正体がバレた?

 三時限目の国語。

 担任は俺をよく当ててきた。

 最近、よく指名されるような。やや鬱陶うっとうしさも感じながら、席を立ち――芥川龍之介の羅生門らしょうもんを朗読。


 そうして授業が終わって――昼休み。


 てっきり聖がロケットのように飛んで来るかと思ったけど、別の女子が話しかけてきた。


 この子は確か『円城えんじょう』さん。

 長い髪を可愛いリボンでまとめ上げ、女の子らしい。赤い眼鏡が特徴的だった。



「桜庭さん、ちょっと話があるのですが」

「ん、俺? ここで話せないこと?」

「はい。ここでは話せません。廊下へ行きましょう」



 渋々しぶしぶながらついていく。

 話の内容も気になったからな。


 廊下の隅へ向かう。



「それで、話って?」

「はい。私、気づいちゃったんですよね」

「何に……?」

「桜庭さん、VTuberのソロモンでしょ?」



 不意にそんなことを言われ、俺はドキッとした。な、なんで分かった。ていうか、この真面目そうな円城がVTuberの配信を見てる!?


 ぜんぜんそんな風に見えないのに。


 まずいな。バレるわけにはいかない。誤魔化そう。



「ち、違うけど」

「さっき国語の朗読で分かっちゃったんです。あ、これソロモンの声じゃんって」

「……た、たまたまだろう。たまたま。ていうか、俺、ソロモンとか知らないし、何なのソレ」


とぼけっちゃって。桜庭さん、嘘を隠すのヘタですよね」

「嘘なものか。俺はその何とかではないよ。もういいだろ」


 背を向け、立ち去ろうとすると――



「ふぅん、じゃあ……桜庭さんがソロモンだって、みんなに教えていいんですね?」

「だから違うと何度言えば――む?」



 振り向いて否定を続けていると、聖が介入。俺と円城の間に割って入った。



「円城さん、柚菜が困っているでしょ! いい加減にして!」

「誰かと思えば……聖さん」


「な、なによ。なんでそんな目で見るの」

「聖さん、ソロモンに大量の投げ銭をしているでしょう。名前は確か『MAHO』ですよね」


「なッ!! なんで知ってるの!!」



「やっぱり。ということは、桜庭さんがソロモンの可能性は高いですね」



 しまった、と聖は慌てる。

 おいおい、なにやってんだか。



「ち、違うし! 柚菜とわたしは……そう、付き合ってるの!」


「え!? 女の子同士で?」


「うん! これからデートだってするんだもんっ。だから、邪魔しないで!」



 ちょ、聖のヤツなにを言っているんだ。有らぬ誤解を与えるじゃないか、これは断固として抗議してやろうと思ったが、聖は俺の手を引っ張って走り出す。


 あ~…、もう。


 聖のヤツ、顔が真っ赤じゃないか。

 ……俺もだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る