第4話 真夜中の訪問者

「ぎゃははは!それマジ?アタシむしろ会ってみたい!」


「リコ、笑ってる場合じゃない!

講義ない日以外、僕、ずっとあの道通るんだよ?

アイツがいるんだよ?

どーすりゃいいんだよ?」


「いいじゃん、一郎!友達出来て!ぎゃはは!」


通話先のリコはラフな部屋着の姿で、

ベッドの上を最大級に笑い転げ回ってていて、息も出来ないようだった。


「ちょ、そいつイケメン?」

「写真ないの?見たい!」

「彼女とかいる?」


ついでに、一緒にいるらしい女友達たちの声も聞こえてきて、

好奇心に満ちた顔がチラチラ画面越しに現れた。


「あー、もういい!」


日曜日の夜、

僕は明日の月曜が不安になって、

コミュ力高いリコなら何か良い対応の仕方を知っているかもと相談したのだが、

答えは得られなさそうな上に、みんなジョーを紹介しろとばかりにくので、

あきらめてベッドに横になった。


そのまま眠って、どれくらいたっただろうか、

玄関の呼び鈴が1回鳴り、

次に激しくドアが叩かれ、僕は起きざるをえなかった。


部屋の灯りを点けて見ると、時計は午前3時を回っていた。


嫌な予感がしつつもドアを開けると、

そこにいたのは、やっぱりジョーで、

ズカズカと部屋の中に入ると、僕のベッドに直行して、

うつぶせに倒れると、そのまま寝始めた。


「ちょ、ジョー!おいってば!

寝るんなら家帰って寝ろよ!」


「泊めて?ここのが近かった。」


ジョーは明らかにグデングデンに酔っていた。


そして顔に、誰かに殴られたようなアザがあった。


「ジョー、そのアザ…どうしたんだよ?」


「え?あ?これ?殴られた。

俺、平日は居酒屋で

週末から日曜はホストのバイトしてんだけどさ、

VIPのババアの旦那が店来てさ、

ババアでなく俺を殴りやんの。

あんな歳で嫉妬って怖えぇ。

でもお陰でババアからめっちゃ金貰ったぁー!

高けぇボトルも沢山空けてもらったったぁ―!

ババァに感謝!」


ジョーは寝返って大の字になると、嬉しそうにそう言って、

手足をばたつかせた後、またパタンと眠って寝息を立てた。


「これ、僕のベッドなんだけど。」


僕は正直、とてもムカついていた。


僕のベッドが酒や汗やタバコの匂いで臭くなるのが嫌だったので、

もう意識のないジョーの上着とジーンズを脱がし、

手持ちの中で1番大きそうな上下スウェットを着せてから、

ハンドタオルを石鹸水で濡らして、彼の顔と髪を拭いた。


「母さん…」


ジョーが突然、彼を拭く僕の腕を掴んだ。


「…大丈夫だから…大丈夫…」


ジョーは、おそらく母親の夢だろう何かを夢見ながら、

眉間にしわを寄せて泣いていた。


僕はまだ彼の事は何も知らないけれど、

彼が彼の母親をとても愛している事だけは昔の記憶からも解っていた。


見た目も男らしく、性格も何も気にしなそうなジョーが泣くのを見て、

僕は何故か昔の僕の、幽霊のジョーと出会ったあの時、

僕が抱えていた痛みを思い出して、胸が痛くなった。


「チチンプイプイ、これでもう何でも大丈夫。」


僕は昔彼が僕にしたように、彼の母親直伝じきでんの秘密の呪文を、

寝ている彼のツラそうな額にキスして唱えた。 


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