第5話

 私にとって彼らは絶対者だった。彼らなしで生きてゆくことは物理的にできないし、外部と接触することもできない。生活の中で得る情報のほとんどは、何かしらの形で彼らを通してしか得られないものだった。生を受けてからというもの、彼らの影が私の側を離れることは片時もなかった。読む本は検閲を受け。ゲームをする権利は元より放棄させられており、すり鉢の中の美しい自然で遊ぶ外なかった。反抗などという恐ろしい選択肢など考えられるはずもなかったし、取ったとて何の益もないことだと明瞭に分かっていた。彼らはひたむきに私の将来の幸福を見据えたが故の指南であるから、遠い将来においてそれが間違いであるはずなどない。彼らは絶対者なのだから……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る