クリームパンの謎

 キスする寸前の距離。

 俺は聖の顔を手で押しのけた。


「ち、近いって」

「でも、それほど嫌そうじゃないね」

「う、うるさいな……」


 聖は、女の身である俺から見ても美人。

 あの不思議な髪色と、瞳が神秘的に見えた。


 これで大人しい性格で、黙っていれば高嶺の花に違いないのに――なぜ、VTuber好きなんだか。



「うんうん、お昼ごはんにしよか」

「俺、お昼はパンと決まっているんだ。ほら、クリームパン」

「あ~、わたしと同じだね!」


 偶然だねぇ~と笑う、聖。

 しかし、俺はゾッとしていた。


 そんな馬鹿な。


 俺も聖も同じメーカーの『十勝産牛乳入り高級クリームパン』だった。



「ちょっとまて、聖」

「ん、どうしたの」

「どうして同じものを買っているんだ」


「偶然じゃない?」



 信じられないな。このパンは、最近コンビニでもあんまり見かけないもの。スーパーでないと売ってないことが多い。

 実際、俺はスーパーでこのパンを購入していた。


 なのに。



「教えてくれ、聖。どこのスーパーを利用しているんだ?」

「え、わたし? 近所の“オケマル”ってところ」



 それを耳にした瞬間、俺は背筋が凍り付いた。そのスーパーは、俺も利用しているところだったからだ。……やばい、聖のヤツ、俺の後をつけている!?



「ね、ねえ、聖。まさか俺の後を付けたりしてないよな」


「えっ……」

「え??」



「そ、そ、そんな事ないよぉ!?」



 すごく動揺してる。

 この反応はマジっぽいぞ。



「おい、聖。もうストーキングは止めろ。そんな風にされると怖いって。なら、いっそ一緒に歩けばいいだろ」

「……うぅ、ごめんね。そんなつもりなかったんだけど、でも柚菜が気になるんだもん」

「なんで、そんな俺のファンなんだ」

「ソロモンだからっ」


 当然の答えだったな。

 とりあえず、ストーカーになられる前に、友達――いや、知り合いにはなっておこう。そうしないと俺の身が持たない。

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