第8話 ポルターガイストが消えた日

ジョーは僕より早起きし、僕が寝てから帰って来て、

毎日本当に泥のように眠る生活を続けるだけだった。


二日酔いだろうと熱が出ようと平気な顔で仕事に行った。


朝、僕が起きると、部屋中があれやこれやで散らかっていて、

片付けてから大学に行くのが僕の日課のようになっていった。


仕事仲間のオッサンたちの所に行けばいいと言った事もあるが、

オッサンたちは優しいし泊めてくれるだろうけど、

家族がいるから緊急時だけに決めてるんだそうだ。

(まぁこの散らかし具合はさぞ嫌がられる事だろう。)


放られた彼の衣服は、ダメージ系が好きなのかと思っていたら、

実は単に下着を含めて全部、何年着たんだ?ってくらいに

ヨレヨレになっていただけだったので、

リコの服飾系の友つてで、

試作品やわけアリ品などの似合いそうな物を入手してもらい、

すり替えておいた。


ジョーは多分衣類のすり替えに気付いていたのだろうけれど、

特に何も言わず、ナチュラルに新しい衣類を着ていた。


多分、初めて出会ったあの頃のように、

自分の見た目自体がどーでも良かったんだと思う。


「あの人って得だよね。安い服着ても高そうに見える。」


リコはそう言っていた。


実際、彼は破れてボロボロの服ですら、

グラビアモデルのように着こなしていたので、

リコたちは着せ替え人形遊び感覚で、彼の服探しを楽しみ、

自分で切っていたらしい髪のカットも引き受けてくれた。


でもその習慣はあっという間に終わりを告げた。


ジョーたちが携わっていた道路工事が終わったのだ。


その日を境に、ジョーは僕の部屋からも消えた。


何も言わずにいなくなっていたので、僕とリコたちは拍子抜けしてしまった。


メッセや電話をしても、元々ほぼ出なかったので、

今彼がどこにいるのか解らなかった。


夜中に1度ベッドから起きてドアを開け、床に寝る必要のない生活、

冷蔵庫の食べ物や飲み物がいつでもそこにある生活、

朝起きても部屋が何も散らかっていない生活は快適だった。


でもジョーが音信不通のまま1週間も過ぎると、

僕は何故か勉強がはかどらず、机に突っ伏していた。


「元の生活に戻っただけだ。

パンイチのポルターガイストがはらわれただけだ。」


突っ伏した顔を横に向けて、シャーペンをくるくる回していた僕に、

急に怒りがいてきた。


「友達だって言ったくせにっ!こんなのあるかよっ!」


僕はクジラのぬいぐるみをもうジョーのいないベッドに力一杯投げつけ、

何故なぜか泣いていた。


怒りより、裏切られたような悲しい気持ちが沢山いて来て、

ワケが解らなくなっていた。


大学に行く道筋で、工事現場を通り過ぎる時、

挨拶に、必ずちょっと上げられた手はもう見れない。


部屋中の窓を開けたくなるほどの酔っぱらいの臭いももうないだろう。


あんなに迷惑だったのに、きっと僕はそれが楽しかったんだ。


認める。


きっとじゃなくて、僕は確実にあの生活が楽しかったんだ。


リコたん♪:ねぇ、イッチ。大丈夫?

リコたん♪:通話、リプして。イッチ。

リコたん♪:イッチ。アンタまで音信不通になんないでよ!

リコたん♪:イッチってば!


リコからの鬼電と鬼メの着信音が、

しんとした僕の部屋にいつまでも響いていた。

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