第7話 30分でも長く寝ていたいクズ野郎


「消ーーーしーーゴーームー!

エッチ電話が消ーーーしーーーゴーーームーーーーー!

イッチってば、恥ずかしすぎるぅ~!ぎゃははは」


ジョーと会ってから、リコも僕の事をイッチと呼び始めた。


リコと僕は長い付き合いなので、

”一郎”と本名で呼ばれる事の方に慣れているのだが、

ジョーがイッチ、イッチと僕の事ばかり話すらしいので、

彼女もそう呼ぶことにしたらしい。


それから、

リコは友達のキヨちゃんと呼ばれる子を、ジョーとくっつけたいらしい。


「ねぇ、ジョーさんて彼女いるの?

なんか彼女作る時間ないって言ってたらしいけど?

せっかく交換したのに、メールも電話も繋がらないらしいけど?」


世話好きのリコは僕にグイグイ協力をあおいできた。


「職場じゃ携帯OFFにするのがマナーだろ?

僕もよく解らないけど、

アイツが平日土日夜昼問わず幾つもバイト掛け持ちしてるのは確かだよ。」


「そっかぁ。キヨちゃん、性格も良い子なんだけどなぁ。

またなんかあったら教えて、イッチ!またね!おやすみ!」


「おやすみ。」


僕は携帯を横に置いて、

テーブルライトの灯りの下で、勉強の続きに取り掛かった。


横の奥にある僕のベッドには、

掛け布団持参でやってきたジョーがシャワーを終えてパンイチで寝ていた。


ジョーいわく、


「俺、ひらめいたんだわ!

イッチんち現場に近いから、俺、平日30分余分に寝られる!」


~なんだそうだ。


「何でお前がベッドなんだよ。」


僕はシャーペンを回しながら愚痴ぐちった。


「お前もベッドで寝ればいいじゃん。

俺ら友達だろ?

俺は泥のかたまりだとでも思えばいいさ。

実際、俺はたいがい泥みてぇに寝てる。」


寝ていると思ったジョーが、

寝たままの体勢で答えたので、僕はちょっとギョッとして話題を変えた。


「えっと、キヨちゃんて子憶えてる?ポニーテールしてる子。」


「ああ、あの目がでかくて、なんとかって名の歌手に似た可愛い子な。」


「リコがキミに彼女がいなければ、紹介したいらしいんだけど…。」


「その子金持ち?みついでくれるなら付き合う。」


僕はジョーのその言葉にショックを受けた。


「俺、金がいるからな。

で、その子金持ち?」


「お前は寝とけっ!」


僕は怒鳴どなって、クジラのぬいぐるみを力一杯ジョーの背中に投げつけた。


リコお墨付きの性格の良い子を、見た目だって人並み以上な可愛い子を、

そんな条件を1番にして選ぼうだなんて何様なんだ、

どんだけ守銭奴しゅせんどのクズ野郎なんだと、殺意に似た怒りがいたからだ。


「女の子って金かかるじゃん?

それより俺は30分でも長く寝ていたい。

俺のスケジュールこなしてみろよ。

お前だってそう思うさ。」


ジョーの声は先程までと違って低く沈んでいた。


「友達だったら、今は放っといてくれ。

いつか必ず話す…から…。」


かすれた語尾が、彼の気分だったのか、眠気からだったのかは解らない。


彼はいつも疲れている感じだったので、僕は彼に特に何も聞かなくて、

彼が何故そんなにお金にこだわるのか、幾つ職を掛け持っているのかも解らない。


僕に解るのは、

どうやら僕らが友達同士らしいってことと、

彼が毎日必死に働いて、泥のように眠るクズ野郎ってだけなので、

僕はまたその晩も床に寝た。

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