幸せなキスを

 ほんの興味本位だった。

 聖の唇があんまりに綺麗で、つやがあって、クリームのように甘そうだったから。


 俺は、キスしてしまっていた。



「――――」



 時間が止まった。

 心臓も止まったような気がした。


 聖は、今どう思っている?


 少なくとも俺は、頭がどうかしていた。



 そっと唇を離し、俺は背を向けた。


 その時の聖は泣いていた。


 どっちの涙だ?


 嬉しかったのか。

 悲しかったのか。



 それとも――悔しかったのか。



「すまない、ちょっと興味があったんだ……驚かせたよな」

「え、あ、うん……正直、柚菜からしてくると……思わなかったよ」


「軽蔑したか。けどな、全部、聖が悪いんだぞ。俺こんな風にしたのは聖だ」

「ううん、軽蔑なんてしてない。すっごく幸せ」


 ――ああ、聖の涙は『幸せ』を意味していたのか。そう、幸せだったんだ。


 それは俺も同じ気持ちだった。


 聖と唇を重ね合わせ、時を忘れて夢中になった。甘く蕩けるような時間。込み上げてくる熱いもの。


 心音が鳴りやまない。


 俺は、いつの間にか聖に恋をしていたのかもしれない。その確証が今、得られたような気がしていた。けど本音をぶちまけるのは、まだ恥ずかしいし怖い。


 ……聖に嫌われたくない。



「聖、ごめん。今日帰るよ」

「うん、ありがとね。わたし、柚菜が好きだからね。ずっとずっと好き」


「お、おう……」


 今の顔は絶対に見せたくない。

 見せてなるものか。


 俺は必死に表情を抑え、部室を出た。


 あぁ、あぁ……聖。


 お前の顔を見ていると胸が苦しい。なんで、どうしてこんな感情が生まれてきてしまったんだ。俺はVTuberだったはずなのに。

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