第6話 ヤバいヤツ

「いやもう、その人、会いたすぎる!最高かよ!ぎゃははは」


学食を食べながらリコと通話していたら、

リコはまた最大級に笑いこけていた。


「もうさー、

一郎の友達ってば、ここ最近で1番のネタだよ!ネタ!ぎゃはは

うちの友も話聞くの楽しみ過ぎるから、もっと会いなよー!

てか、一郎んちに遊びに行けば会えるかなー?」


僕はリコに、彼が泣いた事や秘密の呪文のこと以外は全部話していた。


リコと話しているうちに、僕もだんだんジョーが面白い奴に思えてきていたが、

僕とジョーが友達と呼べるかどうかは依然として謎だった。


「これって友達って言える?

それにたまたまうちに来たってだけだし、今後は解らない。

見たいなら僕の大学の横の工事中の道、見に来てみなよ?

ジョー、そこで働いてるからさ。

多分あと2週間くらいはそこにいるハズ。

ジョーの他は全部オッサンだからすぐ解るよ。」 


「行くー!今日休みだから、友連れて見に行くー!ヤッホー!」


リコは叫ぶような金切り声を上げて通話を終了した。


リコのサロンも他の美容室と同じく、火曜の平日休みだったのだ。


僕は午後の講義に集中した。


僕が大学附属図書館で今日の復讐をしながら、明日の講義の予習をしていた時、

リコからメッセが飛んで来た。



リコたん♪:ヤバい!アイツヤバい!

塚本一郎:え?何かあった?

リコたん♪:ヤバ過ぎる!マジで!

塚本一郎:なんかされた?助けいる?


リコたちの身に何か起きたのかと思った僕は、

慌ててノートや筆記具をリュックに詰め、

リコたちを迎えに行くよう準備しはじめた。


リコたん♪:違う!別の意味でヤバい!かっこよすぎる!


僕の心配は無用だったようだ。


塚本一郎:(ゲンナリしたクジラのスタンプ)

リコたん♪:話しかけようと思ったけど、メッチャ働いてる!

塚本一郎:そりゃぁ仕事中だし、当たり前だろ?

リコたん♪:服の上からも解る筋肉ヤバい!

塚本一郎:お前、ヤバいしか言えないの?

リコたん♪:うちの友も皆言ってる!ヤバいって!マジこれがあの人?


リコから僕の所に動画が添付てんぷされてきた。


それは間違いなくジョーで、僕の印象とは違い、至極しごくまじめに働いていた。


僕はあまり意識していなかったが、勉強漬けの自分と違い、

身長に差はあまりなかったものの、日々肉体労働をこなす彼の体は出来上がっていた。


僕は急に、彼を着替えさせた夜、

自分には大きすぎたスウェットも、彼には少しきつそうだったのを思い出した。


リコたん♪:ねぇ、マジこの人がそう?

リコたん♪:ねぇ一郎?これがそう?

リコたん♪:ねぇって!


リコのメッセ連打に僕は我に返った。


塚本一郎:そうだよ。それがあのジョー。

リコたん♪:マジでー?あり得なくない?違くない?聞いてるのと違う!

塚本一郎:僕が今までに嘘ついたことある?

リコたん♪:うっわぁ~、マージかぁあああああ。ちょい行ってくる!


僕はちょっとあきれていた。


~と、言うよりは、多分嫉妬が入ってる。


送られてきた動画をまじまじ見ると、

日焼けで髪は痛んでいるけど、

今までホクロしか印象のなかった彼の顔は、くやしい程イケメンのるいだった。


動画にはリコやその友達たちの


「ヤバい!」


と言うつぶやきが至る所に入っていた。


唐突に、今までよく効くと言う以外の意識はなかった秘密の呪文の事を思い出し、

僕はちょっと気恥ずかしい気分になった。


その時急にジョーから電話がかかってきたので、僕は慌てた。


僕は急いで携帯を取ろうとしたはずみで、机の微妙な隙間すきまに消しゴムを落としてしまった。


呼び出し音も止まったので、僕は机をガタガタさせながら、

落とした消しゴムを必死に取ろうとしていた。


「イッチ、お前の姉貴分って子達が来てんだけど?」

机がガタガタする音

「う~ん。」

机がガタガタする音

「え?イッチ、何?」

机がガタガタする音

「んー、はぁはぁ、もうちょい、ああ。もうちょい。んー。はぁはぁ。」

机がガタガタする音

「え?アレ中?」

机がガタガタする音


その時メールの大きな着信音が聞こえ、携帯画面を見た僕は、

通話がONになっているのに気付いて、死んだ。


絶対何か誤解されるパターンだ、これ!


リコたん♪:ジョーさんがお前の弟分ヤバくない?だって!何かあった?


僕は茫然ぼうぜんと通話を切り、

やっと取れた消しゴムを握りしめながら、完璧に撃沈げきちんした。

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