第13話 必滅の魔女はつかいまを探す

「入学してすぐにサバイバル訓練するんだね」


「先生の話では可能な限り早くプレイヤーを前線に出したいようだな」


 零護たちが<はじめてのフィールド>へ、足を踏み入れる前にあの女教師はぽろっとそんなことを言っていたのを零護は思い出した。


 なんでも日本中でフィールド化が増えており、全線で戦っているプレイヤーだけでは手が足りないらしい。


 だから早急な即戦力プレイヤーの育成は課題なんだそうだ。


「まだお友達もできてないのに、クラス合宿なんてわくわくするね」


「楽しいものだと良いんだがな」


 多分、その「お友達ができていない」状態での1日サバイバルの状態を作りたいのだろう。


 狙いは初対面の人間たちでも助け合ってフィールド化を切り抜ける力を養う、またはどう対応するかを見ている、と行ったとこだろうか。


「ん?」


 そこで零護は近づいてくる足音に気が付いた。

 茉森も気が付いたのか二人で音のする方に目を向ける。


 するとそこにはウェーブで金髪ロングの少女がいた。

 セーラー服姿に真っ黒なローブを羽織ったまま俺たちを凝視している。

 しかし凝視していても身長は150センチもないようで、まったく迫力がない。

 

「どうしたのかな、迷子かな? アイスでも落とした?」


「どうだろうな……どうかしたか?」


 じっと見たまま何も言わない少女に零護は優しく話しかけた。

 すると少女はうつむきながらも頑張って声を絞り出す。


「あ、あなたが、さっき、レベル12まで上げてクラスで一番の高評価を残した、ふたり?」


(そういえば女教師が、「はじめてのフィールドはレベル5くらいまではあがるが、レベル12まで上げる奴はいない」なんて言ってた、高評価だったのか)


 零護はふむと一人納得した。


「ねえ零ちゃん、あの子めちゃくちゃかわいいね、抱きしめたくなる」


 相手の緊張をよそに茉森はキラキラした瞳で耳打ちした。

 まるで子犬か子猫でも見つけたような瞳をしている。


「ふ、2人でこそこそ話しないで、ちょっと、やらしいから!」


「ひゃー、かわいいぃぃ」


 頬っぺたを膨らます少女を目の前にして、茉森はとうとう彼女に向かって走り出して、瞬時に抱き留める。


「ああ、花の香りでいい匂いだよぉ、すべすべえ」


「た、たすけてほしいんだよおおお!」


 茉森のあまりのスピードに対応できずされるがままに、幼い少女は涙目で零護に助けを求める。


「マモリ、戻れ戻れ。それでどうしたんだ?」


 猫の首を掴むように茉森を片手で引きはがして少女を助ける。


「あ、ありがとう。そ、その、じつは……」


 もじもじと少女は零護を見つつ、茉森をたまに見ては、口ごもる。


「あなた」


「ん、わたし?」


 茉森はもじもじしている少女を見て口を緩ませていたが、名前を呼ばれてハッと我に返った。


「か、確滅の巫女だよね。わたしは、必滅の魔女」


「か、必滅の魔女! あーあれだ、しってる、あれだよ! 聞いたことある! 確か、あの、どこかで、八百屋とか……いや、最近流行りのバンドだったかな……」


「無理するな」


「確滅の巫女とはライバル関係にあるってお姉さまから聞いた」


 少女はきつく茉森を睨むがやはり迫力がない。

 元々は優しそうな少女だなと零護は思った。


「わ、わたしはここにせんげんするの」


 少女は両手を胸の前でぎゅっと握りしめる。


「次のサバイバル合宿のフィールドは、ボスモンスターの討伐って聞いた」


「へえ、そうだったんだね、零ちゃん」


 のんきそうに茉森はつぶやく。


「だから、」

「だから?」

「ふむ」


 少女は零護を赤らんだ頬で見つめてから、茉森へと指キッと向ける。


「確滅の巫女、わたしは……わたしが、かったら、その最強護衛、わたしがもらうんだから!」



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