第15話 地下牢

「…臭っ!!」

 フレデリカが導かれたのは地下牢。そこに漂う悪臭に、彼女は嫌悪感を示し、鼻を押さえる。

「依頼は簡単だ。ここに居ろ。以上だ。」

 そんな彼女に衛兵隊長の威圧的な声でそう言った。

「分かっていたけど予想以上に劣悪ね…こんな臭い所に、フレデリカ様が居ていい訳無いのよ?そこさえ理解出来無い馬鹿と分かったし、終わらせるとするわ。」

 準備していた、そういう速度で瞬時に杖を取り出し、構えたフレデリカに、一斉に兵士の攻撃が向かう。その瞬間だった。

「出せーっ!!僕は師匠のお遣いで来ただけだぞ!!出さないと、師匠が黙ってないぞっ!!」

 牢の鉄格子をガチャガチャと鳴らしながら叫ぶ声が響いた。

「またアイツか…」

 呆れた様子で衛兵隊長が声を漏らす。

「アレの仕置は後だ!!今は目の前の悪党を…腐敗したランフの象徴の如き悪魔を捕える、それだけに集中しろ!!」

 兵たちに命令を下し、自ら杖を構える。

「後悔は地獄でしなさい。」

 それに答える様に杖を振るったフレデリカ。

 地下牢での戦いが始まった。


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「おのれ…悪魔め…」

 全身傷だらけで息も絶え絶えに立つ衛兵隊長。その周囲には倒れた兵士たち。

「雑魚が何人集まろうと、フレデリカ様には届かないわ。」

 兵士十数人と魔導士を相手取り、フレデリカは余裕の表情を見せる。

 彼女の脳裏にあるのは、己が完敗した、『最果て』の魔女サロメ。アレに比べれば、言葉通り、雑魚でしかなかった。

「はい、終わり。後は首都の牢で悔いなさい。」

 殺しはしないが、意識を刈り取る容赦ない一撃で衛兵隊長を気絶させる。

「魔封じの枷ね。随分と数を用意して…まあ、自業自得ね。」

 彼らの集めたそれを嵌め、彼女が入る筈だった牢へ全員纏めて魔法で押し込む。

「ついでに呪術も掛けて…よし、終わり!!ふふっ、後でもう一回地獄を見せてくれあげる。」

 邪悪にほくそ笑むフレデリカ。

「後は、あの間抜けを黙らせれば終わりね。」

 一仕事終えた彼女は、地下牢の奥を見る。

「出せーっ!!」

 今だに叫ぶ声に近づいていった。


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「出せーっ!!出せよぉ…出してぇ…うゎぁんっ!!師匠ーっ!!助けてー!!」

 勇ましく叫んでいたが、次第に不安になって泣き出し、怯え、泣き叫ぶ。

 地下牢の最奥に捕らえられた少女は、他の囚人と違い、何故か元気だった。

「煩い!!叫ぶ元気があるなら、この程度の鉄格子くらい打ち破りなさいよ!!」

「ヒィッ!!怖いよぉーっ!!助けてぇー!!師匠ー!!」

 怒り狂う少女の登場に、更に怯える。

「泣くな!!あぁっ!!もうっ!!煩いったらない!!」

 魔法で鉄格子を破壊し、胸倉を掴むフレデリカ。

「師匠ー!!助けてーっ!!」

 更に泣き叫ぶ。

「煩いって言ってるのよ!!死にたいの!!」

 杖を首に向けるフレデリカ。

 その気迫に気圧されたのか、ただ涙を流して震え、必死に声を上げない様に両手で口を押さえる。


「アンタ、なんでこんなところにいるのよ。ち捕まる様な悪事を出来る度胸は無さそうだし、利用する程の力は無いわ。」

「僕は師匠に頼まれて、パンパールに行くだけだったんだ。」

 フレデリカの言葉に、泣きじゃくりながら答える。

「ゴーシュ大陸の南の港、アルジュに着いて、一安心して宿で寝てたら、何故かここにいたんだ。」

「アホね。この町の異様さに気付かないの?」

 その答えにフレデリカは溜息を吐く。

 そんなフレデリカの言葉に首を傾げる。何も理解していない様子だった。

「呆れた…この町は異様よ。あらゆる場所で監視する兵がいる。要するに、何かを隠したいのか、又は、何かを捜しているのか…もしくはその両方よ。」

 町に入り、その違和感に真っ先に気付いたフレデリカは、町を一通り見てそれを確信していた。

「だけど、なんで僕が…」

 涙声で言う。

「それは私が聞きたいのよ!!アンタ、なんなのよ!!」

 フレデリカには理解出来なかった。わざわざ捕らえる程の存在には見えない。それなのに、厳重に地下牢の最深部に捕らえられる意味が。


「アイア。アイア・ペルサキス、十四歳。見習いだけど魔法使い。」

 そう名乗る。

「師匠って何度も叫んでたわね。その師匠の名前は?」

 同い年の見習い魔法使い…そんなことを考えてながらフレデリカは問う。

「アメノ・ヒルメ。師匠は優しくて強いんだぞ。」

 師匠を思い出したのか、また涙が溢れそうになる。

「…は?」

 フレデリカは、出てきた名前を理解出来なかった。

 己よりも遥かに劣るどころか、見習いに何故なれたのかも理解出来ない程低レベルの魔法使いが、『最果て』の魔女の弟子だと言い出したからだ。

「アメノ・ヒルメって…あの『極東の慈母』、アメノ・ヒルメのことよね?」

 フレデリカは杖を構えるながらそう問うと、コクリと頷く。


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「なんでこんな奴が『最果て』の魔女の弟子なのよっ!!信じらんない!!」

 怒り狂い、攻め寄せる敵を薙ぎ払いながら進むフレデリカ。

「待ってよぉー!!」

 泣きながら、トテトテと彼女の追ってくる『最果て』の魔女の弟子。

「なんでこんな奴が!!」

 フレデリカは怒りのままに敵を蹂躙していく。

「ウワァーン!!怖いよぉ!!師匠ー!!」

 そんなフレデリカと、襲い掛かる兵士にアイアは泣き叫んでいた。



 

 

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