第3話 痛み分け
その後、父は今にも暴れそうな翔を宥め、母も落ち着きを取り戻し、全員ダイニングの自分の席に腰を下ろした。
重苦しい空気の中、まずは父が口を開く。
「で、これは結菜が描いて載せたのか?」
「だからそうだって言ってるだろ、父さん!」
「結菜に聞いているんだ。翔は黙っていなさい」
今にも噛みつきそうに吠える翔を、父は嗜め、結菜に視線を移す。
結菜は大きく息を吐いた。
「そうだよ」
「最低だな! どうしてくれるんだ!」
「翔! 黙ってろと言っているだろう」
父に静止され、翔は悔しそうに口を閉じた。父が話を続ける。
「趣味はともかく、何で翔をモデルにしたんだ?」
父の疑問はもっともだ。
余計なことを言うなとでも言いたそうに、翔が睨みつけているが、一方的に悪者になるのも癪なので、結菜はこれまでにあったことを説明した。
「……というわけで、我慢できなくなったからストレス発散と仕返しのつもりで描いたの」
父が大きなため息をつく。美容師をしていて実年齢よりはるかに若々しい彼も、今は年相応の四十代半ばに見える。
母は話の内容を一部勘違いし、また顔を赤らめている。
「え? か、翔、男の子と? そっちなの?」
「違うし! 相手は女だよ! それをこのオタクブスが勝手に男に……。そもそも、何で俺がヤられる側なんだよ!」
「翔! やめなさい!」
——結構、読み進めたのだろうか。
立ち上がろうとしたところを父に止められる兄を見ながら、そんなことを考えていた。
父がさらに大きなため息をついた。ついに実年齢より老け込んでいるように見える。
「まず結菜。そのアカウントを削除しなさい」
「ええ! そんなあ」
「当たり前だろ! オタクブス!」
「それから翔!」
思ったより重い罰に結菜が落胆する。
ザマアミロと言わんばかりの兄を静止し、父は翔にも罰を与えた。
「お前は女の子を家に入れないこと。不特定多数なんて不誠実なこともやめなさい。今回のことと関係なくトラブルの原因になるし、人として良くない。しばらく門限は夕方六時だ。GPSもつけるからな」
「はあ? そんなんじゃどこも行けないし、何もできないじゃん!」
「翔! いい加減にしろ! 元はと言えばお前が原因だ! 反省しなさい!」
小学生のような門限に文句を言う翔。父は声を荒げて捻じ伏せる。彼は我儘勝手な長男を見て、さすがに甘やかしすぎたかと、今更子育てについて反省していた。
「ふたりともこの話は終わりだ。お互い様なんだから水に流しなさい」
こうして二人の問題は解決したかに見えたが……。
翔が納得するわけが無かった。
この日から、彼の復讐が始まる。
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