牛!!農場に帰れ!!」
しがみつくアイアを振り払おうと箒をアクロバティックに操縦しながら罵倒を浴びせる。
「ヤダ!!ヤダァ!!置いてかないでぇ!!」
それでも尚、がっしりとしがみつき、離れようとしない。
「見習いとはいえ、アンタ魔法使いでしょうが!!自分で飛びなさいよ!!」
「僕飛べないんだよぉーっ!!」
苛立つフレデリカを更に苛立たせる様なことを、泣きながら言うアイア。
「チィッ!!面倒ね。」
「ひぃっ!!」
上空で騒ぐ二人に向け、何発も魔法や矢が放たれる。
「気に入らないけど、しょうがないわね…」
それを躱し、防ぎしながらアイアを自身の後ろに座らせる。
「うぅ…怖いよぉ…」
ギュッとフレデリカの背にしがみつき、涙声でそう漏らすアイア。フレデリカの背中に柔らかい感触が伝わり、フレデリカは更に苛立つ。
「チッ、無駄に数だけはいるわね…」
舌打ちしながら、下から飛んでくる矢や投槍、投石を躱しながら、数人の魔法使いと空中戦を繰り広げるフレデリカは舌打ちする。何より、背中でピイピイ泣くアイアに一番苛立っていた。
「役立たず!!アンタ、自分に身体強化を全開で掛けなさい!!」
大きく旋回し、敵の包囲から抜けたフレデリカが泣き叫ぶアイアに叫ぶ。
「う、うん…」
背中越しに伝わる魔力に違和感を感じながらもフレデリカは最高速で箒を疾走らせる。
「ひぃっ!!速いよぉっ!!何するのーっ!?」
「いいから、絶対に強化を解くんじゃないわよ!!」
泣きながら叫ぶアイアにフレデリカはそう怒鳴り、迫る魔法を払いながら、駐屯地の中央にそびえる司令塔に猛スピードで急接近する。
「ぶつかる!!ぶつかるよぉ!!」
泣き叫び、フレデリカにしがみついていた両腕をワタワタと振るアイアを無視し、更に速度を上げ…
「死ねっ!!役立たず!!」
壁寸前で急旋回した。
「…えっ!?」
箒から放り出されたアイア、猛スピードで壁に迫る彼女へ、おまけとばかりにフレデリカは爆裂魔法で彼女を更に加速させ、叩きつけた。
轟音が響き、壁に穴が開く。
「痛いよぉ~!!」
穴の向こうからアイアの泣き声が微かに聞こえる。
「チッ!!案外しぶとい、殺すつもりだったのに…」
そんな泣き声を聞き、フレデリカは舌打ちしながら敵を無力化していく。
粗方片付け、アイアの開けた穴に飛びこむ。
「助けてぇ~!!師匠ーっ!!」
アルジュ駐屯地司令ラウル・サランに捕えられ、人質となったアイアの情けない声に、フレデリカは溜息を吐いた。
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