第11話 銀色の髪の少女


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 ボンは“みんなで臆者を決める学校”へと戻っていた。

(僕は、駄目スキルを二つも授かった)

 五十肩。

 そして、めまい・強。

 しかし、そのおかげでどうやらキャワキャワを撃退できたらしい。

「あれがボン!・・・“臆者”の最大の候補?」

「あの簡単な試験を全科目零点・・・?」

「見ろ、あのやる気のない目とひょろひょろの体を! きのつるぎを持ち上げるのも苦労するそうだぜ!?」

「なんて弱そうで駄目そうなヤツなんだ!?」

「ボンのヤツ、【五十肩】なんて強力スキルで、次々に“最弱六公”に打ち負けているそうだな・・・」

「けど、ウチにも“虚弱七柱候補”がいるんだぜ・・・? そうそう転入生に“臆者”のポジションを渡すはずがないぜ・・・」

 奇妙な世界観のの世界。

 人々はみんな優しいけれど、少し肩透かしの気もする。

「おおっ、見ろよ! “虚弱七柱候補”の一人が、弓矢競技をしているぜ!?」

 ボンは校庭を見下ろす。

 そこには、銀色の髪をロングに伸ばした少女がいた。

 右眼は髪に隠れ、左目は憂いを持っている。

(美しい人だ・・・)

 ククレアの健康な美しさとはまた違う。

 まるで深夜の三日月のような、純粋で妖艶な美貌。

 その少女は、張り詰めた弓の弦を引いた。

 そして、矢を放った!

 それは寸分の狂いもなく、50メートル先の的の中心を射抜いた。

「すげえ! 射抜くなんて駄目だけど、あの子の場合カッコいい!」

「やっぱりカッコイイな、七柱は!」

 ボンは、

(あ・・・? ちゃんと的を射抜いているのに褒められている・・・?)

と期待を持った。

 この逆世界では、とことんまで駄目な人だけが褒められる・・・

 従って、ボンはかなりの高評価だ。

 けれど、折角中世ファンタジーの世界に来たのに物足らない部分も感じていた。

「フっ・・・黎明の時は来た。世界を超えた先に向かうとしよう」

 おお! なんか、それっぽいことを言ってる!

 ボンは校庭へと駆け出していった。

「はあっ、はあっ、すいません・・・」

 ボンは勢い込んで声をかけた。

 銀髪の謎の美少女は、

「どうかしたか?」

と返事をする。

「いえ・・・あなたは、どうやらこの逆世界の中では独特の雰囲気のようです・・・!」

ボンはそう言った。

「お主・・・まさか、ボン? 別の世界から来たという・・・」

「そうです!」

「かの“億者”になるというなら、この世界を侮らぬことだな。努々忘れることのないように、精進したまえ・・・」

(おお、なんか強そうだ!)

 ボンは内心で喜んでいた。

 そして、謎の銀髪の美少女は去っていった。

「やっぱり、この世界にも強そうな人がいるんだ・・・!」

 ボンは拳を握りしめた。

「ボンさん、こんな所で何を?」

 振り返るとそこには、カメラを片手に必死で脚立をセットしている、学生帽を深くかぶったククレアがいた。

「わ? その恰好は?」

「はい、今日は“敷地に入って撮ろうとする撮り鉄”になってみようかな、と思って」

 ククレアはなんとしてもダメになりたいようだ。

「ククレアさん、そんな駄目になろうとしなくていいんだよ!? 僕はさっき見た・・・物凄く強そうで立派な人をね」

「まあ、ボンさんも相変わらずおかしなことをいいますねえ・・・『強くて立派』なんて、あるはずがないのに・・・強さとはすなわち、最悪。弱者こそが正しい。それが常識です」

「いや、その先入観こそ間違いだよ! やはり、強くなることも大事なんだ・・・!」

 ボンはそう言った。

「ボン、そんなことより、“気弱な運動会”がそろそろ始まるのよ・・・?」

 そこには、城ケ崎がいた。

「この“気弱な運動会”では、どれだけ気弱か、脆弱か、そしてセンスが無いかを競う、アヴァンギャルドでナイーヴな運動会よ・・・! いくら、あなたと言えど、そうそう簡単に優敗できるワケじゃないわ」

「ゆ、優敗・・・?」

 そんな単語聞いた事もない。

「つまり、ダントツのビリになることです」

 ククレアはそう言う。

「特に、ボンの噂は広まっている・・・“脆弱七柱候補”の他も動き出しているというわ。特に“月の巫女”と称される彼女・・・あの子が敵に回るとなると、恐ろしいわよ?」

 月の巫女・・・ボンは一瞬、さきほどの銀色の髪の少女を思い出していた。

「まさか、あの子が・・・・? きっとそうだ。あの銀髪の女の子だよ」

「ボンさん・・・さきほどから随分とその子のことがお気に入りのようですね」

 ククレアは少しむっとしているようだ。

「まあ、それだけ銀髪の美人であれば仕方がないですよね。ずっとアップリケのついている私なんて、お邪魔のようですね!」

「ええ? ククレアさん? どうしたの?」

「・・・私は、運動会用の衣装に着替えてきます。失礼」

 ククレアは小走りで去っていったが、どことなく怒っている感じだ。


「ククレアさん・・・?」

「あーあ、デリカシーのないヤツねえ。とことんまで駄目人間なんだから」

 城ケ崎は呆れているようだ。

「えええ? どういうこと?」

「ククレアの気持ちを少しは分かってあげなさいな!」

「えええ? 僕が悪いの・・・?」

 なんだかさっぱりだ。

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