#005.5
「ふむ」
玉座だ。
豪華絢爛。富と権力をちりばめた空間。
ベルディア王国の王宮、玉座の間。
ただ、その玉座に座っているのは、ベルディア国王その人ではない。
ゴシック調の黒服を纏う、黒髪の少女。幼女、と言っても差し支えないその少女が、まさに帝王の貫禄で鎮座している。
そんな少女の傍らには、黒毛の人豹が控えていた。武人を思わせる体躯、口元から覗く鋭牙、そしてそれに似合わぬほど静かな面構え。彼はただ瞑目し、主人の言葉を待ち続けている。
そこにいるのは、その二人だけだ。
だが、突如として、一人の少女が現れた。
白い髪、赤い瞳をした少女が、玉座に向き合うように、姿を現す。
「何用か?」
黒髪の少女は問うた。
白髪の少女は答える。
「ご挨拶と、事後承諾をと思ってね」
「承諾? いったいなんの?」
「召喚者を一人、いただいていくわ」
白髪の少女の言葉に、黒髪の少女は目を丸くする。
そして、くっくっと喉を鳴らして笑った。
「律儀なやつじゃの、お主。隣の国で寝ておったやつじゃろ?」
「ええ、どうやら1000年ほど眠っていたようね」
「寝すぎじゃ。わしらにとってはほどない時間でも、ヒトの世は100年で様変わりするぞ」
「どうやらそのようね。変わりすぎていて、すこし戸惑っているわ。……それで、召喚者の件、承諾いただけるのかしら」
「承諾など取らずともよい。召喚者はわしの計算のうちにはなかったものじゃ」
「けれど、期待はしている。そうでしょう?」
「まぁ、すこしはの」
黒髪の少女はクレマリオ王国の方角に視線を向ける。
「いまはまだ弱いが、待てばそれなりに育つじゃろう」
「期待しているのに、私がいただいてもいいのかしら?」
「よいよい。むしろ、同族が手ずから育てた召喚者とは、そちらのほうが期待できそうじゃ」
にやり、と黒髪の少女の口角があがる。
それに合わせるように、白髪の少女もふっと笑みをこぼした。
「いちおう訊いておくけれど、貴方が魔王を作ったのは、戦いのため? その
「闘争じゃな。盤上遊戯をしたいわけではない。久方ぶりに、血湧き肉躍るような戦いが見たくなった」
「それで、それを見ることは叶ったのかしら? この国を滅ぼすことで」
「いや、それは叶わなんだ。想定よりも弱くての。闘争でも戦争でもなく、ただの蹂躙となってしまったわ」
「それは残念だったわね」
「いや、そうでもないぞ。この一国の滅亡が、面白い副産物を生み出しておる。召喚勇者もそうじゃが、冒険者や義勇軍、うまくいけば同類もな」
「その同類とやらには、私も含まれているのかしら?」
「もちろんじゃ。まぁ、お主の都合がよければ、じゃが」
「考えておくわ」
「うむ、よろしく頼む」
「それじゃあ、私はこれで」
微笑んで、白髪の少女は姿を消した。
「……面白くなりそうじゃの」
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