第14話 見習いの仕事

「面倒ね…さっさと終わらせるわよ!!」


 杖を構えるフレデリカ。


 彼女の前には、数十人の武器を携えた者たちが立ち塞がっていた。




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 見習いとしての日々を送るフレデリカ。彼女の見習い期間は、他の見習い魔法使いたちの送る日々とはあまりにも異なっていた。


 通常、見習いは師となる魔導士や魔法使いの元、彼らの補佐や補助を行いながら、彼らから試験や試練を与えられ、それに合格していくことで魔法使いとしての力を身に付けていくのだが、フレデリカの場合、実力だけなら、既に一級魔導士どころか、魔女レベルに達しているので、一応、彼女の師となっているエミールには教える事が無かった。


 故に、彼女に不足している事、それを補う試験として、彼の受けた依頼を代わりに彼女が行うことで、彼は、彼女に経験を積ませることにした。


 エミールの本心を言えば、フレデリカに最も不足している能力は、忍耐力や性格の面なのだが、それを改善するには、彼女の精神年齢は低すぎた。


 フレデリカという少女と過ごし、エミールが彼女に下した評価は、実力、知識、能力に関してはケチの付けようが無い。紛うこと無い天才であると認めている。その一方で、彼女の性格や精神面で言えば、幼稚で我儘、傲慢で高慢な性格破綻者のナルシスト。


 すぐに癇癪を起こして暴れるし、人を見下すことしかしないので、パンパール街で彼女の評判は頗る悪いし、友だちもいない。


 魔法学校在籍時、学生時代の彼女は、当然の如く孤立していたが、彼女はそれを孤立や孤独とは捉えなかった。


 孤高、そう彼女は捉えていた。


 フレデリカはエミールにムスッ、とした表情でこう語った。


「私以外は全部ゴミ。なんで私が劣る連中に合わせなきゃいけないの?私と同じレベルにそいつらが上がって来れないのが悪いのよ。協調性を持て、なんて巫山戯たことを言う愚かな教師もいたけど、クビにしてやったわ。」


 


 そんな孤高の天才、フレデリカは、エミールの元、既に複数の依頼を完璧に達成していた。


 そして、この日も依頼を終わらせる為に首都パンパールから南に二日かけて進み、ランフ最南部の町、アルジュに来ていた。


 依頼人は現地の防衛を担当するランフ軍、依頼内容は既に何度か行っている変異種の討伐。


 アルジュに辿り着いたフレデリカは、普段なら、さっさと依頼を終わらせようと真っ先に依頼人の元に向かうのだが、今回は町を散策してから依頼人の元へと向かった。




 高い塀で囲まれた軍駐屯地。周囲から中の様子を伺うには、空を飛ばなければならないが、その対策として、壁の各所に見張り台があり、三人一組で兵が上空への警戒を行っている。


「まるで戦時中ね。」


 大仰な警戒体制に、フレデリカはそんな感想を漏らす。ここだけではない、町の中にも兵が分隊体制で巡回していた。


「面倒なことになりそうね。」


 大きな溜息を吐き、フレデリカは駐屯地の衛門へと向かった。




「依頼を受けに来たわ。」


 フレデリカは、門に立つ衛兵へ依頼書を突き出し言う。


「…名は?」


 依頼書に目を通した衛兵がフレデリカに問う。その顔は疑念と警戒が表れていた。


「口の利き方がなってないわね。立場を分からせてやってもいいんだけど…まあ、いいわ。この私を知らない愚かで憐れな救いようの無いゴミにも、私は寛容で漢代だから。教えてあげるわ、この世界で最も貴く、美しく可憐な天才美少女、メヌエール・ド・サン・フレデリカ様よ。」


 フフン、と鼻を鳴らしてふんぞり返る。


「し、少々お待ちを…」


 フレデリカの言葉を聞き、衛兵が顔色を変え、門の奥に走る。それと同時に、周囲の衛兵がフレデリカを取り囲む。


「稚拙…」


 槍の穂先をフレデリカに向ける兵士たちを一瞥し、フレデリカは溜息混じりに呟いた。




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 アルジュ駐屯地司令ラウル・サランは、衛門より齎された報告に頭を抱えた。


「バルサン・エミールの代わりに、メヌエールのクソガキが来ただと!?まさか、既に中央に情報が漏れているのか…」


「いかが致しますか?相手はガキ一人、殺すのは容易いかと。」


 衛兵隊長からの進言。


 衛門前で衛兵に囲まれる少女の姿が司令室の窓から見える。


「いや、それは不味い。こちらで確保し、利用出来るなら、他の魔法使いと同様に…何より、人質として使える。」


 サランはそう決断する。


 軍の将校であると同時に、一級魔導士であるサランの耳にも、フレデリカの評判は入っている。というより、ゴーシュ大陸で彼女の名を知らない魔法使いはいない。


 ゴーシュ魔法協会会長、メヌエール・ド・サン・ジェルマンの玄孫、それだけでインパクトがある。


 更に聞こえてくる噂や情報は、耳を疑う様な悪評ばかり。


 ある時は、村を守る為に変異種の害獣を倒してくれ、という依頼で、変異種諸共村の半分を焼け野原にし、放った言葉は、


「この魔法、試してみたかったのよね。…なに?村の損害?知らないわよ。辺境のゴミが、このフレデリカ様の神々しい姿を見れたのだから、村の半分なんか安い出費だわ。さっさと依頼金を出しなさい。」


 と絶望と悲嘆に暮れる依頼人と村人に言ってのけ、挙句の果てに、数人の村人に呪術で服従の呪いまでかけて帰ったらしい。


 しかも、彼女の周辺人物による情報では、この程度なら日常茶飯事だと言うのだから、恐ろしい。


「他に捕らえた魔法使いと同じ場所に連れて行け。」


 サランはそんな指示を下した。




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「お待たせした。メヌエール嬢、こちらへ。」


 衛兵隊長の誘導でフレデリカは駐屯地を進む。その周囲を、彼女の悪評を知る、警戒心全開の衛兵が囲んでいた。


「私が美しくて可愛いのは分かるけど、そんなに見られると不快だわ。」


「申し訳無い、なんせここに、貴女の様に美しい方はおりませんので。」


 不快感を示すフレデリカに、衛兵隊長は笑いながらそう言った。


「まあ、特別に許可してあげるわ…」


 溜息混じりに答えるフレデリカに、衛兵隊長は思った。


 天才といえど所詮ガキ、殺すも、利用するも容易だろうと…




 それが大きな間違いだと気付いた時には、既に手遅れであった。








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