第5話 怨霊になりたい

今日は少し残業になってしまった。

テレビをつけたままにしたとはいえ、りかがひとりで寂しくしてないか気になり、俺は足早に家へと向かった。


「ただいま!」


廊下から部屋のドアを開けると、暗い部屋の中、テレビの光だけが輝いていた。


「おかえりなさい!」


りかの声に俺はほっとする。もしかしたら成仏してるかも、と少し不安だったのだ。


(……いや待て、幽霊的には成仏した方が幸せだよな?)


などと考えていたが、部屋が暗いままな事に気づき、俺は慌てて照明を付けた。


「暗い中テレビ見せてごめん、目に悪かったよな」

「ううん、大丈夫。私幽霊だから、目が悪くなる心配なし!」


たしかに!俺はおかしくなって思わず笑つてしまう。そんな俺につられるように、りかも笑った。


「はーおかしかった……でも、暗いとなんか寂しくない?明日はつけたまま出るよ。あ……電気代は気にしなくていいからな?」

「うん……ありがとう。実は、ちょっとだけ心細かったんだ。ふふ……生まれ変わったら、ちゃんと恩返しにくるね!」

「おお待ってるよ!って、生まれ変わるまで一体何年かかるんだよ?……返せるようになった頃には、俺、おじいちゃんになってるんじゃ?」


まだ成仏もしてないし、そう言うと、りかは確かに!と笑ったが、ちょっとして、彼女はこう言った。


「じゃあ……早く成仏しないとだね……」


その、少し寂しそうなりかの言葉に、俺もなぜか寂しくなってしまった。

俺もりかも、この生活が気に入ってしまってるのかもしれない。


(……いやダメだろそんなの、この世に未練を残して成仏できなくなったなんて、彼女のためにならないだろ?)


俺は、寂しい気持ちを無理やり飲み込んだ。


と、その時俺のスマホが鳴る。母さんからだ。俺はりかに、ちょっとごめんと言ってから電話に出た。


「もしもし。何?どうしたん?……引っ越し?無事終わったよ。……え?近いうち来る?別にいいけど……昼間来るなら、前の家の時みたいにガスメーターの裏に鍵貼ってあるから勝手に開けて入って。……ああ、じゃあおやすみ」


どうやら、引っ越しがちゃんと終わったか気になって連絡してきたようだ。電車で1時間程度の距離なので、遊びに行くついでに寄るわ!と言っていた。


「……お母さんから?」

「うん、今度うちに寄るって。多分、昼に来て勝手に入ってくると思うけど……大丈夫?」


おそらく母さんも、霊感なんてないだろうから、りかの姿が見つかる事はないとは思うが……。


「うん、大丈夫。でも一応、ベッドの下にでも隠れておこうかな」

「もし見られたら、うらめしやーって脅かしといていいから」

「え、そんなのダメでしょ!何とか見つからないようにするから、心配しないで」


冗談のつもりだったけど、りかに真剣に反論されてしまう。


「ごめんごめん、冗談だから。あ……テレビつけたままだと、つけっぱなしにして!って言いながら消されるな……もしそうなったらごめん」

「そっか……じゃあ、それまでに怨霊の力を身につけて、自分でテレビをつけられるようにしないとだね!」

「いや怨霊って!俺、呪われたくないんだけど!」


俺たちふたりはそんな冗談を言い合いながら、ゲラゲラ笑った。


「あ、夕飯食わないと!いや、風呂を先にするか……」


そう言って、俺は服を脱ごうとし、ふと動きを止めた。

幽霊とはいえ、女の子ので脱ぐのはダメだろうが!デリカシー大切!


「ごめん、風呂場で着替えるようにする。覗くなよ?」

「失礼な!そんな趣味ありませんから!」


怒ったように言うりかに、俺は笑いながら、着替えを持って風呂場へと向かった。


そのあと、時間も遅くなっていたので軽めの夕飯を済ませ、俺は眠りについた。


「おやすみ、玲斗くん」

「うん、おやすみ、りか」


こうして、奇妙な共同生活の4日目が終わった。

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