第6話

 彼らは常に正しかった。彼らの居ぬところでゲームをこっそりやったがために、私の視力は低下した。彼らが否定した艦艇のプラモデルを組んだがために、私は軍事方面に興味を持ってしまった。彼らが忌み嫌うそのような世界を見てしまったがために、私は『安月給』の工学者の道を夢見てしまった。そして、彼らが棲まう安寧のすり鉢のそとへ根付こうとしたために、私は……私の人生は……


 彼らは常に正しかった。けれど、現実というのは不思議なもので、正しい道を進んだとて彼らの読み通りにならぬことも起きた。

 学力的にはもうワンランク難しい大学を狙えた私だったが、最終的に地元の大学へ進んだ。地元への就職に有利にはたらくからと彼らは読んだのだ。これまで彼らは常に正しかったから、私はその道へ進んだ。もっとも、自由な金を持たぬ私にそれ以外の道があろうはずもなかったのだが。


 さてその地元の大学は複数の学科を併願できるシステムになっており、私は彼らが勧める通り、地元の学科から書いていったのだ。ところが概ね合格圏に入っていたにもかかわらず、何の因果か、結果的に私が受かったのは郷里から酷く離れたキャンパスにある学科であった。何番目の志望だかもよく覚えていない。第一志望でさえ自ら決めなかったぐらいだから、覚えていないのも仕方のないこととも言える。

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