第2話 「希望のチェキ」
「その告白、叶えたいか?」
晴天下の屋上で、俺の影ははっきりと見える。黒く塗りつぶされているはずの人型に白い口が描かれ、声を出していた。
「まじもんの神じゃないか…」
未知の状況に遭遇すると呆気にとられるものなんだな。影をまじまじと見るだけしかできなかった。
「答えろ…」
「叶えられるなら叶えて欲しいっす…」
「3日後、自分の写真を持ってここに来い、そしたら恋を成就させてやろう」
「写真持ってくるだけでいいんすか?」
「ちゃんと現像してよく顔が写ったものをもってこい」
「わかりました」
白い口がゆっくりと消えていった。現像した写真だけを持ってくるだけで彼女ができるのか?考えても仕方ないか、相手は影の神だし。屋上の鍵を家から持ってきた南京錠で誤魔化して学校を出る。帰り道、住宅街を歩いていると友達のドルオタ下野くんがいた。
「下野くん、下野くん、シャッター押すと写真が出てくるカメラ今持ってない?」
「チェキのこと?あるけど、使用料500円ね」
「500円出すから俺を撮ってくれ」
下野くんは怪訝な顔をしながらも、カバンからカメラを出した。カメラなんて家にないから助かった。
「ここで撮るのはやめとこ、河川敷の方まで行こう」
「そこの緑道でもよくない?」
「僕、ここの近所だから知ってるんだけど、この道で昔交通事故があって轢かれた女の人が亡くなってるんだ。しかもその人、僕らが通ってる高校の女子だったらしい。縁起悪いだろ?」
「そりゃよくないな、川野川まで行くか」
ネタのような名前の川まで歩いていく。下野くんは様々なポーズを取らせ、顔を地面につけながら写真を撮ってくれた。
「ありがと、これお礼の1000円ね」
「500円多いよ」
「いいっていいって、チェキ1枚1000円なんだろ?」
1000円で恋が叶うなら、安いもんだ。下野くんは受け取ってくれた。もう一度お礼を言って、下野くんは帰って行った。貰ったチェキを手帳に挟む。さて、告白をしに行くまで3日、どう過ごそうか。
観賞用の恋人 佐々木 煤 @sususasa15
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