褒められた

 あれから放課後。

 帰ろうと席を立つと聖が通せんぼした。


「俺は帰るんだが」

「一緒に帰ろっ! ていうか、どこか寄っていかない!?」

「えー…」

「奢るからさ~! なんでもいいよ、スイーツ食べにいくとかカラオケとか、ネイルサロンとか」


 ネイルサロン?

 それって一人で行くものでは。


「聖は、ネイルとかするんだ」

「えっ、だってソロモンが配信してたじゃん」


「うぅ……」


 さすがに配信を見ていたか。

 あのネイル配信は半年前なのに。


「むしろ、柚菜の方が意外だよ。リアルはそんなボーイッシュなのに」

「一応、女だからな。多少は気を遣うさ」

「えー…、ピアスだってしてるじゃん。わたしよりオシャレしてない!?」


「わ、悪いか」

「ううん、カッコ可愛いと思う」


 そんなキラキラした瞳で言われると照れる。


 口元が歪みそうになって、危うく人には見せられない表情を出してしまうところだった。俺は、手で顔を覆い歩き出す。



「……ッ」

「ちょ、柚菜! どうして逃げるの!」



 * * *



 どうしてしまったんだ俺。

 聖に褒められて……嬉しいとか少し思ってしまった。なんでこんなにドキドキするんだ。慣れている配信でも、ここまでは緊張しないのに。


 なのに。


「帰ろ……」

「待ってよ、柚菜~!」


 駆け寄ってくる聖。

 けれど、他の方角からも女子が走ってきた。



「桜庭先輩、ちょっとお話いいですか」



 聖と後輩らしき女生徒に挟まれ、俺は動けなくなった。ていうか、この黒髪の子……誰?



「えっ、誰? 柚菜、お知り合い?」

「さあ? 俺って、友達いないし」


「「ええ!?」」



 聖も謎の少女も驚く。

 視聴者リスナー数なら日本トップテンに入ると思うけどね。


 それより、この後輩らしき女子はいったい?

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