2節 “痣無し”は駆ける

「アリアちゃん、待って!」

 僕は一所懸命に、前を走る女の子を追いかける。一向に速度を緩める気が無いのは、声をかけても振り向きもしないことから良く分かった。

 彼女は僕と同じ“痣無し”だ。アララト村には僕たち以外には“痣無し”はいないため、仲良くなりたかった。でも、仲良くなろうにも取り付く島もなく、いつも逃げてしまうのだ。それを母に話すと、何か嫌なことをしたのではないかと問われたが、全く身に覚えがない。

 気を取り直して、母に教えてもらった裁縫で小物入れを作った。僕が母の仕事を手伝うように、彼女も手伝いをしていると聞いて、腰に括り付けられるようなものを贈れば便利で喜んでくれると思ったのだ。意気揚々と出かけた僕は、すぐにこの作戦の穴に気付かされた。僕が声をかけるよりも早く、彼女はいつものように走り去っていったのだ。

 落ち込む僕を見かねた母は、彼女のお父さんに相談したそうだ。すると、彼女のお父さんのサムは、狩りで仕留めた獲物を片手に謝罪に来た。

「アゼル君、ごめんな。アリアも悪気があるわけじゃないんだ。ただ、今まで友達がいなかったもんだから、どう接していいか分からないんだよ。」

 それは僕も同じだ。皆“痣無し”は罪が無い、神聖な存在と言いながらも、自分たちと違う存在を恐れ距離を取る。子供たちの輪に入ろうとしても、親から何を聞かされているのか、関わりたくないと言わんばかりに目を逸らされる。もちろん、大人の中には表面上だけでなく、普通の人として接してくれる人もいるが、疎外感は消えない。

 サムだって“痣無し”の親だ、そんなことは分かっている。言い辛そうに話を続ける。

「・・・母親は出産の後に亡くなったんだ。それと“痣無し”を関連付けてあれこれ言う阿呆どもがいてな。親馬鹿かもしれんが、アリアは賢くて、深く考える内に人と関わるのが嫌になっちまったんだ・・・と思う。」

 俯きながら自信なさげなサムを見ていると、僕の胸はざわついた。

 居てもたってもいられなくなり、小物入れを握りしめて家を飛び出す。アリアの居場所は分からないけれど、絶対に見つけ出して渡すと決めた心は止められない。すると、肩透かしなことにアリアは家を出てすぐの木陰に座っていた。目標を確認した僕は全速力で向かっていく。驚愕とも恐怖ともとれる顔をしたアリアも、全速力で逃げていく。いつもなら諦めてしまうところだが、今日は違う。島の端まででも追いかけて話しをするんだ。

 太陽がてっぺんより傾いた頃に始まった追いかけっこは、日が暮れる前に終わった。

「はぁ、はぁ・・・いい加減諦めなさいよ!」

 息を切らしながら、遂にアリアが足を止めて振り返る。というのも、もはや逃げ場がない。本当に島の端までたどり着き、あとは崖から飛び降りて死海に沈むしかない。

 言葉を返そうとするが、身体に酸素を送るために呼吸をするので精一杯だ。対するアリアはふらついてはいるが、呼吸は整いつつある。狩りの手伝いの賜物なのだろう。僕も体力をつけようという気持ちは一旦しまい、今すべきことをするために一歩踏み出す。

 言葉の代わりに握りしめていた小物入れを差し出す。ずっと力強く握りしめられたそれは、皺になり汗まで吸って随分みすぼらしくなってしまっていた。

 それでも、アリアは恐る恐るではあるが受け取ってくれた。笑顔の僕に、予想外の言葉をかけながら。

「・・・汚くて、ダサい。」

 初めて作ったにしても、僕にとっては自信の一品だった。汚いのは認めるところではあるが、ショックなことに変わりはない。

「じゃ、じゃあまた作り直すよ。」

 やっと話すことが出来たのだ、これくらいで挫けるわけにはいかない。小物入れを受け取ろうと手を伸ばすと、倍する力で引っ張られる。

「・・・これでいい。」

 アリアは顔が見えないほどに俯きながらつぶやく。あれだけ批評しながら、これでいい、と言うのはどういうことなのだろう。アリアなりに、贈り物に対する感謝から我慢しているのかもしれない。そう思うと僕も引き下がることは出来ない。せっかくなら、アリアが本当に嬉しいと感じてくれるものを贈りたい。

 追いかけっこに続いて始まった綱引きは、それほど長くは続かなかった。

「これがいいの!」

「ダメだよ!ちゃんとまた作り直すよ!」

 両者一歩も引かない状況ではあったが、身体はもうボロボロ。体力の差で、勝負は少しづつアリアに優勢に傾いていく。だがしかし、一番最初に根をあげたのは無辜の小物入れだった。

 急に拮抗力を失った二人は、受け身を取る余裕もなく倒れこむ。尻もちで済んだ僕は衝撃から立ち直り、前を向くと、そこには崖から半身がはみ出し、必死にこちらに手を伸ばすアリアの姿があった。

 時間が止まった。身体が鉛のように重く、空気が水のようにまとわりついて、お互いに伸ばした手の距離は縮まない。立ち上がらない身体を引き摺ってもがく。地を這って前へ前へとあがく。もう少し、もう少しで届くのに。無情にもアリアは地に沈んでいく。

 迷うことなど無かった。獣のように四足を使ってアリアに飛びつく。だからと言ってそこは空中、掴まる枝も受け止めてくれる大地も無い。それでも。

「大丈夫だよ、アリア。」

 根拠なんてないけれど、どうにかできると僕は思った。息がかかる距離にあるアリアの顔は泣き笑いだった。

「バカ。」

 水面が近づく。赤いそれはまるで口を開けて僕達を待つ怪物のようだ。

 落ちる速度は速く。

 速く。

 はやく。

 

「早く起きなさい!このバカ!」

 アリアの強烈な頭突きで夢から覚める。くらつく頭を押さえようとしたが、それは叶わなかった。後ろ手に縛られているようだ。混乱しながら部屋を見渡すと、昨日寝た部屋でないこと、憔悴したアリアの様子から只事ではないと気付く。室内の中央に置かれた火鉢からは、煙が立ち昇り始めていた。

 

 時は、少し遡る。

 

 不自然に朦朧とした意識の中、アリアは散り散りになった身体の感覚を手繰り寄せる。気怠さは抜けないが、それでも意識を集中させて状況を確認する。

 見覚えのない室内は、窓一つなく時間は分からない。確かなのは自分が司祭に眠らされた事だけだ。重い首を起こして辺りを見回す。隣には同じように眠らされたのだろうアゼルの姿がある。どうやら、二人で横になっても十分に余裕のある寝台に寝かされているようだ。気持ちよさそうに眠る緊張感の無い姿に少し腹が立つが仕方ない、アゼルも被害者だ。正面に見えるドア以外には出入りできる場所は無く、錠があるのが確認できるということは、ここは二階の最も階段から遠い部屋だろう。逃げようにも、一つしかない通路に監視が居ないとは思えない。

 さらに、目の前の問題がもう一つ。手足を縛られていて、動きが制限されてしまっている。これでは逃走も夢のまた夢だ。どうにかして外せないかと身じろぎしていると、自分が裸体の上に白いローブを羽織らせられているだけだと気付く。儀式的な意味があるのだろうが、アリアには羞恥よりも、持ち物がどこに置かれているか不明な現状が悩みの種だった。

 その時、ガチャリと、金属の硬質な音を立ててドアが開く。現れる人物など決まっている。

「よく眠れましたか?」

 司祭の優しげな口調が、アリアの神経を逆撫でする。だが、ここで怒鳴っていても何も解決しない。アリアは思考を切り替え、情報を探る。

「司祭様、なんでこんなことを?」

 目を潤ませ、上目遣いに震えた声で訴える。司祭は膝をつき目線を合わせ、痛ましそうに顔を歪めてゆっくりと口を開く。

「貴方たちは神のお供に選ばれたのです。理解するのは難しいことでしょう。ですが、苦しく辛いことはありません。すぐに、天使が貴方たちを楽園へと連れて行ってくれます。」

 それが誇らしい事のように、それでいてこちらを慮った態度で話す司祭を観察する。嘘を言っているようには見えず、神の使徒そのものにすら見える司祭を説得するのは不可能に思えた。

「・・・わかりました。怖いことは無いのですね?なら、この縄を解いてください。これでは救ってくださる神様に、祈りを捧げることすらできません。」

 司祭は逡巡していた。アリアの言うことが、とても正しい事のように思えてならなかったからだ。アリアはつけ入る隙を見つけたとばかりに畳みかける。

「私達“痣無し”は、いつも他人との違いが分からず苦しんできました。でも、いまこそその苦しみが救われるのですね。これ以上の喜びはありません。司祭様、どうか祈りを捧げさせてください。」

 根負けした司祭は、後ろ手に拘束していた縄を解き、手を胸の前で組み合わせた状態で再び結びなおした。それは、初めよりも緩い結びになっていた。

「アリア、申し訳ありません。死を直前にした人間とは何をするか分からない。そのための拘束だとご理解ください。」

 まるで自分が大罪を犯しているような、懺悔に塗れた表情で司祭が言う。アリアは一歩前進したことを喜びながらも、慎重に次の手を探る。

「ありがとうございます。これで十分です、司祭様。・・・私たちはどのように天に召されるのでしょうか?」

 司祭の私室で見た植物が使われるのだとしたら、二つのパターンが考えられる。そして、二分の一の確率で、生存への道が絶たれる。緊張した面持ちで答えを待つ。

「こちらの火鉢の中から煙が出てきます。ですから、身体を楽にしてその時をお待ちなさい。」

 細い綱渡りがまだ続いていることに安堵しながら、最後の手を打つ。

「部屋にある宝物を、持ってきてはくれませんか?」


 そして、時はアゼルの目覚めに至る。


「あんのクソ司祭!ちょっとは融通しなさいよ!」

 アリアの怒りの原因は分からないが、八つ当たりで叩かないで欲しい。どういう状況かと尋ねたら、説明してる暇は無いと余計叩かれた。

「とにかく時間を稼ぐわよ!あの煙は吸っちゃダメ!」

 アリアはお尻を使って器用に移動して僕の背側に周り、あっという間に縄を解いた。アリアの縄も解き、各自、足の縄に取り掛かりながら簡単に情報を交換する。

「アゼルも気絶させられたの?」

 あまり信じられないといった様子で尋ねてくる。そんな覚えはないので、曖昧な記憶を辿りながら答える。

「僕は普通に眠ったけど、確かに急に眠くなった気がする。」

 きっと情報が足りなかったのだろう、一睨みされたので必死に記憶を手繰る。

「・・・えっと、食堂のおばさんにパンを貰って、他には、えっと・・・。」

 アリアは貧乏ゆすりを始め、僕から有用な情報は得られないと見切りをつけて、思索に没頭する。こうなったら物音を立てず、アリアの妨げにならないようにするだけだ。だが、ふと思い出したことが口を衝く。

「甘い香りがした・・・。」

 咄嗟に口を押える。場にはそぐわないが、機嫌を伺うようにアリアに微笑みかける。予想外なことに、罵倒も睨みも飛んでこない。その代わり、身動きを止め虚空の一点を見つめるアリアがいた。しかし、それも一瞬。

「廊下で同じ匂いした?」

 簡潔なアリアの問いに、首を横に振って答える。そこからのアリアの行動は驚くほどに早かった。すでに解き終えた足の縄を手に、ベッドに仁王立ちしながら指示を出す。

「シーツを火鉢にぶち込んで!」

 アリアが飛び退いたタイミングでシーツを引っぺがす。言われた通りにシーツを火鉢に投げ込むと、当然、火はシーツに燃え移りもうもうと黒い煙が立ち上がる。次の指示を求めようと目を向けると、アリアはドアから見て左奥の壁の辺りを隈なく触っていた。問いかけるよりも早く、歓喜の声が上がる。

「あったー!」

 言うが早いか開くが早いか、壁だと思われた一画が開き通路が現れた。僕たちは転がり込むように通路へ入り、隠し扉をぴたりと閉めると、安堵からか、身体の力が抜けへたり込む。もしかすると、煙を吸い過ぎたのかもしれない。致命的でないことを祈りながらアリアの様子を伺う。疲労した様子ではあるが、また自分の世界に入ったところを見ると、今すぐどうこうということは無いだろう。もし何かあったときは、僕がアリアを負ぶって壁でもなんでも壊しながら進めばいい。

 覚悟を新たにした僕を残し、考え事がまとまったアリアが通路を進み始める。遅れないように付き従う。通路は意外なほど広く、幅も高さも大人が通るに十分なほどだ。程なく暗がりの中に下りの階段が見えてきた。すると、アリアは振り返り口元に人差し指を当て、音を立てないように促してくる。肯首して、足音を立てぬよう慎重に一段一段降りていく。

 階段を降り、暗闇に慣れた目に入ってきたのは床にある落とし戸だ。そこにしばらく聞き耳を立てた後、アリアは再び振り返り、ゆっくりと腰を下ろした。

「少し待機よ。」

 ようやく口を開いたアリアに合わせ、僕も口を開く。

「そろそろ説明してよ。一体なにがどうなってるの?」

 面倒そうな雰囲気を漂わせつつも、得意げな表情を隠しきれないアリアが小声で説明を始める。

 事の始まりは、アリアが司祭の私室を物色した後に気絶させられたところまで遡る。約束はどうしたと口を挟みたくはなったが、話の腰を折るわけにもいかず、意識を耳に傾ける。その際に見つけたのはオリアンダーと呼ばれる毒草だそうだ。口にすれば死は免れず、燃やした場合も出る煙は猛毒で、吸ってしまえばこれまた死は免れない。無理やり食べさせられずに済んで助かったとアリアは言う。

 そして、僕も敢え無く眠らされて鍵のかかった部屋、アリアは儀式部屋と呼んだ、に運ばれて、そこで僕たちを神の御許に送る手筈だった。しかし、僕が伝えた甘い香りという情報から、アリアはそれが何らかの睡眠薬だと仮定し、司祭が何種類も睡眠薬を用意していない限り、アリア自身もそれを使われたと推測した。となると、その睡眠薬は司祭の私室にあって然るべきなのに、アリアはそんなものは目にしなかったという。その代わり、机には何らかの製法書が置いてあった。そこから考えられるのは、睡眠薬を作った司祭はちょうど僕たちの寝室にそれを仕掛けに行ったところだったということだ。

 一気に喋ったアリアはここで一息つく。僕は感心しっぱなしだった。よくも見たわけではない物や事態を想像だけで補完し、組み立てて自分の求める答えを導き出すものだ。

「それで、どうして儀式部屋に隠し通路があるって分かったの?」

 僕は続きが気になって、じじ様に話の続きをねだるときのように急かす。アリアといえば勿体ぶって、こほんと、まるで先生にでもなったように話を続ける。

 ここからは簡単だそうだ。睡眠薬を仕掛け終えた司祭は私室に戻る際にアリアを見つけ、逃がさぬように気絶させた。ならば、必ず礼拝堂の扉から入ってくるしかないはずなのに、アリアはそんな音は聞いていない。聞き逃したと仮定しても、その後にアリアを寝室へ運ぶために廊下を二往復もしなければいけない。睡眠薬の匂いが付いたであろう司祭とアリアがそれだけの時間廊下にいたにも関わらず、僕の鼻で気付けないほどの匂いしか残していないのはおかしいというのだ。確かに僕はご飯の匂いを家から遠く離れた森からでも嗅ぎ取れるが、そこまで信頼されると心配になってくる。

 それにと、アリアは続ける。隠し通路があると仮定すると、司祭の私室から儀式部屋以外には、見取り図上ありえないと言い切る。この教会内で空白となっている空間があるのは、階段の裏、つまり司祭の私室の真上と、礼拝堂の上部だけなのだ。それらをつなぎ合わせた先には必然と儀式部屋がある。

 全てを話し終えたと満足げなアリアを、僕は茫然と見つめた。やっとのことで理解が追いつき、すごいすごいと、アリアの手を握って興奮を伝える。アリアの顔は誇らしさで赤くなっていた。

 

 司祭は、二人の罪なき子らが無事に神の御許へと辿り着けるように、祈りを捧げていた。もともと“痣無し”の二人を捧げることは考えていた。だが、司祭ごときが独断で行うにはあまりに事が大きかった。神の怒りで大陸が分断された結果、他の教会や教皇様に連絡を取る手段もなく、この十四年間を悩みの中過ごしてきた。

 十四歳、それはこの村においての成人である。そして、一連の儀式を受けることで村に大人として認められ、己の責任で生きることを許されるのだ。だからこそ、子供であるこの儀式の間が最後の機会だと司祭は考えていた。そんな中で受けた神からのお告げは、苦難からの救済だった。

 これまでのことを思い返していると、礼拝堂のドアが勢いよく開く。振り返ると、見張りをしているはずの助祭が二人。

「司祭様!煙が!煙が溢れています!」

 助祭の一人が慌てふためいた様子で捲し立てる。それは事前に伝えていた筈だ。そのために口を覆うものを用意させ、祭儀室からは離れているように言い付けていた。事態が伝わっていないと判断したもう一人の助祭は、さらに捲し立てる。

「違うのです!あまりにも煙の量が多く、二階全体が覆われています!」

 そこまで聞かされれば嫌でもわかる。それほどの煙が出る量のオリアンダーは入れていない。となれば考えられるのは、部屋の何かに引火して延焼しただろうことだけだ。

「急いで非常時を伝える鐘を鳴らしなさい!もう一人は消化に必要な水を厨房から運びなさい!」

 指示を出し終えると、助祭達は蜘蛛の子を散らすように走り出し、それに続き司祭も祭儀室の鍵を持って二階へと走る。

 聞いていた通り、二階は黒煙で覆われていた。身を低くしてガウンの袖を口に当て、煙を極力吸わないように注意を払う。苦労して辿り着いた祭儀室の周辺は、もはや視界も利かないほどだ。勘を頼りに鍵を錠穴に差し込み、熱せられた取手に構わずドアを開く。

 しかし、室内には火など無く煙が残るだけだ。そう感じたのも刹那、背後から急激な圧力を受けると同時に、爆発が司祭を飲み込んだ。

 

「降りて!」

 合図通りに、アリアを抱えて落とし戸から飛び降りる。そのすぐ後ろを耳を塞ぎたくなるような爆音が追いかけてきた。司祭の私室に降りた僕たちは素早く周辺を確認する。すると、親元にでも返すつもりだったのだろうか、床に置かれたかごの中に僕たちの衣服と荷物が丁寧に入れられていた。

 急いで支度を整えながら、先ほどの爆発についてアリアに尋ねる。

「あれもアリアの仕業?」

「人聞きが悪いわね。・・・ま、そうだけど。」

 上手くいったわと、あっけらかんと白状した。アリアによれば、あの密室の空気を食い尽くした火は一度は消えるが、熱はそのまま残っていて、ドアが開いて新しい空気が流れ込めば一気にまた燃え上がるそうだ。僕にはあまり理解できなかったが、アリアが言うならそうなのだ。

「なんでそんなこと知ってたの?まさか、試したわけじゃ・・・。」

 流石にそんなことをして死にたくはないらしく、今回が初めてらしい。ということは、今ドアを開けた人は漏れなく死に目に会っているのではないか。

 それ以上考えることは止めて、準備が出来た二人は辺りを警戒しながら礼拝堂の扉を開け、一気に外まで走り抜ける。

 少し陰った朝日だが、暗闇に居た僕達には目に痛い。一日ぶりの外の空気は煤を含んでいて、とても清々しいとは言えないが、それでも気持ちは軽くなる。教会を振り返ることはせず、僕たちは家がある東へと走り続ける。

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